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減速機(ギヤードモータ)の選定と発注——JIS B 1754・B 1753 の受入検査と負荷条件の伝え方

この記事のポイント(結論先出し)
減速機(歯車装置・ギヤードモータ)には、製品としての寸法や定格を定める JIS が無い。JIS にあるのは歯車の精度(JIS B 1702-1)や負荷容量計算の材料強度(JIS B 1755)、受入検査の騒音(JIS B 1753)と振動(JIS B 1754)の測り方である[1][2][3][4]。型番の選定は製造業者の選定手順で行われ、その入口は買う側が出す負荷の条件になる。あるメーカーの技術資料では、所要動力にサービスファクタ(1 日の運転時間と衝撃の程度で 1.0・1.4・2.0 に区分)を掛けて減速機の大きさを選び、出力軸の許容ラジアル荷重は駆動方法と荷重の位置で補正している[5]。受入で振動を確かめたいなら、測定の種類と受入基準を交渉の初期に製造業者と合意しておくのが望ましいと JIS B 1754 は書いている[3]。騒音は JIS B 1753 が、申告や比較のための測り方と試験条件を定めている[4]。クレーンなど荷を吊る用途は、選定を製造業者に照会する[5]。
目次
この記事が扱う範囲
減速機は、モーターの回転を歯車で落としてトルクを増やす装置である。モーターと一体になったものはギヤードモータと呼ばれる。装置の部品としてはカタログから型番で選ぶことが多いが、型番を選ぶ計算に入る数字のほとんどは、使う側の機械の条件である。この記事は、工業用の減速機・ギヤードモータを装置の部品として選び、発注するときに、何を製造業者に伝え、何を受入で確かめるかに絞る。モーター側の仕様の書き方はモーターの仕様書に書くことで扱った。
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減速機の製品規格は JIS に無い
日本産業標準調査会の JIS 検索で、規格名称に「減速」を含むものを引くと該当が無い。「歯車装置」で引くと、受入検査の 2 規格(JIS B 1753・JIS B 1754)だけが出てくる。「歯車」で引くと、歯車の用語・記号・歯形・精度・測定機・負荷容量の材料強度などの規格が並ぶが、減速機という製品の寸法・定格・形式を決める規格は無い。減速機に関係する主な JIS は次のとおりである。
| 規格 | 決めていること | 発注での使いどころ |
|---|---|---|
| JIS B 1702-1:2016 | 円筒歯車の歯面の精度等級(1 級〜11 級)と許容値 | 歯車単品で買う・作らせるときの精度の指定 |
| JIS B 1755:1999 | 平歯車・はすば歯車の負荷容量計算に使う許容応力と、材料品質・熱処理の要求 | 歯車の強度計算の前提を確かめるとき |
| JIS B 1753:2013 | 歯車装置とギヤモータが放射する空気伝ぱ音の決め方と試験条件 | 騒音の申告値を求める・比べるとき |
| JIS B 1754:1998 | 密閉型の増速・減速歯車装置の機械振動の測り方と振動等級 | 受入検査で振動を確かめるとき |
表の内容はそれぞれの規格の適用範囲から要約した[1][2][3][4]。JIS B 1702-1 は精度等級を 1 級から 11 級とし、表面性状は適用範囲外としている[1]。JIS B 1755 は ISO 6336-5 に対応し、ISO 6336-2・6336-3 の計算方法に用いる応力値を定める[2]。どちらも歯車の規格で、減速機をカタログで選ぶときに直接使う場面は少ない。歯車単品の精度の指定は歯車の精度等級を指定するときで扱った。
製品規格が無いということは、減速機の「定格出力」「許容トルク」「許容ラジアル荷重」は、すべて製造業者がそれぞれの前提で示す値だということである。製造業者を替えると、同じ「1.5 kW 用」でも前提が違うことがある。仕様書には、型番ではなく、型番を選ぶための条件を残しておく。
選定の入口は、買う側が出す負荷の条件
