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発注の承認ルールをどう設計するか——しきい値の決め方と、分割で回避されない作り

この記事のポイント(結論先出し)
発注の承認ルールは、金額のしきい値を決めれば終わりではない。金融庁の企業会計審議会が定める内部統制の基準は、承認を「統制活動」の一部に位置づけ、統制活動には権限及び職責の付与、職務の分掌が含まれるとしている[1]。設計で決めることは三つある。どの発注で止めるか(しきい値)、誰が止めるか(承認者)、そのルール自体を誰が変えられるか(設定の権限)である。三つ目が抜けると、承認者を自分に付け替える、しきい値を上げて承認を要らなくする、が当事者の手でできてしまい、一つ目と二つ目の設計は意味を失う。同じ基準は、システムに組み込んだ統制について「一旦適切な内部統制(業務処理統制)を組み込めば、意図的に手を加えない限り継続して機能する性質を有している」としながら、変更やアクセスの管理(全般統制)が働かない場合には「その有効性が保証されなくなる可能性がある」と書いている[1]。承認ルールを作る作業と、承認ルールを作れる人を決める作業は、別に行う。
目次
「金額に関係なく部長」と「事実上ノーチェック」は、同じ場所から出てくる
発注の承認が二択になっている会社は多い。ひとつは、金額の大小にかかわらず全件が部長まで上がる形。もうひとつは、ルールはあるが誰も中身を見ておらず、申請が出れば通る形である。この二つは正反対に見えて、出てくる場所は同じである。一件あたりにかけてよい確認の手間を、金額と結び付けて決めていないという一点に行き着く。
全件を部長に上げる設計は、初期費用がゼロで済む。ルールを書く手間も、例外を判定する手間もいらない。しかし一日に何十件も回ってくれば、承認者は中身を読まずに押すようになる。そうなった時点で、この統制は形式だけが残り、実質は二択のもう一方と変わらない。内部統制の基準は、内部統制の固有の限界のひとつとして「内部統制の整備及び運用に際しては、費用と便益との比較衡量が求められる」ことを挙げている[1]。承認にかかる時間は、その費用に含まれる。
この記事は、承認をシステムに載せると何が変わるかではなく、ルールそのものをどう決めるかを扱う。申請・承認・照合という購買の手続をシステムに載せる話は購買管理システムで何が変わるか——申請・承認・照合の 3 点に、段を何段にするかという話は承認の段をどう組むかに分けてある。
調達現場で押さえるポイント
「厳しくするか、緩くするか」を軸にすると、この二択から出られない。軸は「どの発注を、誰の目で、何のために止めるか」である。止める理由が言えない承認は、段を増やしても質が上がらない。
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承認は何を担保する手続か——定義から引く
内部統制の基準は、統制活動を「経営者の命令及び指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続」と定義し、そこには「権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続が含まれる」としている[1]。用語も定義されていて、権限とは「組織の活動を遂行するため付与された権利」、職責とは「遂行すべき活動を遂行する責任ないし義務」である[1]。
実施基準は、経営者に求められる姿勢としてこう書いている。不正又は誤謬等の行為が発生するリスクを減らすために各担当者の権限及び職責を明確にし、各担当者が権限及び職責の範囲において適切に業務を遂行していく体制を整備することが重要であり、その際、職務を複数の者の間で適切に分担又は分離させることが重要である[1]。具体例として挙げられているのが、取引の承認、取引の記録、資産の管理に関する職責をそれぞれ別の者に担当させ、担当者間で相互牽制を働かせるという形である[1]。発注する人と検収する人を分ける話はここから来ており、発注する人と検収する人を分ける(職務分掌)で別に扱う。
承認という手続そのものの位置づけも書かれている。統制活動の方針を達成するため、それぞれの業務につき、必要に応じ承認、検証、記録等の適切な手続を設けることが考えられる、という並びである[1]。承認は単独で立つものではなく、検証と記録とセットで初めて機能する手続として置かれている。
設計の当たり外れを自分で点検したいときは、実施基準の参考として示されている全社的な内部統制の評価項目が使える。統制活動については次の七つが挙げられている[1]。
| 統制活動の評価項目(実施基準 参考) | 承認ルールに置き換えると |
|---|---|
| リスクに対処してこれを十分に軽減する統制活動を確保するための方針と手続を定めているか | 何のリスクを承認で減らすのかを書いてあるか |
