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投稿日:2026年8月28日 | 更新日:2026年8月31日

違反するとどうなるか——申告から立入検査・勧告・公表まで

この記事のポイント(結論先出し)

取適法違反は、取引先からの申立てだけで発覚するわけではない。公正取引委員会と中小企業庁が毎年数十万名規模の定期調査を実施しており、そこから調査に入る経路が実際にある。調査の結果は、指導、勧告、そして勧告に伴う事業者名の公表へと進む。勧告に従わなければ独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令があり得る。明示義務違反と記録の保存義務違反、報告拒否、立入検査の妨害は50 万円以下の罰金で、法人と担当者の両方が罰せられる。一方、調査に着手される前に自分から申し出て是正すれば、勧告を受けないという取扱いが公表されている。

違反が見つかる 5 つの経路

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公正取引委員会と中小企業庁が公表しているテキストには、事件処理のフローチャートが載っている[1]。調査の入口として並んでいるのは、委託事業者と中小受託事業者に対する定期調査、中小受託事業者等からの申立て、委託事業者からの自発的な申出、中小企業庁長官からの措置請求、そして当該取引に係る事業の所管官庁や関係公的機関からの通知の 5 つである[1]

取引先が声を上げなければ表に出ない、と考えるのは実態と合わない。むしろ数のうえで大きいのは定期調査である。

定期調査の規模

テキストは、公正取引委員会と中小企業庁が委託事業者およびその取引先を対象に定期的な調査を実施して違反行為の発見に努めている、と述べたうえで、令和 6 年度の実績を示している。親事業者調査が 145,000 名(公正取引委員会 90,000 名、中小企業庁 55,000 名)、下請事業者調査が 570,000 名(公正取引委員会 330,000 名、中小企業庁 240,000 名)である[1]

発注側と受注側の双方に書面を送り、突き合わせる形になっている。自社が「問題なし」と回答しても、取引先側の回答に減額や支払遅延が挙がれば、そこから調査が始まる。

これとは別に、価格転嫁に関する特別調査も走っている。令和 7 年度には 12 万名を超える事業者を対象とした調査が実施され、令和 7 年 6 月に 11 万名への書面調査が行われた。これらを踏まえて立入調査が 462 件実施され、独占禁止法の考え方に該当する行為が認められた事業者 4,334 名と、労務費転嫁指針の行動指針に沿った行動を採らなかった事業者 9,747 名に対して注意喚起文書が送付されている[4]

相談窓口も動いている。令和 7 年度には取適法に関する相談が 34,810 件、優越的地位の濫用に関する相談が 4,043 件、合計 38,853 件の相談に対応したとされる[4]。公正取引委員会と中小企業庁は、中小事業者等が匿名で情報提供できる違反行為情報提供フォームを設置しており、買いたたきなどの違反が疑われる委託事業者に関する情報を受け付けている[4]。匿名で出せるという点は、社内の緊張感の持ち方を変える。買いたたきの判断基準は買いたたきと価格転嫁の協議応諾義務で扱っている。

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報告徴収と立入検査

調査の権限は 3 つの主体に与えられている[1]

公正取引委員会は、委託事業者の取引を公正にするため必要があると認めるときに、委託事業者と中小受託事業者の双方に対して取引に関する報告をさせ、または職員に委託事業者の事業所等で立入検査を行わせることができる。

中小企業庁長官は、中小受託事業者の利益を保護するため特に必要があると認めるときに、同じく双方に報告をさせ、または立入検査を行わせることができる。

事業を所管する大臣も、中小企業庁の調査に協力するため、所管事業を営む双方に報告をさせ、または立入検査を行わせることができる。テキストは、運送であれば国土交通省、テレビ放送であれば総務省といった例を挙げている[1]。2026 年 1 月からは、事業所管省庁の主務大臣に指導・助言の権限も付与された[5]

立入検査で確認されるのは、発注時に何を明示したかと、その後の経緯をどう記録していたかである。第 7 条の記録が求められている理由のひとつとして、テキストは行政機関の検査の迅速さと正確さを確保するためと明記している[1]。記録が整っていないこと自体が、調査を長引かせる。何をどこまで残しておく必要があるかは7 条記録の作成と 2 年間の保存で項目ごとに整理した。

指導、勧告、公表という順序

調査の結果、違反事実がないと判断されれば処理は終わる。問題があれば指導・助言が行われ、改善報告書または改善計画書の提出を求められる[1]。指導は数が多い。令和 7 年度の指導件数は 8,261 件だった[4]

より重い措置が勧告である。公正取引委員会は、違反した委託事業者に対して違反行為の是正やその他必要な措置をとるべきことを勧告することができ、勧告した場合は原則として事業者名、違反事実の概要、勧告の概要等を公表することとしている[1]。中小企業庁長官の側は、違反した委託事業者について公正取引委員会に対し措置請求を行う[1]

