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接着剤・シーラントの仕様指定——銘柄か性能か、破壊様式まで決める

この記事のポイント(結論先出し)
接着剤を仕様で指定する方法は、銘柄(メーカーと品番)で決めるか、性能(どの試験で何を満たすか)で決めるかの二つに分かれる。性能で決めるなら「接着強さ ○ MPa 以上」だけでは足りず、試験方法の規格、被着材の材質と厚さ、硬化条件、そしてどこで壊れたか(破壊様式)まで書く。同じ接着剤でも被着材や表面の状態で強さが変わり[7]、界面で剥がれる接着はばらつきが大きいからである[9]。銘柄で決めた場合でも、硬化条件・表面処理・保管と使用期限は仕入先の工程に残るので、図面か購買仕様書に書いて変更を承認制にする。
目次
接着剤の指定が「エポキシ系」で止まっていると何が起きるか
図面の注記に「エポキシ系接着剤にて接着」とだけ書かれた部品は少なくない。この書き方で決まっているのは接着剤の大まかな系統だけで、どの製品を使うか、どの温度で何分硬化させるか、接着する前の面をどう処理するかは、すべて仕入先が決めることになる。仕入先が途中で別の製品に変えても、硬化の時間を短くしても、図面に反したことにはならない。
接着は、溶接やボルト締結と違って、出来上がった部品を外から見ても良し悪しが分からない。産業技術総合研究所の講演資料は、接着接合の短所として、硬化工程に時間がかかり高温や混合が必要な場合があること、強度のばらつきが大きいことを挙げている[9]。工程の条件で結果が変わるのに、外観では確かめられない。だから発注の段階で、何をもって合格とし、どの条件を勝手に変えてはいけないかを決めておく必要がある。
この記事は、接着剤とシーラント(すき間を埋めて液体や気体の漏れを防ぐ材料)を部品の仕様として指定する側の目線で、図面・購買仕様書に書くことと、受け入れるときに確かめることを整理する。接着剤そのものの化学や、粘着剤の配合設計には立ち入らない。
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銘柄で指定するか、性能で指定するか
指定のしかたは大きく二つある。どちらが正しいということはなく、部品の重要度と、発注側が評価の手間をどこまで持てるかで選ぶ。
| 項目 | 銘柄で指定する | 性能で指定する |
|---|---|---|
| 図面・仕様書に書くもの | 接着剤メーカー名と品番、硬化条件、表面処理 | 試験方法の規格、被着材と試験片、硬化条件、合格値、破壊様式 |
| 固定されるもの | 接着剤の製品そのもの | 結果として満たすべき値 |
| 評価の手間 | 発注側が最初に製品を評価して決める | 仕入先が試験し、発注側は結果を確かめる |
| 海外の仕入先・現地調達 | その品番が手に入らないことがある | 現地で入手できる製品から選べる |
| 起きやすい問題 | 品番は守られても硬化や表面処理の条件が変わる | 試験条件が書かれず、合格値の意味が仕入先ごとに違う |
銘柄で指定するのは、人の安全や漏れに関わる接合部や、発注側がすでに評価を済ませた製品があるときに向く。性能で指定するのは、汎用の接合で複数の製品から選ばせたいときや、海外の仕入先に現地で手に入る材料を使わせたいときに向く。性能で指定して製品を選ばせ、承認した時点で銘柄を固定するという組み合わせもできる。
樹脂材料で「○○社 △△ または同等品」と書くときの考え方は、樹脂のグレード指定と代替グレードの承認で扱っている。接着剤でも、同等とみなす条件を書かずに「同等品可」とすると、何をもって同等かを仕入先が決めることになる点は同じである。
性能で指定するなら、試験方法と被着材まで書く
接着強さの試験は力の向きで分かれている
接着剤の試験方法は JIS に数多く定められている。溶接学会誌の解説(2001 年)は、JIS 化されているものだけで分冊を含めて 39 の試験・測定方法の規格があり、ほとんどが ASTM(米国の規格)に準拠して制定され、国際規格との整合も考慮されていると説明している[6]。現在の規格の一覧は日本産業標準調査会の JIS 検索で確かめられる。たとえば JIS K 6850 は「接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法」、JIS K 6854 は 90 度・180 度・T 形・浮動ローラ法の 4 部に分かれた「はく離接着強さ試験方法」である[4]。