| 職務の分掌を明確化し、権限や職責を担当者に適切に分担させているか | 申請・承認・検収・記録が同一人に集まっていないか |
| 統制活動に係る責任と説明義務を、リスクが存在する業務単位又は業務プロセスの管理者に適切に帰属させているか | 承認者は、その発注の結果について説明できる立場か |
| 全社的な職務規程や、個々の業務手順を適切に作成しているか | しきい値と承認者が規程の形で書かれているか |
| 統制活動は業務全体にわたって誠実に実施されているか | 急ぎの案件だけ口頭で先に流していないか |
| 検出された誤謬等は適切に調査され、必要な対応が取られているか | 却下や差戻しの理由が残り、次に反映されているか |
| 実行状況を踏まえて妥当性が定期的に検証され、必要な改善が行われているか | しきい値と承認者を見直す時期が決まっているか |
しきい値をどう決めるか
金額でしきい値を切ること自体は、基準の考え方と矛盾しない。統制環境の評価項目には「従業員等に対する権限と責任の委任は、無制限ではなく、適切な範囲に限定されているか」という一項がある[1]。誰にどこまで任せるかを決め、その外側で承認を求めるのが承認ルールなので、しきい値は「委任の範囲の輪郭」にあたる。
一方で、いくらにすべきかを外から答えてくれる資料はない。基準そのものが、内部統制を具体的にどう整備し運用するかは「個々の組織が置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできない」と書いている[1]。他社の金額を借りてくると、自社の件数分布と合わないところで止まる。決めるときに見る材料は次の四つになる。
| 見る材料 | 具体的に数えるもの | 決まること |
|---|---|---|
| 件数の分布 | 直近 12 か月の発注を金額順に並べ、累計件数と累計金額の両方を出す | 「上位何件で金額の何割を押さえられるか」 |
| 一件あたりの影響 | 誤ったまま通ったときに払い切ってしまう額と、止め直せる額の境目 | 「取り返しがつかなくなる水準」 |
| 承認者の処理能力 | 承認者一人が月に中身を読んで判断できる件数 | 形式化せずに回る上限 |
| 費用と便益 | 承認に要する時間と、それによって減らせるリスクの大きさ | その手続を維持するかどうか |
四つ目は、内部統制の限界として基準に明記されている考え方をそのまま持ち込んだものである[1]。基準が挙げる限界は次の四点で、承認ルールを設計するときに前提として置いておくとよい。
- 判断の誤り、不注意、複数の担当者による共謀によって有効に機能しなくなる場合がある
- 当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等には、必ずしも対応しない場合がある
- 整備及び運用に際しては、費用と便益との比較衡量が求められる
- 経営者が不当な目的の為に内部統制を無視又は無効ならしめることがある
加えて押さえておきたいのは、金額は取引の重要度の代わりに使っているだけだということである。金額が小さくても、初めて取引する相手、前払いが発生するもの、単価の改定を伴うもの、有償支給材が絡むものは、通ってしまったときの後始末が大きい。しきい値を金額だけで組むと、これらが全部すり抜ける。金額の条件に加えて「対象の種類」で分けられるようにしておくと、見積依頼の送信と発注の確定で違う基準を当てるといった設計ができる。
しきい値は、分割されて回避される
金額でしきい値を切ると、必ず出てくるのが分割である。一件で出せば承認が要る発注を、二件・三件に割って、それぞれをしきい値の下に収める。これは推測ではなく、公的な検査で具体的に記録されている型である。少額の発注そのものをどう扱うかは少額発注をどう扱うかで別に整理した。
会計検査院の平成 20 年度決算検査報告に、国土交通省の一事務所が航空写真撮影業務を 8 件に分割して随意契約で発注していた事案がある[5]。国の契約は原則として一般競争に付することとされ、工事又は製造の請負、財産の売買及び物件の貸借以外の契約で予定価格が一定額を超えない場合などは例外的に随意契約によることができるとされている[5]。当時この額は 100 万円で、現行の予算決算及び会計令第 99 条第 7 号では 200 万円である[7]。この金額が、社内でいうしきい値にあたる。
| 項目 | 検査報告に記載された内容 |
|---|---|
| 契約件数 | 8 件(相手方は 2 社。4 件と 4 件に分かれる) |
| 契約額 | 計 7,570,500 円(内訳 3,864,000 円と 3,706,500 円) |
| 回避されたしきい値 | 予定価格 100 万円(超えなければ随意契約が可能) |
| 分割の単位 | 事務所管内の港湾施設を八つの区域に分割 |
| 適切とは認められない契約額 | 7,570,500 円 |
