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SMA400・SMA490(JIS G 3114)耐候性鋼の発注——WとPの違い、無塗装で使える環境とミルシート

この記事のポイント(結論先出し)
SMA は JIS G 3114(溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材)の鋼材で、種類は 14 あり、記号の末尾が W のものは通常は塗装しないか、さび安定化処理をして使い、P のものは通常は塗装して使うと規格の注記に書かれている[1]。W と P は化学成分の範囲が違い、W のほうが銅・クロム・ニッケルの範囲が高い[1]。A・B・C はシャルピー吸収エネルギーの区分で、B は 0 ℃ で 27 J 以上、C は 0 ℃ で 47 J 以上(厚さ 12 mm を超える鋼材に適用)、A には規定がない[1]。一方で、無塗装で長持ちするかは規格が保証することではない。飛来塩分の多い場所、凍結防止剤がかかる場所、湿気がこもったり塩分やごみがたまったりする形の部分では、保護性のさびができずに腐食が進むことがある[3][4]。検査文書は、特に指定がない限り製造業者が提出し、注文時に指定がなければ検査証明書 3.1 になる[1]。
目次
この記事の範囲
耐候性鋼は、少量の銅・クロム・ニッケルなどを含み、表面にできる緻密なさびの層で腐食の進みを抑える鋼材である[5]。橋が代表的な用途だが、屋外に置く架台・設備のフレーム・水槽や水管橋・建屋の外装材などにも使われている[5]。この記事は、こうした工業用途で SMA400 や SMA490 などを図面・注文書に指定するときに、規格で何が決まっていて、何を発注側が決めなければならないかを扱う。
暴露試験機(キセノンランプやサンシャインカーボン)で樹脂や塗膜の劣化を調べる「耐候性試験」は別の話で、耐候性試験(JIS K 7350-2・JIS B 7753)の指定で扱っている。普通の溶接構造用鋼 SM490 の A・B・C・YA・YB の選び方は SM490(JIS G 3106)の発注での指定にまとめた。ここでは、耐候性鋼に固有の W と P、成分、無塗装で使えるかどうかの判断に絞る。
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JIS G 3114 で決まること
JIS G 3114 の現行版は 2022 年の改正で、適用範囲は「橋梁,建築及びその他の構造物に用いる溶接性を考慮した耐候性熱間圧延鋼材」である[1]。対象は鋼板・鋼帯・形鋼・平鋼で、種類は SMA400AW・SMA400AP から SMA570W・SMA570P までの 14 種類と決まっている[1]。適用厚さは、SMA400 と SMA490 の A と B が 200 mm 以下(鋼板・鋼帯・形鋼・平鋼)、C と SMA570 が 100 mm 以下(鋼板・鋼帯・形鋼)である[1]。C と SMA570 には平鋼が含まれていないので、平鋼で C を指定しても規格の上では成り立たない。
記号の数字は引張強さの下限に対応している。SMA400 は引張強さ 400〜540 N/mm²、SMA490 は 490〜610 N/mm²、SMA570 は 570〜720 N/mm² で、降伏点又は耐力は厚さによって段階的に下がる[1]。引張強さの上限は鋼板・鋼帯・平鋼に適用され、形鋼については注文者が指定してもよい、とされている[1]。形鋼で上限まで押さえたいなら、注文書に書いておく必要がある。
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| 種類の記号 | 引張強さ N/mm² | 降伏点又は耐力(厚さ 16 mm 以下) | シャルピー吸収エネルギー(3 個の平均) | 適用厚さ |
|---|---|---|---|---|