勧告に従わない場合はさらに先がある。テキストは、勧告に従わない場合には独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が行われることがあると述べている[1]

勧告で何を命じられるか

勧告の内容は個別事件ごとに検討されるが、テキストは過去の事例をもとに行為類型ごとの典型を示している[1]。共通しているのは、行為をやめるだけでは終わらず、原状回復まで求められることである。

受領拒否をしている場合は、まだ受領していない給付を速やかに受領すること。支払遅延の場合は、代金と遅延利息を支払うこと。減額を行っていた場合は、減じた額と遅延利息を支払うこと。返品を行っていた場合は、返品後に引き取っていない物を再び引き取ること。買いたたきを行っていた場合は、代金について協議を行い、通常支払われる対価に比し著しく低いものではない相当額まで、著しく低いものとした時期に遡って引き上げること。購入利用強制の場合は、購入させた物を引き取るか、購入または利用に要した金額を支払うこと。有償支給原材料等の対価の早期決済の場合は、控除しまたは支払わせた金額を支払うことである[1]

買いたたきの是正が「遡って引き上げる」形になる点は、影響の見積もりを誤りやすい。取引期間が長いほど金額は膨らむ。有償支給に関する規制は有償支給材と金型代で、支払期日と遅延利息は支払期日 60 日と遅延利息で扱っている。

令和 7 年度に実際に起きたこと

公正取引委員会は令和 8 年 6 月 10 日に、令和 7 年度の運用状況を公表している[4]。数字を並べると、どの行為が摘発されているかがはっきりする。

勧告の対象になった違反行為 件数 勧告 39 件に占める割合
不当な経済上の利益の提供要請 31 件 約 79%
製造委託等代金の減額 6 件 約 15%
返品 6 件 約 15%
不当な給付内容の変更等 1 件 約 3%
買いたたき 1 件 約 3%

合計が 39 件を超えるのは、1 つの事案で複数の類型について勧告が行われることがあるためである[3]。目立つのは不当な経済上の利益の提供要請が 31 件という偏りで、金銭や役務を無償で提供させる行為が最も多く摘発されている。

原状回復の規模も示されている。令和 7 年度には、委託事業者 177 名から、中小受託事業者 5,165 名に対し、代金の減額分の返還等として総額 25 億 5698 万円相当の原状回復が行われた[4]。1 社あたりの平均は 1,400 万円を超える計算になる。

返還の中身として名前が挙がっているのは、代金の減額分である。どの差引きが減額に当たり、どこまでなら認められるのかは代金の減額に当たる行為で類型ごとに見ている。

罰則は 50 万円以下の罰金・両罰規定

勧告や公表は行政上の措置だが、刑事罰も定められている。テキストは、罰則が両罰規定であり、代表者・行為者である担当者個人が罰せられるほか、会社も罰せられると説明している。金額は 50 万円以下の罰金である[1]

対象になる行為 中身
発注内容等の明示義務違反 明示をしない、電磁的方法で明示した後に書面の求めがあったのに交付しない
書類等の作成・保存義務違反 取引の経緯を記録しない、2 年間保存しない
報告拒否・虚偽報告 報告徴収に応じない、事実と異なる報告をする
立入検査の拒否・妨害・忌避 検査を受け入れない、妨げる、逃れる

4 つとも手続に関する違反である点に注目したい。減額や買いたたきといった実体規定の違反は勧告と公表につながり、手続の不備は罰金につながる、という役割分担になっている。どちらか一方を守れば足りる関係ではない。明示の側の要件は発注書の 4 条明示 12 項目で扱っている。

自分から申し出た場合の扱い

公正取引委員会は、平成 20 年 12 月 17 日に、違反行為を自発的に申し出た事業者の取扱いを公表している[1]。調査に着手する前に違反行為を自発的に申し出、かつ自発的な改善措置を採っているなどの事由が認められる事案については、勧告するまでの必要はないものとして取り扱うというものである[1]

認められるには 5 つの事由が必要になる。公正取引委員会が調査に着手する前に、違反行為に該当する事実を自発的に申し出ていること。違反行為を既に取りやめていること。違反行為によって相手方に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じていること。違反行為を今後行わないための再発防止策を講じることとしていること。そして、公正取引委員会が行う調査および指導に全面的に協力していることである[1]

3 つ目の水準には目安がある。テキストの注記は、これまでに自発的申出がなされて勧告をしないこととされた事案において、少なくとも過去 1 年分の不利益額が返還されたものがある、としている[1]。申し出れば済むのではなく、返してから申し出る、という順序になる。

中小企業庁の側にも同じ趣旨の取扱いがあり、調査に着手する前に自発的な申出があった場合には、公正取引委員会に対する措置請求を行う必要はないものとして扱われる[1]