検査院は、撮影時期に特段の条件を設けていないことから「すべてを同一期間内に撮影しても支障のないもの」であり、したがって「本件業務を分割して発注する合理的な理由はなく、一括して一般競争に付するべきであった」としている[5]。ここで押さえたいのは、割れたかどうかではなく、「割る理由が説明できるか」で判定されているという点である。
もうひとつ、経緯の書き方が承認ルールの設計に直接効く。この事務所では、契約は要求元となる部署が仕様書等を作成して調達を要求し、これを受けた担当官が見積書の徴取や契約先の選定等の手続を経て行うことになっていた[5]。ところが、選定する側の代行機関だった職員が広報業務を兼務したため、「見積徴取先及び契約先を選定する代行機関としての業務に加え、広報業務に関する契約の要求元として仕様書等を作成して調達を要求する業務を一人で行い得る立場」になった[5]。役割の分け方は規程として存在していて、人事の都合で一人に戻ってしまった形である。
検査院が原因として書いているのも、そこである。一連の契約手続を職員が単独で処理できることとなるのに、契約事務等が適正に行われているか確認するなどの体制を整備したり、内部監査等を十分行ったりするなどの措置を執っておらず、内部統制機能について認識が欠如していたことなどによると認められる、という結びになっている[5]。分割は、しきい値の問題ではなく役割の重なりの問題として整理されている。
民間の購買に置き換えると、対策は三つに絞られる。第一に、判定の単位を金額だけでなく同一の取引先・同一の品目・同一の期間で合算した額でも見られるようにする。第二に、しきい値のすぐ下に発注が集まっていないかを定期的に数える。分割が起きていれば、金額の分布にしきい値直下の山ができる。第三に、申請する人と承認する人が同一になりうる組み合わせを洗い出し、そこだけは別の経路を通す。兼務は避けられないことがあるので、避けられないなら見えるようにする。
誰を承認者にするか
候補は実務上三つある。申請者の上長、予算の管理者、購買部門である。どれが正解かではなく、何を見る人として置くかで選ぶ。
| 承認者 | 見られること | 見られないこと |
|---|---|---|
| 申請者の上長 | その発注が本当に必要か、いま要るか | 価格の妥当性、取引先の与信、支払条件 |
| 予算の管理者 | 予算の残と、期間内に収まるか | 仕様の妥当性、相見積の有無 |
| 購買部門 | 価格・取引先・支払条件・法令上の要件 | その部署にとっての必要性・優先度 |
三つのどれか一つで足りることは少ない。ただし全部を通すと段が増えて滞る。ここで効くのが、しきい値ごとに通す人を変える設計である。小さい発注は上長だけ、一定額を超えたら購買部門を挟む、さらに上は予算の管理者も通す、という組み方になる。段の数と順番の設計は承認の段をどう組むかに譲る。
役職ではなく個人を承認者に指定する場合は、その人が不在のときに誰が代わるかを先に決めておく。決めていないと、急ぎの案件が承認を飛ばして口頭で流れ始める。統制活動の評価項目でいう「業務全体にわたって誠実に実施されているか」が崩れるのは、たいていこの穴からである[1]。
ルールを変更できる人を、承認する人から分ける
ここがこの記事でいちばん言いたい部分になる。承認ルールをシステムに載せると、そのルール自体が設定データになる。設定を変えられる人は、承認を通す必要をなくすことができる。承認者を自分に付け替える、しきい値を自分の発注額より上に上げる、ルールを無効にする。どれも「承認を破る」のではなく「承認を要らなくする」動きなので、承認の履歴には何も残らない。
内部統制の基準は、ITに対する統制活動を全般統制と業務処理統制の二つに分けている[1]。業務処理統制は「業務を管理するシステムにおいて、承認された業務が全て正確に処理、記録されることを確保するために業務プロセスに組み込まれたITに係る内部統制」で、具体例として入力情報の完全性・正確性・正当性等を確保する統制、例外処理(エラー)の修正と再処理、マスタ・データの維持管理、システムの利用に関する認証、操作範囲の限定などアクセスの管理が挙げられている[1]。承認ルールそのものは、この業務処理統制にあたる。
一方の全般統制は「業務処理統制が有効に機能する環境を保証するための統制活動」で、システムの開発・保守に係る管理、システムの運用・管理、内外からのアクセス管理などシステムの安全性の確保、外部委託に関する契約の管理が例示されている[1]。承認ルールを誰が変更できるかは、こちらの側の話になる。
基準は両者の関係をこう書いている。ITを利用した情報システムにおいては、一旦適切な業務処理統制を組み込めば意図的に手を加えない限り継続して機能する性質を有しているが、その後のシステムの変更の段階で必要な内部統制が組み込まれなかったり、プログラムに不正な改ざんや不正なアクセスが行われるなど、全般統制が有効に機能しない場合には、適切な内部統制を組み込んだとしても、その有効性が保証されなくなる可能性がある[1]。承認ルールを何段組んでも、設定を触れる範囲が広いままなら、その設計は保証されない、ということである。
