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投稿日:2026年10月17日

インサート成形の発注で決めること——インサートの支給と寸法、抜け・割れ、防水の試験

この記事のポイント(結論先出し)

インサート成形を発注するときは、樹脂の部品だけでなく、中に入れる金属部品(インサート)を一つの部品として仕様に書く。誰がインサートを用意するのか、インサートの寸法と表面の状態、抜けと回りの強さを何で確かめるのか、防水が要るのか、の四つが決まっていないと、見積も不良の責任も決まらない。自動で金型に入れる工程では、入れる位置が 0.05〜0.1 mm 程度ずれただけでも入らなくなることがあると報告されている[2]。金属と樹脂は熱による伸び縮みが違うので、温度が変わるとインサートのまわりの樹脂に応力がかかり、割れの起き方はインサートの形と界面の接着の状態で変わる[4]。インサートの抜けにくさは樹脂と線材の組合せで違い、時間とともに下がっていくことも確かめられている[5]。インサート成形しただけで防水になるとは考えず、防水が要るなら試験の方法と場所まで決める[3]。

インサート成形で「何を買うのか」を先に決める

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インサート成形は、金属のナット・端子・ピン・ブッシュなどを金型の中に置き、そのまわりに樹脂を流して一体にする成形である。JIS K 6900(プラスチック-用語)は、インサートを「適当な位置に成形されているか又は成形操作完了後に成形品中に押し込まれる金属又はその他の材料からなる部品」と定義し、成形の間インサートの位置を決めて保持するピンをインサートピンと呼んでいる[1]。つまり用語の上では、成形と同時に埋め込むものも、成形のあとで押し込むものも、どちらもインサートである。

この記事で扱うのは、成形と同時に埋め込む場合である。成形したあとで熱や超音波で入れるインサートや、ねじ込むインサートの指定はねじ穴とインサートの図面指示と受入で扱った。同じ「インサート入り」でも、成形と同時に入れるのか、後から入れるのかで、金型も工程も費用も変わるので、見積を取る前にどちらなのかを図面か仕様書に書いておく。

インサート成形の当初の目的は、ナットを入れて組み付けに使う程度だったが、金めっきをした接点を溶着した複雑な形の部品を入れて、機能部品として付加価値を高める使い方も広がっている、と射出成形機メーカーの技術者は 1998 年の解説で書いている[2]。中に入るものが単純なナットから電気の接点に変わると、発注で決めることも増える。

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インサートを誰が用意するかを、最初に決める

インサートの手配には、大きく二つの形がある。発注側が金属部品を買って成形先に渡す形(支給)と、成形先が金属部品まで手配する形である。どちらにするかで、次のことの決め方が変わる。

1. 数量の余裕
支給する場合、成形の立ち上げや不良で使えなくなるインサートが出る。支給する数を注文数ちょうどにするのか、余裕を持たせるのか、使えなくなったインサートの扱いと費用を誰が持つのかを書く。

2. 支給品の受入
支給したインサートの寸法やめっきが原因で成形品が不良になったとき、成形先が受入でそれを見つけられる仕組みがないと、責任の切り分けができない。支給品について成形先が受入で見る項目(寸法・外観・めっきの有無など)を決めておく。

3. 支給の取引条件
有償で支給する場合は、支給品の代金をいつ差し引くのかが問題になる。有償支給の代金の扱いは有償支給材と金型代——発注側が踏みやすい禁止行為で取適法の決まりとあわせて扱った。インサートの支給も同じ考え方で整理する。

ここまでは発注側の進め方の提案で、規格や法令が決めている手順ではない。

インサートの寸法と曲がりは、金型に入るかどうかを決める

インサート成形では、インサートを金型の決まった位置に置いてから型を閉じる。先の解説は、自動でインサートを入れる工程で、金型の挿入位置から 0.05 mm から 0.1 mm 程度のずれが生じても、インサートが入らなくなることがあると書いている[2]。そのずれを吸収するために、ハンドの側に水平と角度の誤差を逃がす機構を付けるといった工夫が紹介されている[2]。

