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ねじの公差域クラス(6H/6g)を図面と発注でどう指定するか——ねじ穴の深さと有効ねじ長さ

この記事のポイント(結論先出し)
一般用メートルねじの図面に「M10」とだけ書くと、規格の上ではめねじ 6H・おねじ 6g(はめあい区分「中」)とはめあい長さ「並」を指定したことになる[1]。それで足りない部品だけ、公差域クラスとはめあい長さを書き足す。めっきをするねじは、規格では公差を皮膜を付ける前の部品に当てるので[1]、めっき後に何で合否を見るかを発注時に決めておく。受入はねじ用限界ゲージの通り側と止り側を一つずつ使うのが基本で、規格は使用者に、どの手段で検査するかを注文時に製造業者へ伝えることを推奨している[3]。ねじの深さは、ねじ長さを寸法で入れ、下穴の深さは必要なときだけ指示する[4]。基準は発注時に書面で明示する[5]。
目次
「M10」と書いた図面は、何を指定したことになるか
一般用メートルねじの公差は JIS B 0209-1 が定めている。この規格は ISO 965-1 を翻訳したもので、公差方式を「公差グレード」(数字)と「公差位置」(めねじは大文字の G・H、おねじは小文字の e・f・g・h)の組合せで表す[1]。この組合せを公差域クラスと呼び、6H や 6g のように書く。
呼び方の規則は次のとおりである[1]。
- 公差域クラスは、有効径のクラスに続けて山の頂の直径(めねじは内径、おねじは外径)のクラスを書く。二つが同じなら一つにまとめてよい(例: おねじ M20×2-5g6g、めねじ M10-6H)
- めねじとおねじの組合せは、めねじのクラスに続けて斜線でおねじのクラスを書く(例: M6-6H/6g)
- はめあい長さが「短い」S または「長い」L のときは、クラスの後にダッシュで足す(例: M6-7H/7g6g-L)
- 左ねじは末尾に LH を付ける
そして、公差域クラスが書いていない場合は、はめあい区分「中」を指定したものとみなす。めねじは M1.6 以上で 6H(M1.4 以下は 5H)、おねじは M1.6 以上で 6g(M1.4 以下は 6h)である。はめあい長さが書いていなければ「並」N を指定したものとみなす[1]。つまり、普通のボルト・ナット用のねじは「M10」とだけ書けば足り、それ以外を求める部品だけ書き足せばよい。
ここで発注側が気をつけたいのは、規格の既定値と、社内の標準が違っていないかである。社内で「ねじはすべて 6H/6g」と決めているなら図面と規格は一致する。一方で、めっき後の公差を見込んでおねじを 6e で作らせたい、薄い相手材なので短いはめあい長さで精を求めたい、といった事情を図面に書かずに社内の取り決めで済ませていると、外の仕入先には伝わらない。
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公差域クラスとはめあい長さの選び方——規格が示す目安
JIS B 0209-1 は、ゲージと工具の数を減らすため、公差域クラスは規格の推奨表から選ぶのがよいとしている。はめあい区分の目安は次のとおりである[1]。
- 精: はめあいの変動を小さくしたい精密ねじ
- 中: 一般用
- 粗: 熱間圧延棒にねじを切る場合や、深い止まり穴にねじ加工をする場合のように、製造上の困難が起こり得る場合
はめあい長さは、標準ボルトのように実際にかみ合う長さが分からないときは「並」N を推奨している。完成品のはめあいは、十分なひっかかりを確保するため H/g、H/h、G/h の組合せにするのがよいとしている[1]。
発注の場面に置き換えると、深い止まり穴のめねじを「中」のままにしておくと、加工する側にとって条件が厳しいことがある。規格自身が「粗」の用途に深い止まり穴を挙げているので、機能上「中」が必要なのか、「粗」でよいのかは、図面を出す前に設計に確かめる価値がある。逆に、かみ合う長さが短く、少ない山数で強度を受ける部品では、短いはめあい長さ S や、より細かいグレードの指定を設計と検討する。
数字で見ると何が違うか
M10(ピッチ 1.5 mm)の並目ねじについて、規格の許容限界寸法を並べると次のとおりである[2]。めねじの有効径の最小 9.026 mm は、公差位置 H の基礎となる寸法許容差が 0 であることに対応している[1]。
| M10(ピッチ 1.5)・はめあい長さ「並」 | 最大(mm) | 最小(mm) |
|---|---|---|
| めねじ 6H の有効径 D2 | 9.206 | 9.026 |
| めねじ 6H の内径 D1 | 8.676 | 8.376 |
| おねじ 6g の外径 d | 9.968 | 9.732 |
| おねじ 6g の有効径 d2 | 8.994 | 8.862 |
| はめあい長さ「並」の範囲 | 15 | 5(を超え) |
表の値から、6H と 6g の組合せでは、有効径どうしに最小でも 0.032 mm のすき間が残る作りになっていることが読み取れる(めねじの最小 9.026 とおねじの最大 8.994 の差)。この「すき間」が、次に述べるめっきの膜厚と関係してくる。