実際にどれくらい使われているか

令和 7 年度においては、委託事業者からの違反行為の自発的な申出は 53 件で、同年度に処理した自発的な申出は 49 件だった[4]。この申出により、中小受託事業者 1,234 名に対し、代金の減額分の返還等として総額 12 億 1019 万円相当の原状回復が行われている[4]。前述の 25 億 5698 万円のうち、およそ半分がこの経路から出ていることになる。

勧告 39 件に対して申出が 53 件という比率は、実務としてこの制度が使われていることを示している。社内で違反が見つかったときに、公表を伴う勧告を待つのか、返還と再発防止まで済ませて申し出るのかは、経営判断として現実に存在する選択肢である。

申告した取引先への報復は別の違反になる

調査の経路のひとつが取引先からの申立てである以上、申立てをされた側が取引を減らす、という反応は起こりうる。取適法はこれを第 5 条第 1 項第 7 号で明確に禁じている[1]

条文は、違反する事実があると認められる場合に中小受託事業者が公正取引委員会、中小企業庁長官、またはその取引に係る事業を所管する大臣にその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすることを禁止している[1]。規定の狙いも書かれており、中小受託事業者が報復を恐れずに申告できるようにするためである[1]

2026 年 1 月からは申告先が広がった。従来の公正取引委員会と中小企業庁長官に加えて、事業所管省庁の主務大臣が報復措置の禁止の申告先として追加された[5]。改正前は、事業者が事業を所管する省庁に通報した場合に報復措置の禁止の対象となるかが不明瞭だった、という課題が背景として説明されている[5]。リーフレットでも、報復措置の禁止に係る情報提供先に事業所管省庁が追加されたことが改正事項として挙げられている[2]

取引量を絞った時期が申告の後になっていれば、理由が別にあっても説明を求められる。仕入先の評価や取引継続の判断は、記録の残る形で運用しておくほうが安全になる。評価の観点は新規仕入先の審査で整理している。

よくある質問

勧告されると必ず社名が公表されますか

テキストは、勧告した場合は原則として事業者名、違反事実の概要、勧告の概要等を公表することとしている、と述べている[1]。原則という言い方である以上、例外の余地は残るが、公表を前提に考えるのが実務的である。

指導で済めば公表されませんか

公表について定められているのは勧告の場合である[1]。ただし件数の統計は毎年公表されており、令和 7 年度は指導 8,261 件、勧告 39 件だった[4]。指導であっても、改善報告書または改善計画書の提出を求められる[1]

調査が入ったあとに返金すれば勧告を避けられますか

自発的申出の取扱いは、調査に着手する前に申し出ていることを最初の要件にしている[1]。着手後の返金は、原状回復としては意味があるが、この取扱いの対象にはならない。

担当者が独断でやったことでも会社が罰せられますか

罰則は両罰規定なので、行為者である担当者個人が罰せられるほか、会社も罰せられる[1]。逆に、会社の方針として行っていた場合に担当者個人が対象から外れるわけでもない。

取引先が調査票に何を書いたかは分かりますか

調査は発注側と受注側の双方に対して行われる[1]。個別の回答内容が発注側に開示される仕組みは示されていない。報復措置の禁止が置かれているのは、まさに内容を推測して不利益な取扱いをすることを防ぐためである[1]

2026 年 1 月の改正で執行体制は変わりましたか

変わった。事業所管省庁の主務大臣に指導・助言の権限が付与され、報復措置の禁止の申告先にも追加された[2][5]。また、従業員基準が導入された。資本金の区分で当たらなかったときの受け皿として置かれたもので、二つを並べて好きな方で判定するわけではない[2]。これにより、これまで調査の対象外だった会社が対象に入っている。自社が該当するかは自社の取引は取適法の対象かで確かめられる。これまで対象外だった会社が、調査の対象に入っている可能性がある。

まとめ

手続の流れを一本にすると、定期調査や申立てから調査が始まり、指導または勧告に至り、勧告なら社名が公表され、従わなければ独占禁止法の措置に進む、という形になる。金銭面では、勧告の内容が行為の停止ではなく原状回復まで及ぶことが効く。令和 7 年度は 177 名の委託事業者から 25 億円を超える返還が行われている。

自社の準備として先に効くのは、実体規定の遵守そのものよりも、手続の記録である。明示と記録の不備は罰則の対象になるうえ、調査が入ったときに事実関係を自社の側から説明できなくなる。そのうえで、社内で違反が見つかったときの動き方を決めておく。取りやめ、返還、再発防止策、そして調査着手前の申出という順序を踏めるかどうかで、結果が公表を伴う勧告になるか、そうでないかが分かれる。

ここで扱ったのは、違反が見つかったあとに動く仕組みである。何をすると違反になるのか、義務と禁止行為の側は取適法とは何かで一覧にしてある。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
  3. 2026年1月施行! 下請法は取適法へ 改正ポイント説明会 公正取引委員会説明資料(公正取引委員会・令和 7 年 8 月 21 日 東京開催)
  4. 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)
  5. 取適法・振興法(公正取引委員会)

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