同じ解説によると、引張せん断試験は接着面に平行に力をかけ、約 1 分で壊れるような速度で引っ張り、壊れたときの力を接着面積で割って MPa で表す。試験片の幅に 25 mm が使われているのは、多くの試験法が ASTM に由来し、1 インチに相当する幅を採用しているためである[6]。はく離試験は引き剥がす力への抵抗を見るもので、角度の選び方は貼り合わせる材料の組み合わせで決まることが多い。硬い接着剤はせん断ではそこそこの強さが出ても、はく離には弱いことが多く、ゴム系のようにたわむ接着剤のほうがはく離では強い場合が多いとも書かれている[6]。
| 試験(規格番号) | 力のかけ方 | 結果の表し方 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 引張せん断(JIS K 6850) | 接着面に平行に引っ張る | 最大荷重 ÷ 接着面積(MPa) | 金属どうしなど剛い材料の重ね合わせ |
| はく離(JIS K 6854-1〜4) | 90 度・180 度・T 形などで引き剥がす | 荷重(N)または幅あたり(kN/m) | 剛い材料と柔らかい材料、柔らかい材料どうし |
| 引張(JIS K 6849) | 接着面に垂直に引っ張る | 最大荷重 ÷ 接着面積 | 突き合わせ接着。実用上の測定は少ない |
| 衝撃(JIS K 6855) | 振り子で衝撃を加える | 吸収エネルギー ÷ 接着面積(J/mm²) | 衝撃のかかる接合部 |
| 疲れ(JIS K 6864) | 引張せん断を繰り返す | 平均応力と破壊までの繰り返し数 | 振動や繰り返し荷重を受ける構造接着 |
表の「力のかけ方」「結果の表し方」「向く場面」は溶接学会誌の解説[6]、規格名は JIS 検索[1][3][4]による。発注側にとっての要点は、製品の接合部にかかる力の向きに近い試験を選ぶことである。剥がす向きの力がかかる部品の合格条件をせん断の値だけで決めると、試験には合格しても使用中に剥がれることがありうる。
同じ接着剤でも、被着材で数字が変わる
接着強さは接着剤だけで決まる値ではない。自動車用鋼板の接着継手を調べた研究では、引張せん断試験で鋼板が変形する場合、鋼板の降伏強さや板厚が大きいほどせん断強さが高くなり、鋼板が塑性変形しないほど十分に強い場合は一定の値になった[7]。合金化溶融亜鉛めっき(GA)鋼板の継手の静的強度はめっきなしの鋼板よりわずかに低く、めっき層の破壊は接着剤の種類や母材の性質、試験の種類に影響された[7]。
つまり「接着強さ ○ MPa 以上」と書くなら、どの材料のどの厚さの板で作った試験片の値かまで決めなければ、仕入先が出す成績と製品の接合部の強さがつながらない。接着剤メーカーのカタログ値は、メーカーが選んだ被着材と条件で測った値である。合格条件には、製品と同じ材質・同じ表面処理の被着材で作った試験片を使うよう書いておく。
試験片は「製品と同じ条件で硬化させたもの」にする
試験の規格は試験片の作り方や試験条件を定めているが、硬化の条件は接着剤によって違う。試験片だけ別の炉で丁寧に硬化させれば、製品より良い数字が出る。購買仕様書には「製品と同じ設備・同じ条件で硬化させた試験片で試験する」と書き、試験片を作った日時とロットを試験成績に記録させる。試験成績書に何を載せさせるかは量産承認で仕入先に何を出させるかで整理した提出物の考え方に合わせるとよい。
強さの数字と一緒に「どこで壊れたか」を決める
接着の試験で壊れた面を見ると、壊れ方は大きく三つに分かれる。日本溶接協会の溶接情報センターの解説は、①接着剤の中で壊れる凝集破壊、②接着剤と被着材の界面で壊れる場合、③被着材の内部で壊れる場合を挙げ、それぞれ改善の方向が違うと説明している[8]。凝集破壊なら表面や界面の状態をいくら改善しても無駄で、接着剤の物性や接着硬化条件を見直す必要がある。界面で壊れるなら、表面の構造を改善するか、表面の汚れのような相互作用を妨げる要因を取り除く。被着材の内部で壊れるなら、被着材の表面層を強くする必要がある[8]。
産業技術総合研究所の講演資料は、接着の信頼性への影響として、界面破壊は不安定な破壊でばらつきが大きく避けるべきもの、凝集破壊は接着剤の強度で決まりばらつきが小さいものと整理している[9]。壊れ方の名称は JIS K 6866「接着剤-主要破壊様式の名称」に定められている[1]。