製造業者の選定手順は、最初に使う側の条件を確かめるところから始まる。三菱電機のギヤードモータの技術資料(以下「ある製造業者の資料」)の選定フローは、電源定格(電圧・周波数・相数・インバータ駆動の有無)、使用環境(屋内外・周囲温度・防塵防水防食・防爆区域かどうか)、相手機械の仕様(負荷の慣性モーメント、負荷トルク、運転頻度、回転速度、用途、ブレーキの有無、取付方法)を挙げ、そのうえでモータ出力の算出、サービスファクタの決定、許容トルクとラジアル荷重、ブレーキ特性のチェックへ進む形になっている[5]。
このうち、製造業者が自分で決められるものは一つも無い。負荷のトルクと慣性、運転の頻度、取付けの方法は、装置の設計側にしか分からない。発注書や見積依頼に「ギヤードモータ 0.75 kW、減速比 1/30」とだけ書くのは、選定の計算を相手の推測に任せることになる。
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サービスファクタ:運転時間と衝撃で大きさを割り増す
同じ資料は、減速機部の大きさは被動機により異なる種々の荷重条件を考慮し、定常的荷重条件に換算した出力相当の機械的強度を持つものを選定する必要がある、とし、「定常荷重条件に換算した出力(kW)=所要動力×サービスファクタ」としている[5]。サービスファクタは 1.0・1.4・2.0 の 3 区分で、1 日の運転時間(3 時間以下の間欠運転、3〜10 時間、10 時間以上の連続運転)と荷重の状態(衝撃のない一定荷重から厳しい衝撃荷重まで)の組合せで決まる[5]。
たとえば同じ資料の区分では、10 時間以上の連続運転で衝撃のない一定荷重なら 1.0、3 時間以下の間欠運転でも厳しい衝撃荷重なら 1.4、10 時間以上の連続運転で中程度の衝撃荷重なら 2.0 になる[5]。同じ「中程度の衝撃荷重」でも、3〜10 時間の連続運転なら 1.4 で、運転時間が長いほど割り増しが大きい[5]。なおこの資料では、サービスファクタの区分ごとに適用する機種の系列が分かれている[5]。区分の切り方と数値は製造業者ごとに違いうるので、別の製造業者の型番に替えるときは、その製造業者の表で読み直す。いずれにしても、1 日の運転時間と衝撃の程度を書かなければ、サービスファクタは決まらない。
出力軸のラジアル荷重:駆動方法で許容値が変わる
出力軸にスプロケットやプーリーを付けると、軸を横に押す力(ラジアル荷重)が掛かる。同じ資料は、カタログの許容ラジアル荷重は単列チェインで駆動し、荷重が出力軸の中央に作用した場合の値であるとし、駆動方法と荷重の作用位置が違うときは許容値を修正するよう求めている[5]。駆動方法による修正係数は、単列チェイン 1.0、複列チェイン 1.25、V ベルト 1.5、平ベルト 2.5、歯車 1.25 である[5]。
係数の使い方は製造業者の資料に従うが、ここで分かるのは、ベルト駆動のように張力で軸を引く方式ほど、同じ伝達力でも軸に厳しいということである。仕様書には、出力軸に何を付け、どの位置に荷重が掛かるかを書く。チェーン駆動の場合のチェーン側の選び方はローラチェーン JIS B 1801 の呼び番号と選び方を参照してほしい。
始動の頻度と負荷の慣性
同じ資料の選定フローには、許容始動(制動)回数のチェックと、許容始動頻度(熱容量)のチェックがある[5]。頻繁に起動・停止を繰り返す搬送装置では、トルクが足りていても、始動のたびに出る熱や衝撃で選び直しになることがある。資料の選定例でも、コンベアの用途で、始動停止頻度 5 回/時間を伴い 10 時間/日稼動、と運転パターンを数字で書いている[5]。発注側は、1 時間あたりの始動回数と、負荷の慣性モーメント(または動かす物の質量と寸法)を書く。
危ないところ:止めておく必要がある軸と、吊り上げる用途
同じ資料の選定例は、「停止時の保持は不要であり、ブレーキ無しとする」と、ブレーキを付けない理由を書いてから選んでいる[5]。裏を返すと、停止中に荷を保持する必要がある軸(上下に動く軸、傾斜したコンベアなど)では、ブレーキの有無を選定の条件として最初に決める必要がある。減速機の歯車がかみ合っていることや、減速比が大きいことを、保持の手段として当てにしない。これは発注側としての確認の提案だが、仕様書には「停止時に保持が要るか」を必ず書く。
また同じ資料は、クレーン用途で使う場合は照会するよう書いている[5]。荷を吊る用途は、通常の選定表の外で扱う、ということである。吊り上げに使う装置では、カタログの選定表だけで型番を決めず、用途を伝えて製造業者に確かめる。
受入で振動・騒音を確かめるなら、JIS B 1754・B 1753 で条件を合わせる