発注側から見ると、これはインサートそのものの寸法・曲がり・バリが、成形の歩留まりと費用に直結するということである。インサートの図面の公差を、組み付けに必要な精度だけで決めていると、金型に入れるときの精度が足りないことがある。インサートを新しく作るか、既存の部品を流用するかに関係なく、成形先に「この公差のインサートで金型に入るか」を見積の段階で確かめてもらう。

帯状の金属板(フープ材)を連続して送り、打ち抜き・曲げのあと金型に送り込んで樹脂を成形し、切り離すまでを一続きに行う方式(フープインサート成形)では、厚さ 0.15 mm 程度が自動化の限界だったところ、幅 14 mm・厚さ 0.05 mm の銅合金の板で自動化できた事例と、送りの繰り返し停止精度 ±0.02 mm が紹介されている[2]。薄い端子を入れる部品ほど、インサートの形状と供給の方式が成形先の設備に合うかを先に確かめておく必要がある。

仕様に書く項目

次の表は、インサート成形を発注するときに書いておきたい項目を、書かなかったときに起きることと並べたものである。数値の例は文中の資料にある値で、そのまま規格値として使えるものではない。

項目 書かなかったときに起きること 資料にある数値・事例
インサートの特定(図面番号・材質・表面処理) 仕入先ごとに違う前提の見積が並ぶ 金めっき接点を入れた機能部品の例[2]
インサートの寸法公差と曲がり 金型に入らず、自動化できない・歩留まりが落ちる 挿入位置のずれ 0.05〜0.1 mm 程度で入らなくなることがある[2]
抜けと回りの強さ、測り方 合否が決まらない。時間がたってから抜けて揉める 引抜き試験の引張速度 1 mm/min、2 年間の経時測定[5]
使う温度の範囲 温度変化でインサートまわりが割れる 埋め込んだ金属の形で割れ方が 2 種類に分かれた[4]
防水・気密の要否と試験 保持ピン跡や界面から水が入る 浸水の経路として 3 か所が挙げられている[3]
支給か手配か、余裕の数 使えなくなったインサートの費用で揉める (発注側が決める事柄)

温度が変わると、インサートのまわりに応力がかかる

金属と樹脂は、温度による伸び縮みの大きさが違う。エポキシ樹脂にアルミニウム片を埋め込んだ試験片に熱衝撃を与えた研究(1999 年)は、インサートとなる電極や半導体チップを埋め込んだ絶縁材料は、熱膨張の差による熱応力を必然的に受けると書いている[4]。この研究では、埋め込んだ金属が丸い形のときは円筒形に、角のある形のときは対角線の方向にき裂が進むという、2 種類の壊れ方が見られた。同じ丸い形でも、界面の接着を良くすると円筒形、悪くすると対角線形のき裂になった[4]。

研究は、き裂の対策として樹脂に無機の充填材を入れて線膨張係数を下げる方法や、樹脂のねばさを上げる方法が考えられてきたとしたうえで、製品の壊れ方を調べてき裂の原因となる応力集中の場所を推定し、その原因を直接取り除ける可能性がある、と結論している[4]。この研究は熱硬化性のエポキシ樹脂での結果で、射出成形の熱可塑性樹脂にそのまま当てはまるとは限らない。それでも発注側として押さえておきたいのは、インサートの角の形と、インサートの表面の状態(接着のしやすさ)が、割れ方を変えるということである。

実務では次のように扱う(規格の要求ではなく提案である)。

1. 使う温度の範囲を仕様に書く
屋外や車載のように温度の幅が大きい部品では、成形先に使用温度の範囲を伝え、温度を上げ下げする試験で割れが出ないかを確かめる条件を決める。温度を繰り返し変える試験の決め方は温度サイクル試験・熱衝撃試験を仕様に入れるときで扱う。