発注側の実務としての提案は、受入試験や工程内の抜取試験の記録に、強さの値と並べて破壊様式を書かせることである。合格値を上回っていても、界面で剥がれていれば表面処理か被着材の状態が変わった兆候と読める。破壊様式の合否基準(たとえば「界面破壊でないこと」)を設けるかどうかは、部品の重要度と接着剤の性質で決める。規格が一律に求めるものではないので、図面か仕様書に自社の基準として書く。
硬化条件を図面か仕様書に書く
接着剤は、混ぜる・塗る・貼り合わせる・硬化させる、という工程を経て初めて性能が出る。この工程の条件は仕入先の現場で決まるので、書いておかなければ変わっても分からない。書いておく項目は次のとおりである。
1. 混合比と混合方法
二液形なら主剤と硬化剤の比率と、手で混ぜるのか計量混合機を使うのか。
2. 可使時間(ポットライフ)
混ぜてから塗布できなくなるまでの時間。多成分接着剤のポットライフの求め方は JIS K 6870 に定められている[2]。可使時間を過ぎた接着剤を使わないことを工程の決まりにさせる。
3. 塗布量と接着層の厚さ
塗布量は、溶接学会誌の解説が紹介する当時の一般試験方法(JIS K 6833)で、可使時間・接着強さ発現性・貯蔵安定性と並ぶ「使用条件に関する試験」の項目に入っていた[6]。塗布量が変われば接着層の厚さが変わるので、量か厚さのどちらかを決めて書く。
4. 硬化の温度・時間・湿度
「常温硬化」と書くだけでは、冬と夏で硬化の進み方が変わる。温度の範囲と、その温度での保持時間を書く。加熱硬化なら、炉の設定温度ではなく部品の温度で何分保つかを書く。
5. 次の工程へ進めてよい時期
強さが出る前に次の工程で力をかけると、見えないところで接着が傷む。硬化が終わったと判断する条件(時間か、試験か)を決める。
産業技術総合研究所の資料は、構造用接着剤の代表であるエポキシ系に加熱硬化型で冷蔵が必要なものがあると整理している[9]。保管温度が守られない接着剤は、硬化条件を守っても所定の性能が出ない可能性がある。保管の条件は次の節で扱う。
表面処理は接着剤と同じくらい仕様の一部
界面で壊れる接着の多くは、被着材の表面の状態に原因がある。産業技術総合研究所の資料は、表面処理の目的を、金属のさび・ほこり・塗料・薬品などの表面異物を除くこと(紙やすり・サンドブラスト・酸やアルカリの洗浄など)と、主に樹脂を対象に表面を活性化して濡れやすくすること(放電処理・フレーム処理など)の二つに分けている[9]。日本溶接協会の解説も、表面の清浄度を上げる方法に加え、凹凸を付け極性を高めるために火炎処理・オゾンと紫外線の照射・コロナ放電処理・プラズマジェット法などの処理を挙げている[8]。
JIS には、接着強さ試験の通則(JIS K 6848-1)とあわせて、接着前の金属とプラスチックの表面調整の指針(JIS K 6848-2)がある[3]。指針の中身は規格本文で確かめる必要があるが、発注側としては少なくとも次を仕様に入れておく。
- 表面処理の方法(脱脂の溶剤、研磨の番手、ブラストの研削材、プライマーの有無と品番)
- 処理してから接着するまでの時間の上限(処理した面は放置すると汚れる)
- 処理した面に素手で触れないこと、離型剤やシリコーンを含むものを同じ場所で使わないこと
- 被着材のめっき・塗装・成形品の離型剤など、前の工程の条件が変わったときに知らせること
最後の項目は見落としやすい。接着剤も表面処理も変えていないのに剥がれるようになったとき、原因は被着材の側にあることがある。めっきを外注している部品なら、めっきの仕様をめっきを発注するとき指定することで書いた形で固め、変更を知らせる対象に含める。
ロット・使用期限・保管を受入の確認項目にする
接着剤は時間とともに性質が変わる材料である。溶接学会誌の解説は、当時の一般試験方法の「使用条件に関する試験」に貯蔵安定性が含まれていたと説明している[6]。仕入先の工程で守らせることは、保管温度、開封後の扱い、使用期限を過ぎたものを使わないこと、先に入ったものから使うことである。
発注側が確かめる手段としては、部品の出荷ロットごとに、使った接着剤の品番・ロット番号・使用期限を記録させ、求めれば出せるようにしておく。接合部に不具合が出たとき、どのロットの接着剤で作った部品がどこにあるかを追えなければ、回収や選別の範囲が決められない。
老化(時間や温度・湿度で性能が落ちること)の評価が要る部品なら、標準の老化条件の選び方を定めた JIS K 6877 がある[2]。産業技術総合研究所の資料は、考慮すべき環境の負荷として、繰り返しひずみ、衝撃、静的な連続荷重(クリープ)、温度と湿度(水分)による接着剤の劣化と被着材の腐食、大気中の酸や塩分を挙げている[9]。製品が使われる環境のうち、どれが効くかを決めて、試験の条件に選ぶ。