権限の絞り方については、情報処理推進機構(IPA)の「組織における内部不正防止ガイドライン」が具体的な指針を出している。重要情報へのアクセス権限を付与すべき者を必要最小限とし、付与する権限も必要最小限とし、権限を付与する期間も必要な時期に限って行うこと[4]。利用者IDとアクセス権が適切に付与されているかを確認するために定期的にアクセス権の要件を見直し、アクセス権限が集中している者に対しては適切性を確認し、不必要なアクセス権限は削除すること[4]。管理者権限については、通常は業務上必要な最小限の専門知識を有する人のみに付与され、権限を与えられた人が相互にその行使を監視できる仕組みを組み込むことが一般的であると書いている[4]。同ガイドラインは重要情報の取扱いを念頭に置いたものだが、設定を変えられる権限の扱い方としてそのまま読める。
調達現場で押さえるポイント
承認ルールの一覧を印刷して、その横に「この行を書き換えられる人」の一覧を並べてみるとよい。二つの列に同じ名前が並んでいたら、その人については承認は成立していない。表計算で回している場合はファイルの編集権限、システムで回している場合は設定画面に入れる権限が、この列にあたる。
ただし、設定の権限を絞れば終わりでもない。基準は、自動化されたITに係る業務処理統制は手作業によるものよりも無効化が難しくなるとしたうえで、「自動化されたITに係る業務処理統制であっても過信せずに、内部統制の無効化のリスクを完全に防ぐことは困難であるという視点を持つことが重要である」と書いている[1]。さらに、電子記録について変更の痕跡が残り難い場合には、無効化が生じてもその発見が遅れることがある点にも留意するよう求めている[1]。設定を絞ることと、設定を変えた履歴が残ることは別の話である。
参考までに、受発注プラットフォームの Newji one では、金額のしきい値を超えたときに承認を要求する条件と承認者の指定、承認の段の組み方を設定として持ち、その作成・変更・無効化を管理者の権限に限っている。承認そのものは、その段に指定された承認者本人(管理者の段については、その権限を持つ役職)でなければ実行できない。承認・却下の記録は、どの段で誰が判断したかと却下の理由を残す形で保存される。
承認を厳しくすると、別の法律に触れることがある
承認ルールを重くしたときに実際に起きるのは、承認が下りる前に取引先へ「先に始めておいて」と伝える運用である。これは社内の問題では済まない。
取適法(中小受託取引適正化法)第 4 条第 1 項は、委託事業者は中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は直ちに、給付の内容・代金の額・支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法により明示しなければならないと定めている[3]。テキストは、この規定が設けられたねらいを「受託取引において口頭による発注は、発注時の取引条件等が不明確でトラブルが生じやすく、トラブルが生じた場合、中小受託事業者が不利益を受けることが多い」ためだと説明している[2]。承認待ちを理由に発注書を出さないまま作業させる運用は、この趣旨の正面から外れる。
内容が決まらないものについては逃げ道が用意されているが、無条件ではない。同項ただし書は、明示事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては明示を要しないとしたうえで、当該事項の内容が定められた後直ちに、書面又は電磁的方法により明示しなければならないとしている[3]。テキストは未定事項について、定められない理由と、定めることとなる予定期日を明示事項に含めている[2]。「社内の承認がまだ下りていない」を未定事項の理由に使えるかは、その事項が本当に定められないのかによる。承認が下りれば決まる金額は、定められないのではなく決めていないだけである。
したがって、しきい値を下げて承認を増やすときは、承認にかかる日数の目標を同時に決める必要がある。決めずに厳しくすると、現場は発注書を後回しにする方向で辻褄を合わせる。条番号は 2026 年 1 月の施行で動いており、旧下請法の「3 条書面」は取適法の 4 条明示にあたる。社内規程や購買基本契約書に旧法の条番号が残っている場合の差し替え箇所は、条文の対応関係をまとめた法令・規格 改訂対応パック(中小受託取引適正化法)に整理してある。発注書に何を書くかは発注書とは——4 条明示の 12 項目を参照してほしい。
承認の記録は、取引の記録とは別物である
「記録を残す」と言うとき、購買の周辺には性質の違う記録が三つ並んでいる。混ぜて設計すると、片方の要件を満たしたつもりでもう片方が抜ける。