減速機の受入でよく問題になるのが、音と振動である。JIS にはこの二つの測り方がある。どちらも「何 dB 以下」「何 mm/s 以下」を一律に決める規格ではなく、測り方と、受入基準を当事者で決めるための枠組みである。
振動:JIS B 1754
JIS B 1754 は ISO 8579-2 を翻訳した規格で、個々に箱に入れられた密閉型の増速・減速歯車装置の機械振動を測る方法と、受入れのための振動等級値を定める[3]。設計された速度・荷重・温度範囲・潤滑法の範囲内で、製造業者の設備で受入検査される歯車装置にだけ適用し、圧縮機やポンプなどに一体で組み込まれた特殊な歯車装置には適用しない[3]。そして、振動測定には特殊条項が要求されることがあるので、測定の種類と受入基準は交渉の初期の時点で製造業者と使用者との間で合意されていることが望ましい、としている[3]。
試験の条件は、製造業者と使用者の間で他に合意が無い限り、設計された速度(可変速なら速度範囲の算術平均)、設計された回転方向(正逆運転なら両方向)、無負荷または安定化のための軽負荷、実際の潤滑装置と運転状態に対応した潤滑油粘度、設計された温度範囲での運転、である[3]。試験系は、実際に使われる継手か、等価のオーバハング質量をもつ継手で結合する[3]。
歯車箱の振動は軸受台のような剛性の高い部分で、直交する 3 方向で測り、軸受を支持していない部分での測定は行ってはならない。手持ちの接触式振動計は認められない[3]。個々の歯車装置の許容等級値は、交渉の初期の段階で合意した測定法に基づき、規格の等級線図から選ぶことが望ましい、とされている[3]。
ここから発注で押さえることが三つ出てくる。一つめは、受入基準を後から付けない。見積の段階で、JIS B 1754 による振動測定を行うか、どの等級線を受入基準にするかを書く。二つめは、無負荷の工場試験の値と、現場で負荷をかけた値は違う。規格自身が、受入検査の運転条件が実際の使用条件と著しく異なる場合はその相違を考慮しなければならない、と書いている[3]。三つめは、試験報告の中身を指定する。規格は報告に、歯車装置の形式、運転と測定のデータ(据付けと軸継手の特性を含む)、測定点の配置、測定機器、測定値(オーバオール値、主要な周波数成分と振幅、狭帯域スペクトルのいずれか)を含めるとしている[3]。
騒音:JIS B 1753
JIS B 1753 は ISO 8579-1 に対応し、歯車装置とギヤモータが放射する空気伝ぱ音を決めるための方法と標準的な条件、試験に用いる運転条件と設置条件を定める。放射音の特性は、規定された位置での放射音圧レベルと音響パワーレベルで表す[4]。規格は目的として、製造業者が放射音を申告できること、実働での放射音を比較すること、設計段階で騒音を制御することを挙げ、許容する測定方法を実用測定方法(等級 2)と簡易測定方法(等級 3)としている[4]。
カタログや見積に「騒音 ○○ dB」とあっても、どの位置で、どの測定方法の等級で測った値かが分からなければ比べられない。騒音を比べるときは、JIS B 1753 による申告値か、測定位置と等級を書いてもらう。現場で装置全体の振動や騒音を測って原因を探す話は機械・設備の振動解析を頼むときで扱った。
仕様書・見積依頼に書く項目
決まった様式があるわけではない。ここまでの話から、減速機・ギヤードモータの見積依頼に書いておきたい項目を一つにまとめる。
1. 電源と駆動
電圧・周波数・相数、インバータで駆動するか。モーター側の書き方は別記事のとおり。
2. 出力軸の回転速度と減速比
必要な出力軸の回転速度。減速比で書く場合は、モーターの極数(同期速度)も書く。
3. 負荷
負荷トルク(常用・最大)、負荷の慣性モーメント(または動かす物の質量と寸法)、衝撃の程度。
4. 運転のパターン
1 日の運転時間、1 時間あたりの始動回数、正逆転の有無。サービスファクタと熱容量の判断に要る。
5. 出力軸の取付け
カップリング直結か、チェーン・ベルト・歯車で駆動するか、荷重の位置。軸継手の選び方は軸継手の種類と選び方を参照。
6. 保持とブレーキ
停止中に荷を保持する必要があるか。荷を吊る用途か。
7. 取付け姿勢と環境
脚取付・フランジ取付、軸の向き、屋内外、周囲温度、粉じん・水・腐食。
8. 潤滑と保守
潤滑油・グリースの種類と交換の考え方を製造業者に示してもらう。食品機械など潤滑剤の区分に条件がある場合は書く。潤滑剤の指定は潤滑油・グリースの指定で扱った。