| SMA400AW・AP | 400〜540 | 245 以上 | 規定なし | 200 mm 以下 |
| SMA400BW・BP | 400〜540 | 245 以上 | 0 ℃ で 27 J 以上 | 200 mm 以下 |
| SMA400CW・CP | 400〜540 | 245 以上 | 0 ℃ で 47 J 以上 | 100 mm 以下(平鋼を含まない) |
| SMA490BW・BP | 490〜610 | 365 以上 | 0 ℃ で 27 J 以上 | 200 mm 以下 |
| SMA570W・P | 570〜720 | 460 以上 | -5 ℃ で 47 J 以上 | 100 mm 以下(平鋼を含まない) |
表の値は JIS G 3114 の表 1・表 7・表 8 から抜き出したもので、SMA490 の A と C は省いた[1]。シャルピー吸収エネルギーの規定は厚さ 12 mm を超える鋼材に適用され、試験温度は受渡当事者間の協定でこれより低い温度に置き換えてもよく、注文者は表の値以上の吸収エネルギーを指定してもよい[1]。寒冷地の屋外設備などで低い温度での靱性を求めるなら、B や C を選んだうえで、試験温度と値を注文書で上乗せする。試験の指定と合否の見方はシャルピー衝撃試験(JIS Z 2242)の指定と合否判定で扱った。
W と P は「塗るか塗らないか」で選ぶ
W と P の違いは、規格の表 1 の注記にある。末尾が W の鋼材は通常、塗装しないか又はさび安定化処理を行って使用し、末尾が P の鋼材は通常、塗装して使用する[1]。「通常」と書かれているとおり、これは使い方の想定であって、P を無塗装で使うことや W に塗装することを禁じた規定ではない。ただ、成分の範囲がこの想定に合わせて分けられている。
表 2 の化学成分(溶鋼分析値)では、W の銅は 0.30〜0.50%、クロムは 0.45〜0.75%、ニッケルは 0.05〜0.30% で、P の銅は 0.20〜0.35%、クロムは 0.30〜0.55% で、ニッケルの規定がない[1]。炭素は全種類 0.18% 以下、りん・硫黄は 0.035% 以下である[1]。無塗装でさびの層に防食を任せる用途なら W、塗装を前提にする用途なら P、という使い分けになる。
ここで発注側が決めるのは、記号の W か P かだけではない。W を無塗装で使うのか、さび安定化処理をするのかで、仕上げの指示が変わる。さび安定化処理という言葉は規格の注記に出てくるが、処理の中身の定めはない[1]。使うなら処理の種類と範囲を図面に書き、塗装の仕様と同じように膜厚や仕上がりの見方を決めておく(当方の提案)。塗装の仕様の決め方は塗装の仕様の決め方——膜厚・色・光沢・付着性を試験方法までで扱った。
無塗装で使えるかは、規格の外で判断する
JIS G 3114 は成分・機械的性質・溶接性・寸法を決める規格で、置かれた環境で何年さびが安定するかは決めていない[1]。無塗装で使えるかどうかは、使う場所の腐食環境で判断することになる。
日本では、耐候性鋼を無塗装で使う目安として、飛来塩分量が 0.05 mg NaCl/dm²/day(mdd)以下の地域という考え方が使われてきた。材料と環境に掲載された論文は、JIS G 3114 の鋼材(JIS-SMA)について、1982 年にまとめられた共同研究の成果をもとに、飛来塩分量 0.05 mdd 以下の地域を適用の目安としたと説明している[3]。これは橋の分野で決められてきた目安で、工業用の架台や設備にそのまま当てはめてよいという規定ではない。道路橋の基準の原文では、海岸からの距離による判断なども決められているが、この記事では原文を確かめていないので数値を出さない。
目安の地域の中でも、局所的にさびが安定しないことがある。国土交通省近畿地方整備局の研究会で公開された研究成果の概要は、飛来塩分が少ない地域では無塗装で耐候性鋼材を使うことができる一方で、凍結防止剤の散布や、湿気がこもりやすい構造、塩分やごみの堆積といった局所的な腐食環境の変化によって、保護性さびが生成されずに腐食損傷する場合があると述べている[4]。工場の設備に置き換えると、次のような場所が当てはまる。