| 記録の種類 | 何のための記録か | 主な対象 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 内部統制の記録 | 統制が整備され運用されていることを示す | 誰がいつ承認・却下したか、規程と設定の変更 | 評価の対象期間に応じて自社で定める |
| 取適法 第 7 条の記録 | 取引のトラブル防止と行政検査への対応 | 給付の内容・受領・検査結果・代金と支払 | 2 年間 |
| 電子取引データ | 国税関係書類の保存 | 注文書・契約書・請求書等をやり取りしたデータ | 法人は原則 7 年 |
一段目の根拠は内部統制の基準にある。内部統制は社内規程等に示されることにより具体化されるとしたうえで、「内部統制の整備及び運用状況は、適切に記録及び保存される必要がある」と書かれている[1]。承認の履歴と、承認ルールを変更した履歴の両方がここに入る。
二段目は取適法第 7 条で、委託事業者は給付、給付の受領、代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録を作成し、保存しなければならないと定められている[3]。テキストは、この 7 条記録を2 年間保存しなければならないとし、記録事項として中小受託事業者の名称、委託をした日、給付の内容、受領した給付の内容と受領日、検査を完了した日と検査の結果、変更・やり直しをさせた場合の内容と理由、代金の額と支払期日、支払額と支払日などを挙げている[2]。並んでいるのは相手との間で起きたことであり、社内の誰が承認したかは記録事項に入っていない。7 条記録を作れば承認の記録も足りる、とはならない。詳しくは取適法が求める記録——何を書いて、2 年間どう残すかと発注の記録を 2 年どう残すかにまとめてある。
三段目も同じ理由で承認記録とは切り離される。電子帳簿保存法上の「電子取引」とは取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいい、この「取引情報」とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項とされている[6]。相手方と授受していない社内の承認記録は、この定義でいう取引情報にはあたらない。保存期間は国税に関する法律で定められた期間で、法人は帳簿・書類とも原則 7 年である[6]。
ただし、承認という手続そのものが税務の側と無関係になるわけではない。同じ一問一答は、電子取引データの正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程について、規程に沿った運用を行うには社内で規程の内容を周知することが重要だとしたうえで、「業務ソフトに内蔵されたワークフロー機能により、そうした運用を確保することとしても差し支えありません」としている[6]。承認の経路は、保存しなければならないデータそのものではないが、そのデータを勝手に書き換えさせないための手段としては税務上も認められている。この重なりについては購買管理システムで何が変わるかで扱った。
設計上の含意はひとつである。承認の記録は、法令が保存を求めているから残すのではなく、承認という統制が働いていたことを後から示すために残す。したがって残すべきは、通ったという事実だけでなく、いつ・誰が・どの段で・何を見て判断したか、そしてそのときのルールがどうなっていたかである。ルールを変えた履歴が残っていなければ、当時のしきい値が分からず、承認が正しく働いていたかを後から確かめられない。
ルールを書き出す前に答えておく五項目
規程やシステムに落とす前に、社内で答えを持っておく項目を挙げる。ここが空欄のまま金額だけ決めると、運用が始まってから例外で埋まる。
項目 1:この承認で減らしたいリスクは何か
不要な発注を止めたいのか、価格が高いまま通るのを止めたいのか、支払条件の逸脱を止めたいのか。減らしたいものが違えば承認者も違う。統制活動の評価項目の一つ目が求めているのはこの明文化である[1]。
項目 2:しきい値の判定単位を何にするか
発注一件の金額か、同一取引先・同一品目・同一期間で合算した額か。合算を入れないと分割で回避される[5]。合算を入れるなら、期間の切り方(同日・同月など)まで決めておく。
項目 3:金額以外で止めるものを決めたか
新規取引先、前払い、単価改定を伴うもの、有償支給が絡むもの。金額が小さくても止める対象を先に列挙しておくと、しきい値を無理に下げずに済む。
項目 4:ルールを変更できる人は誰か
承認者の一覧と、設定を変更できる人の一覧を並べて、重なりを見る。重なる場合は、変更の履歴が残り、その履歴を別の人が見る形になっているかまで確認する[1][4]。
項目 5:承認にかける日数の目標を決めたか
何営業日以内に承認を返すかを決め、超えたときの扱い(上位者への引き上げ、代理承認)も決める。決めていないと、承認待ちのあいだに発注書を出さずに作業させる運用が生まれ、4 条明示の側に問題が移る[3]。