めっきするねじは「どの時点の寸法で見るか」を決める
JIS B 0209-1 と B 0209-2 は、皮膜を施すねじについて、特に指定がなければ公差は皮膜を付ける前の部品に適用すると定めている。そのうえで、皮膜を付けた後の実体のねじ山は、どの箇所も公差位置 H または h の最大実体寸法の境界を越えてはならないとしている。この規定は、電気めっきのような薄い皮膜を想定したものである[1][2]。
規格が g(おねじ)や G(めねじ)のように基礎となる寸法許容差を持つ公差位置を用意しているのは、通常の皮膜の厚さとねじ込みやすさに対応するためである[1]。たとえば 6g のおねじにめっきをすると、めっき後は 6h の最大実体寸法、つまり有効径の基準寸法を越えない範囲に収まっていればよい、という読み方になる。
発注のときに問題になるのは、次の三つである。
1. 加工とめっきを別の会社に出すとき
ねじを切る会社は、めっき前の寸法で 6g に入れて出荷する。めっき会社は膜厚の指定どおりに処理する。どちらも自分の工程の仕様は満たしているのに、めっき後にねじ込めない、ということが起こりうる。めっき後の合否をどちらの責任で、何で見るかを、それぞれへの発注書に書いておく。
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2. めっき後に受け入れるとき
受入でめっき後の部品にゲージを当てるなら、何のゲージを当てるかを先に決めておく。めっき前の公差(6g)用のゲージを当てるのか、めっき後に越えてはならない境界(h の最大実体寸法)で見るのか。発注書に書かずに受入で決めると、合否の線を後から動かすことになる。
3. 厚い皮膜のとき
上の規定は薄い皮膜を想定している[1]。溶融亜鉛めっきのような厚い皮膜は、JIS B 0209 の別の部(第 4 部・第 5 部)が扱っている[1]。厚い皮膜のボルトを一般用の公差で発注しない。表面処理と水素脆化を含むボルトの指定はボルトの強度区分と規格の指定で、めっきそのものの指定はめっきの発注で指定することで扱っている。
ねじ穴の深さと、ねじ部の長さの書き方
製図の規格 JIS B 0002-1 は、ねじ長さの寸法は一般に必要だが、止まり穴の深さは通常は省略してもよいとしている。穴深さを指定しない場合は、ねじ長さの 1.25 倍程度に描く。深さを示す必要があるかどうかは、主として部品そのものと、ねじ加工に使う工具によるとしている[4]。また、ねじ長さの寸法は一般にねじ部長さに対して記入し、ねじ加工に必要な不完全ねじ部や逃げ溝は図示するのがよいとしている[4]。
発注の場面では、この「省略してよい」が食い違いのもとになる。図面にねじ長さだけがあり、下穴の深さが描かれていないと、仕入先は自社の工具と加工の都合で下穴深さを決める。ところが、反対側の面までの肉厚が薄い部品、裏に別の穴が通っている部品では、下穴の深さそのものが機能に効く。そうした部品では、次のどちらかを図面か購買仕様書に書く。
- 完全ねじ部として確保する長さ(最小)
- 下穴の深さの上限、または残すべき肉厚の下限
「有効ねじ長さ」のように社内で使っている言葉が、どの範囲を指すのか(不完全ねじ部を含むのか)も、図面の言葉で書き直しておく。インサートを入れるねじ穴の指示と受入は、ねじ穴とインサートの図面指示と受入で扱う。なお図面にねじの呼びを書くときは、ねじの名称と規格番号は省略し、呼びの記号で書く[4]。
受入はゲージで見る——通り側と止り側を一つずつ
メートルねじの寸法検査に使う限界ゲージは JIS B 0251 が定めている。この規格は、ゲージによる検査では常に通り側ゲージの一つと止り側ゲージの一つを用いることが必要だとしている。指示計器による測定のような他の方法も認めるが、規格のゲージで検査することを常に優先するとしている[3]。
めねじの場合の判定は次のとおりである[3]。
- 通り側ねじプラグゲージは、過大な力を加えずに手でねじ込んだとき、工作物のねじの全長を通り抜けなければならない
- 止り側ねじプラグゲージは、両端に入ってもよいが、ねじの 2 回転を超えてはならない。2 回転を超えたかどうかはゲージを抜くときに決める。3 山以下のねじ長さでは、止り側が完全に通り抜けてはならない
- 内径は、プレーンの通り側・止り側プラグゲージで見る。球面端ゲージや棒ゲージは使わない
この規格は、製造業者と使用者の疑義を避けるため、二つの原則を掲げている。製造業者は許容限界寸法の外にあるねじを出荷してはならず、使用者は許容限界寸法の内にあるねじを拒否してはならない[3]。限界の近くで作られたねじは、製造側と検査側でゲージの判定が割れやすい。そこで規格は、疑義が生じたときに、許容摩耗を考慮したうえで規格内のいずれかのゲージで満足していることが示されれば受け入れることを推奨している[3]。