- 洗浄水・薬液・冷却水がかかる場所、結露が続く屋内外の境目
- 凍結防止剤をまく道路や駐車場の近く、融雪水が流れ込む場所
- 水が抜けない溝・袋状の部材・重ね合わせの隙間
- 粉じんや落ち葉がたまり、湿ったまま乾かない水平面
- 海岸に近い工場、塩を扱う工程の周り
こうした場所に W を無塗装で使うなら、設計で水を抜く形にするか、その部分だけ塗装する、あるいは別の防食方法にする。溶融亜鉛めっきとの比較で選ぶなら、溶融亜鉛めっき(JIS H 8641)の指定も読んでおくとよい。
実際の構造物の例として、水道技術研究センターの解説は、建設から約 20 年たった無塗装の耐候性鋼材の水管橋・配水池・高架水槽の外面を調べた結果、外観にさびこぶがなく、さびの厚さはいずれも 400 μm 以下で正常な状態と判定されたと紹介している[5]。同じ解説は、付着塩分の測定を行う理由を、塩化物イオンが保護性のさびの層を破壊するためと説明し、適用に際しては事前に飛来塩分量の確認が要る地域もあるとしている[5]。うまくいった例は、適用の判断をしたうえでの結果であって、どこでも同じになるという意味ではない。
溶接性と熱処理の指定
JIS G 3114 は溶接性の評価指標として炭素当量を使い、受渡当事者間の協定によって炭素当量に代えて溶接割れ感受性組成(Pcm)を使ってもよいとしている[1]。上限が決まっているのは、焼入焼戻しを行った SMA570W・P(炭素当量は厚さ 50 mm 以下で 0.44% 以下、50 mm 超え 100 mm 以下で 0.47% 以下)と、協定によって熱加工制御(TMC)を行った SMA490 の鋼板である[1]。SMA400 と、熱加工制御をしない SMA490 には炭素当量の上限がない。
熱処理は「必要に応じて」行ってよく、行った場合は記号の末尾に N(焼ならし)、T(焼戻し)、Q(焼入焼戻し)、TMC(熱加工制御)などを付ける[1]。焼ならし・焼戻し・熱加工制御は協定で行うものなので、指定したい場合は注文時に書く。
溶接部も無塗装で使うなら、溶接金属も母材と同じようにさびが安定する必要がある。溶接材料の選び方は JIS G 3114 の範囲外なので、仕入先の溶接施工要領で、耐候性鋼に合わせた溶接材料を使うかを確かめる(当方の提案)。溶接を含む部品の発注で指定する施工要領・資格・検査は溶接を含む部品の発注で指定することで扱った。
ミルシートで確かめること
JIS G 3114 の箇条 15 は、製造業者は特に指定のない限り検査文書を注文者に提出しなければならないとし、注文時に特に指定がない場合は JIS G 0415 の検査証明書 3.1 によるとしている[1]。検査証明書 3.1 は、製造業者が受渡検査の結果を記載して注文書の要求事項に適合していることを宣言し、製造部門から独立した検査代表者が妥当性を確認する文書である[2]。
確かめる項目は次のとおり。
- 種類の記号の末尾(W か P か、A・B・C の区分、熱処理の記号)
- 化学成分の銅・クロム・ニッケルが表 2 の範囲に入っているか
- B・C・SMA570 で厚さ 12 mm を超えるものは、シャルピー吸収エネルギーの値と試験温度
- 表 2 の注によって合金元素を添加した場合は、その分析値。炭素当量や Pcm を適用した場合は、計算式に含まれる元素の分析値(規格が報告を求めている)[1]
切板や加工品を中間業者や加工業者から買う場合は、ミルシートがそのまま付いてこないことがある。JIS G 0415 は、中間業者や加工業者が交付する検査文書について別に定めている[2]。製造業者の検査文書の写しが必要なら、注文時にその旨を書く。ミルシートの区分の読み方は EN 10204 のミルシート区分を正しく理解するを参照してほしい。
発注書に書くこと