2. インサートの形を変えるときは承認を取る
インサートの角の面取りや表面の処理(ブラストなど)を変えると、割れ方が変わりうる[4]。インサートの仕入先が変わったときも、変更の連絡の対象に入れる。

抜けにくさは、樹脂と線材の組合せと時間で変わる

ワイヤーを入れて成形した部品について、ワイヤーの引抜き強さを 2 年間測り続けた研究がある[5]。この研究は、ワイヤーをつぶして引き抜けを防いでいる成形品が多いことを前置きしたうえで、つぶしのない真っすぐなワイヤーの引抜き強さを、引張試験機で引張速度 1 mm/min で測った。結果は次のとおりである[5]。

1. 組合せで違う
引抜き強さは樹脂と線材の組合せによって異なり、樹脂の含水率と線材の熱処理の有無が大きく影響した。

2. 時間とともに下がる
引抜き強さは時間の経過とともに指数関数的に下がり、その下がり方は樹脂の種類で大きく違った。成形直後は木粉入りのフェノール樹脂のほうがガラス繊維入りより強かったが、時間がたつとその関係は逆になった。

3. 線材の硬さで違う
線材の種類によって引抜き強さに差があった。

この研究も熱硬化性のフェノール樹脂の結果であり、数値を熱可塑性樹脂に持ち込むことはできない。発注で使えるのは考え方である。第一に、抜けにくさは成形した直後に測っただけでは分からない。製品の寿命の間に必要な強さがあるなら、成形直後の値に余裕を持たせるか、時間をおいた試験を決める。第二に、樹脂の含水率が効くので、樹脂の乾燥条件や樹脂のグレードを仕入先の判断で変えさせない。樹脂のグレードを変えるときの承認の手順は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認にまとめた。第三に、抜けを形で止めるのか(つぶし・ローレット・溝など)、樹脂の締め付けだけに頼るのかを図面で決める。

防水が要るなら、インサート成形だけで防水になると考えない

自動車用のセンサーで、コイルなどをインサートして外形を成形する部品について、自動車部品メーカーの技術者による報告(2002 年)は、通常の成形方法では水が入る場所として 3 か所を挙げている[3]。インサートを金型の中で支える保持ピンの跡、ケーブルを外に出す部分、先に成形した樹脂と後から成形した樹脂の界面である。従来は、O リングなどの部品を組み立てたり、ポッティング材(流し込んで固める樹脂)を注入したりして防水していた[3]。この報告は、成形の工程だけで防水できるよう、保持ピンを加熱して抜くなど温度の制御を工夫した技術を量産化したもので、成形の工夫なしに防水になったわけではない。

発注側としては、防水が要る部品なら次の三つを仕様に書く。防水が要る範囲(どこからどこまで水が入ってはいけないか)、試験の方法と条件、保持ピンの跡やケーブルの出口のように水が入りやすい場所を試験で確かめるかどうか、である。気密試験の方法と許容漏れ量の書き方は気密試験・リークテストを仕様に入れるときで扱った。

受け入れるときに確かめること

インサート成形品は、中のインサートが外から見えない。受入では外観と寸法だけでなく、次の点を決めておく。

1. インサートの位置
先の引抜き強さの研究では、成形品の中のワイヤーの位置を軟 X 線写真で確かめている[5]。中の位置が機能に効く部品なら、量産の初回や金型の修理の後に、X 線や切断で位置を確かめる頻度を決める。

2. 抜けと回り
引抜きや回り止めのトルクを、試験の方法・速度・個数・頻度まで決める。破壊試験になるので、抜取りの数と、試験に使う個数を誰が持つのかも書く。

3. 割れとバリ
インサートのまわりの割れ、インサートの表面に樹脂が回り込んだバリを外観の基準に入れる。外観の合否基準の決め方は外観の合否基準を仕入先と決めるにある。