発注側にとって大事なのは次の一文である。規格は、検査員がどのゲージを使うかは規定しないが、使用者が注文時に、どの手段で検査するかを製造業者に通知することを推奨している[3]。手段は三つ挙げられている。製造業者のゲージで検査する、検査員が自分のゲージを使う、検査員が自分で検査したゲージを使う、である[3]。どれを採るかを発注書に書いておけば、受入で「こちらのゲージでは止まる」という言い合いを減らせる。
温度にも決まりがある。寸法は標準温度 20 ℃ における値で、工作物とゲージの線膨張係数が違う組合せ(たとえば黄銅の工作物と鋼のゲージ)では、検査時の両者の温度を(20±2)℃にするか、熱膨張の差を考慮しなければならない[3]。夏場に冷房の弱い受入場で黄銅部品を検査する、といった場面では効いてくる。
合否の基準は発注の時点で書面に残す
中小受託取引適正化法(取適法)がかかる取引では、受領を拒める理由が限られている。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、委託の内容や検査の基準があいまいなために給付が委託内容と違うとはっきり言えない場合、そして発注した後で検査の基準を恣意的に厳しくし、それまで通っていたものを落とす場合を、受領拒否が認められない例として挙げている[5]。
ねじでいえば、公差域クラスとはめあい長さ、めっき前とめっき後のどちらで見るか、どのゲージで判定するか、が検査基準にあたる。どれも図面か購買仕様書に、発注の時点で書いておく。図面だけでは伝わらない項目の整理は購買仕様書の書き方で、受領拒否と返品の線引きは受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかで扱っている。はめあいの公差(H7/g6 など)の伝え方ははめあいの指定と測り方で扱う。
よくある質問
古い図面に、現行の公差域クラスと違う等級の書き方がある
現行の JIS B 0209-1 は、2001 年に ISO 965-1 を翻訳して制定されたもので、これにより旧規格(JIS B 0209:1997、B 0211:1997、B 0215:1982)は廃止されて置き換えられた[1]。旧来の等級表示がそのまま現行の公差域クラスに対応するとは限らないので、等級の読み替えは仕入先に任せず、設計部門に現行の公差域クラスで書き直してもらう。
仕入先から「ねじ穴はタップで切るので公差は気にしなくてよい」と言われた
タップの選び方で結果がほぼ決まるのは確かだが、合否はねじの許容限界寸法で決まる。受入でどのゲージを当てるかを決めておけば、工具の話と合否の話を分けて話せる。
めねじにもめっきをする部品で、組立のときに固い
めねじは公差位置 H の場合、基礎となる寸法許容差が 0 なので[1]、めっきの厚さがそのまま有効径を小さくする方向に働く。めっきを前提にするなら、公差位置 G を使うか、めっき後の合否の見方を決めておく必要がある。どちらにするかは設計の判断で、発注側は図面にどちらで書かれているかを確かめる。
まとめ
一般用メートルねじは、「M10」とだけ書けば、めねじ 6H・おねじ 6g・はめあい長さ「並」を指定したことになる。深い止まり穴や短いはめあいなど、既定値で合わない部品だけ公差域クラスとはめあい長さを書き足す。めっきするねじは、公差を皮膜を付ける前の部品に当てるのが規格の原則なので、加工とめっきを別々に出すときは、めっき後の合否を誰が何で見るかを両方の発注書に書く。ねじ穴は、ねじ長さを寸法で入れ、肉厚の薄い部品では下穴の深さか残す肉厚も書く。受入は通り側と止り側のゲージを一つずつ使い、どの手段で検査するかを注文時に仕入先へ伝える。
出典・参考資料
- JIS B 0209-1 一般用メートルねじ-公差-第1部:原則及び基礎データ(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2001 年 12 月 20 日制定・2026 年 6 月 22 日確認)
- JIS B 0209-2 一般用メートルねじ-公差-第2部:一般用おねじ及びめねじの許容限界寸法-中(はめあい区分)(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2001 年 12 月 20 日制定・2026 年 6 月 22 日確認)
- JIS B 0251:2008 メートルねじ用限界ゲージ(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2008 年 3 月 20 日改正・2022 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 0002-1 製図-ねじ及びねじ部品-第1部:通則(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/1998 年 1 月 20 日制定・2023 年 6 月 20 日確認)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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