9. 受入検査
振動(JIS B 1754)・騒音(JIS B 1753)の測定を求めるか、受入基準、試験報告の内容。
受け取るときに確かめること
1. 型番と銘板
減速比、出力、電源の仕様が注文どおりか。
2. 選定の根拠
製造業者に選定を任せた場合は、使ったサービスファクタ、許容トルク・許容ラジアル荷重に対する余裕、始動頻度の検討結果を書面でもらう。型番を替えるときの比較の材料になる。
3. 試験報告
振動・騒音の試験を求めた場合は、運転条件(速度・負荷・潤滑油温度)と測定点が合意どおりか。
4. 潤滑剤
出荷時に封入・注油済みか、現地で給油するか。給油口・排油口の位置が取付け姿勢と合っているか。
よくある質問
減速機に JIS 規格品はありますか
減速機という製品の寸法・定格を決める JIS は無い。歯車の精度や負荷容量の材料強度、受入検査の振動・騒音の測り方の JIS がある[1][2][3][4]。製品の定格は製造業者の資料で確かめる。
サービスファクタはどの製造業者でも同じ値ですか
同じとは限らない。ある製造業者の資料では 1 日の運転時間と荷重の状態で 1.0・1.4・2.0 に区分しているが[5]、区分の切り方と値は製造業者の表で確かめる。どの製造業者でも、運転時間と衝撃の程度を伝えないと決まらない点は同じである。
振動の受入基準は後から決めてもよいですか
JIS B 1754 は、測定の種類と受入基準を交渉の初期に合意することが望ましいとしている[3]。納入後に基準を付けると、試験の条件(無負荷か、どの測定点か)から食い違う。見積の段階で書く。
まとめ
減速機・ギヤードモータには製品としての JIS が無く、定格は製造業者の前提で示される。JIS にあるのは歯車の精度、負荷容量の材料強度、受入検査の振動と騒音の測り方である。選定は買う側が出す負荷の条件から始まり、ある製造業者の資料では、所要動力にサービスファクタを掛けて大きさを決め、出力軸のラジアル荷重は駆動方法と荷重位置で補正し、始動回数と熱容量も確かめる。停止中の保持が要る軸ではブレーキを最初に決め、荷を吊る用途は製造業者に照会する。振動を受入で確かめるなら JIS B 1754 の測り方と受入基準を、騒音を比べるなら JIS B 1753 による測定位置と測定方法の等級を、見積の段階で決めておく。
同じ束では、軸継手、ボールねじの精度等級、ガススプリング、防振ゴムの発注も扱う。
出典・参考資料
- JIS B 1702-1:2016 円筒歯車-精度等級-第 1 部:歯車の歯面に関する誤差の定義及び許容値(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2016 年 4 月 20 日改正・2021 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1755:1999 平歯車及びはすば歯車の負荷容量計算方法-材料の強度及び品質(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1999 年 1 月 20 日制定・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1754:1998 歯車装置の受入検査-第 2 部:歯車装置の機械振動の測定方法及び振動等級の決定(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1998 年 3 月 20 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1753:2013 歯車装置の受入検査-空気伝ぱ音の試験方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2013 年 11 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- 三菱電機 ギヤードモータ カタログ 技術編(選定・サービスファクタの決定・出力軸許容ラジアル荷重)(三菱電機/製造業者の技術資料・2026 年 10 月 17 日に PDF を確認)
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