注文書の様式は決まっていない。書いておきたい内容を一つの例にまとめる。
「材質:JIS G 3114 SMA490BW(無塗装使用)/形状:鋼板 t16×1,524×3,048 mm/シャルピー:規格どおり(0 ℃・3 個の平均 27 J 以上)/検査文書:JIS G 0415 検査証明書 3.1(製造業者発行のもの、写し可)/溶接:耐候性鋼用の溶接材料を使用し、施工要領を事前に提出/表面:黒皮のまま、さび安定化処理なし」
例に書いた「無塗装使用」は規格の項目ではなく、使い方を仕入先と共有するための書き方である。無塗装で使う部品か、塗装する部品かを書いておくと、仕入先が W と P の取り違えに気付きやすくなる。P を選んだのに塗装の指示が抜けている、W を選んだのに塗装の指示がある、という食い違いは、どちらかの指定の間違いであることが多いので、注文前に図面と突き合わせる。
よくある質問
Q. SS400 や SM490 を塗装したものと比べて、どちらが長持ちしますか。
環境と維持の仕方で決まるので、一般論では言えない。耐候性鋼が無塗装で長持ちするのは、保護性のさびができる環境に置いた場合で、塩分や水がたまる場所ではそうならないことがある[4]。塗装の塗り替えを避けたい理由があるかどうかと、置く場所の条件で比べる。
Q. W を少しだけ塗装して使ってもよいですか。
規格は使い方の想定を注記で示しているだけで、塗装を禁じていない[1]。水がたまる部分だけ塗装する、といった使い方は設計の判断になる。塗装する範囲を図面で明確にする。
Q. 形鋼や平鋼でも SMA はありますか。
ある。ただし C と SMA570 の適用は鋼板・鋼帯・形鋼で、平鋼は含まれていない[1]。辺が 40 mm 未満の形鋼や幅が 40 mm 未満の平鋼は、機械的性質が附属書 JA の表になる[1]。小さな形鋼や平鋼で指定するときは、どの表が当たるかを確かめる。
Q. 寸法の許容差はどこを見ればよいですか。
JIS G 3114 は形状・寸法・質量の許容差を JIS G 3192(形鋼)、JIS G 3193(鋼板・鋼帯)、JIS G 3194(平鋼)によるとしている[1]。鋼板の板厚の許容差は鋼板の板厚公差 JIS G 3193で扱った。
まとめ
SMA を指定するときは、W と P のどちらを選ぶかを、塗るか塗らないかで決める。W と P は成分の範囲が違うので、後から使い方を変えると想定から外れる。A・B・C は靱性の区分で、寒冷地や衝撃を受ける部材では B・C を選び、必要なら試験温度と値を上乗せする。無塗装で長持ちするかは規格の外の話で、飛来塩分・凍結防止剤・水や塩分のたまりやすい形を設計段階で確かめる。ミルシートは指定がなくても出てくるが、W と P、A・B・C、合金元素の分析値を確かめ、中間業者から買うなら製造業者の文書の写しを求めておく。同じ束では、耐摩耗鋼板の発注、軽量形鋼 SSC400 の発注、工場で使うグレーチングの発注も扱っている。
出典・参考資料
- JIS G 3114:2022 溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
- JIS G 0415:2024 鋼及び鋼製品-検査文書(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 6 月 20 日改正)
- 鹿毛勇ほか「実暴露試験に基づくニッケル系高耐候性鋼の長期腐食量予測」(材料と環境 第 55 巻 第 4 号/2006 年)
- 海岸近接部において耐候性鋼材(無塗装仕様)を使用する橋梁の環境計測技術に関する研究 研究成果の概要(国土交通省近畿地方整備局 公開資料/平成 30 年度)
- Q&A 耐候性鋼材の耐久性について(水道技術研究センター/出典 水道技術ジャーナル 2007 年 4 月)
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