寸法の公差の考え方そのものは、樹脂の部分については樹脂成形品の寸法公差の決め方で扱った。

二色成形との違い

硬い樹脂を先に成形しておき、それを別の金型に入れて柔らかい樹脂(熱可塑性エラストマー)を流して一体にする方法も、インサート成形の一つとして使われる。異なる樹脂を金型の中で一体にする方法には、この一次成形品をインサートする方法と、二色成形機で二つのシリンダーから交互に射出する方法の二つがある、と成形メーカーの解説(2000 年)は整理している[6]。中に入るのが金属ではなく樹脂の場合は、二つの樹脂がくっつくかどうか(材料の組合せ)が最初の問題になる。その指定は二色成形を発注するときで扱う。

よくある質問

インサートのナットが成形品から抜けました。どこまでが成形先の責任ですか

抜けの強さと測り方を発注時に決めていなければ、責任の線は引きにくい。引抜き強さは樹脂と線材の組合せや樹脂の含水率で変わり、時間とともに下がることも確かめられている[5]。次の発注からは、必要な強さ、試験の方法と時期(成形直後か、時間をおいてか)を仕様に書く。いま起きている件は、樹脂の乾燥条件やインサートの仕入先に変更がなかったかを先に確かめる。

インサートは自社で支給したほうが安くなりますか

部品代だけを見れば安くなることはあるが、支給品の受入、使えなくなったインサートの費用、支給品が原因の不良の扱いを決める手間が増える。インサートの寸法が金型に入るかどうかで歩留まりが変わるので[2]、支給する場合でも成形先と公差をすり合わせておく。

インサートの周りに細いひびが入ることがあります

金属と樹脂の熱膨張の差による応力が原因の一つとして考えられる[4]。使う温度の範囲、インサートの角の形、インサートの表面の状態を確かめ、温度を変える試験で再現するかを見る。原因が樹脂の残留応力か、使う環境の薬品かでも対策が変わるので、ひびの出た製品を残して成形先と一緒に調べる。

まとめ

インサート成形では、中に入れる金属部品も一つの部品として仕様に書く。誰が用意するのか(支給か手配か)を最初に決め、インサートの寸法と曲がりは金型に入るかどうかで決める。自動で入れる工程では 0.05〜0.1 mm 程度のずれで入らなくなることがある。金属と樹脂の熱膨張の差でインサートのまわりに応力がかかり、割れ方はインサートの形と界面の接着で変わる。抜けにくさは樹脂と線材の組合せと時間で変わるので、試験の方法と時期まで決め、樹脂の乾燥条件やグレードを勝手に変えさせない。防水が要るなら、保持ピンの跡・ケーブルの出口・界面を含めて試験の方法を決める。

同じ束では、二色成形、樹脂の押出成形(異形押出)、樹脂の切削加工、樹脂金型の鋼材(NAK80・HPM)の発注も扱う。金型そのものの発注で決めることは射出成形の金型を発注するとき決めることにまとめた。

出典・参考資料

  1. JIS K 6900:1994 プラスチック-用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1994 年 1 月 1 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  2. 下村徳和「最近のインサート成形」成形加工 10 巻 10 号(プラスチック成形加工学会/1998 年)
  3. 尾上勉ほか「インサート成形に防水シール性を付与する加熱ピン抜き成形技術」成形加工 14 巻 8 号(プラスチック成形加工学会/2002 年)
  4. 久保内昌敏ほか「エポキシ樹脂のアルミニウム片埋込モデルによる熱衝撃試験」ネットワークポリマー 20 巻 4 号(合成樹脂工業協会/1999 年)
  5. 植竹孝「ワイヤーインサート成形品の引抜き強さの経時変化について」熱硬化性樹脂 22 巻(合成樹脂工業協会)
  6. 小川典孝「異材質成形と携帯機器の筐体への展開と開発事例」成形加工 13 巻 3 号(プラスチック成形加工学会/2000 年)

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