よくある質問
しきい値はいくらに設定すればよいですか
金額を外から示せる資料はない。内部統制の基準自体が、具体的な整備と運用は「個々の組織が置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできない」としている[1]。決め方としては、直近 12 か月の発注を金額順に並べて累計件数と累計金額を出し、承認者が中身を読んで判断できる件数に収まる位置を探すのが現実的である。件数が収まらないなら、しきい値を上げるのではなく、金額以外の条件で止める対象を作るほうが筋がよい。
承認ルールを変更できるのは管理者だけ、で十分ですか
足りない場合がある。管理者が同時に発注の申請者でもあるなら、その人については承認は成立していない。IPA のガイドラインは、管理者権限は業務上必要な最小限の人のみに付与され、権限を与えられた人が相互にその行使を監視できる仕組みを組み込むことが一般的だとしている[4]。加えて、変更の履歴が残り、それを別の人が定期的に見る形になっているかを確認する。基準も、電子記録について変更の痕跡が残り難い場合は無効化の発見が遅れる点に留意するよう求めている[1]。
分割発注を機械的に止めることはできますか
完全には止まらない。品目を分ける、日付をずらす、取引先を変えるといった形で単位はいくらでも作れるからである。会計検査院の事案でも、判定は形式ではなく「分割して発注する合理的な理由」の有無で行われている[5]。現実的なのは、しきい値の直下に発注が集まっていないかを定期的に数え、集まっている取引先や品目について理由を確認する運用である。数えるだけなら、発注データを金額で並べれば足りる。
少額の発注まで承認を求めると回らなくなります
そのときは費用と便益の比較衡量にあたる[1]。少額を一件ずつ止める代わりに、月単位の集計を後から見る形(事後の確認)に切り替える手がある。基準は統制活動の方針を達成するため、必要に応じ承認、検証、記録等の適切な手続を設けるとしており[1]、承認だけが手段ではない。ただし切り替えるなら、誰が何を見て、何が出たら遡って手当てするかまで決めておく。
承認の記録は何年残せばよいですか
取適法第 7 条の記録は 2 年間だが[2]、そこに社内の承認は含まれていない。電子帳簿保存法が保存を求める電子取引データも「取引情報の授受」を対象としており[6]、社内で完結する承認記録はその定義に入らない。承認の記録は、内部統制の整備及び運用状況の記録として自社で期間を定めることになる[1]。実務的には、発注書の控えや 7 条記録と同じ期間に揃えておくと、後から取引を復元するときに欠けが出ない。
まとめ
承認ルールの設計で決めることは三つある。どの発注で止めるか、誰が止めるか、そのルールを誰が変えられるか、である。前の二つはよく議論されるが、三つ目が抜けている設計は珍しくない。抜けたままだと、承認者を自分に付け替える・しきい値を上げる・ルールを無効にするという形で、承認を破らずに承認を要らなくすることができてしまう。内部統制の基準は、システムに組み込んだ統制は意図的に手を加えない限り機能し続けるが、変更とアクセスの管理が働かなければその有効性は保証されないと書いている[1]。
しきい値は金額で切ることになるが、金額は取引の重要度の代わりでしかない。分割による回避は、会計検査院の検査報告に「分割して発注する合理的な理由はなく」という形で具体的に記録されており、そこでの原因は一連の手続を一人で処理できる状態にあったこととされている[5]。合算での判定と、しきい値直下の件数を数える運用、そして役割が重なる箇所を可視化することが対策になる。
最後に、承認を重くしたときの副作用を忘れないこと。承認待ちのあいだに口頭で先に作らせる運用が生まれると、社内の統制の話が取適法 4 条明示の問題に変わる[3]。しきい値を下げるなら、承認にかける日数の目標を同時に決める。
出典・参考資料
- 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 組織における内部不正防止ガイドライン 第 5 版(独立行政法人情報処理推進機構/2022 年 4 月 6 日公開)
- 一括して一般競争に付することが可能な航空写真撮影業務の契約を意図的に分割して随意契約により特定の業者に発注していたもの(平成 20 年度決算検査報告)(会計検査院)
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
- 予算決算及び会計令(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
承認のルールと、ルールを変えられる人を、別々に決める
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