変更の扱いは二か所で決める
接着剤まわりの変更は、二つの場所で起きる。一つは接着剤メーカーの側で、配合や製造場所が変わる。もう一つは部品の仕入先の側で、硬化炉の更新、表面処理の方法、プライマーの切り替え、作業者や治具の変更が起きる。後者は接着剤の品番が同じなので、購買の記録には何も残らない。
購買仕様書には、接着剤の品番だけでなく、上の「硬化条件」と「表面処理」の各項目を変えるときも事前に承認を得ることを書く。承認の判断は、最初に承認したときと同じ試験方法・同じ被着材で試験した結果と、破壊様式で行う。変更を拾う仕組みと契約上の手当ては、サイレントチェンジを避けるための契約上の工夫でも扱っている。
シーラントを指定するとき
シーラントは、強さよりも漏らさないことが目的なので、指定の軸が接着剤と違う。接着強さの代わりに、シールする相手(水・油・燃料・気体)、圧力、使用温度の範囲、動き(すき間が開閉するか)を条件に書く。JIS にも「建築用シーリング材」(JIS A 5758)のような規格はあるが、題名のとおり建築用であり[5]、機械部品のシールにそのまま当てはまるものではない。機械部品では、製品の漏れ試験(加圧して漏れの有無を見る試験)を合格条件にし、シーラントは銘柄で固定する指定が現実的なことが多い。
シーラントでも、塗布量(ビードの太さや位置)、硬化してから組み付けるまでの時間、はみ出しの扱い(拭き取るか、どこまで許すか)は仕入先の工程で決まる。はみ出しを外観の欠点として扱う場合は、外観の合否基準を仕入先と決めるときの考え方で、見る条件と許す範囲を決めておく。
よくある質問
接着剤メーカーのカタログ値を、そのまま合格値にしてよいですか
そのままでは避けたほうがよい。カタログ値は接着剤メーカーが選んだ被着材・表面処理・硬化条件での値で、製品の被着材が違えば強さも変わる[7]。カタログ値は製品を選ぶ参考にとどめ、合格値は製品と同じ被着材で作った試験片の値で決める。
受入のたびに破壊試験をしなければいけませんか
製品そのものを壊す必要はない。製品と同じ条件で作った試験片を一定の頻度で試験し、強さと破壊様式を記録させる方法がある。頻度は部品の重要度と生産量で決め、仕様書に書く。試験片が製品と同じ硬化条件で作られていることが前提である。
海外の仕入先で、指定した品番が手に入らないと言われました
性能での指定に切り替える場面である。現地で入手できる候補について、承認時と同じ試験方法・同じ被着材で試験した結果と破壊様式を出してもらい、承認したら品番を固定する。比べる前に、候補のデータの試験規格と条件がそろっているかを確かめる。
まとめ
接着剤は、品番を決めただけでは部品の性能が決まらない。銘柄で指定するときも、硬化条件・表面処理・保管と使用期限を仕様に書き、変えるときは承認を得ることにする。性能で指定するときは、製品の接合部にかかる力の向きに近い試験を選び、試験方法の規格・被着材の材質と厚さ・硬化条件をそろえた試験片で合格値を決める。強さの数字だけでなく、どこで壊れたかを記録させると、表面処理や被着材の変化に早く気づける。シーラントは強さより漏れで決め、塗布と硬化の条件を仕様に入れる。積層造形の部品を接着して組み立てる場合は、3D プリント部品を発注するときで書いた後処理の条件とあわせて決める。樹脂成形品の接着では、樹脂成形品の寸法公差の決め方で扱う寸法の出方が接着のすき間にも効く。
出典・参考資料
- JIS リスト(規格番号 K686 の検索結果)(日本産業標準調査会)
- JIS リスト(規格番号 K687 の検索結果)(日本産業標準調査会)
- JIS リスト(規格番号 K684 の検索結果)(日本産業標準調査会)
- JIS リスト(規格番号 K685 の検索結果)(日本産業標準調査会)
- JIS リスト(規格番号 A575 の検索結果)(日本産業標準調査会)
- 接着剤の試験方法(田中延宜/溶接学会誌 70 巻 4 号/2001 年)
- 自動車用鋼板の接着継手の静的強度と疲労強度に関する検討(富士本博紀ほか/溶接学会論文集 34 巻 2 号/2016 年)
- 接合・溶接技術Q&A Q-05-02-109 接着破面を基に接着性向上のために改善すべき点(一般社団法人日本溶接協会 溶接情報センター)
- 接着接合 ~から耐久性まで~(北條恵司/国立研究開発法人産業技術総合研究所/講演資料・発行年の記載なし)
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