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Excel の品目表をマスタに移す——写された値が古くなる前に決める 5 つ

この記事のポイント(結論先出し)
Excel の品目表がつらくなる理由は、行数が増えたことではない。品目表から発注書・見積比較表・在庫表へ値が「写されて」広がり、写した先がばらばらに古くなることである。品名を直しても過去の写しは直らず、どれが正しいかは開いたファイル次第になる。加えて、列の意味が人によって違う。リードタイムは JIS Z 8141 でも「発注してから納入されるまでの時間」と「素材が準備されてから完成品になるまでの時間」の二つの意味で定義されている[3]。システムに移すときに先に決めるのは、取り込みの手順ではなく、①どの列を持ち、それぞれの意味と単位をどう書くか ②品番をどう一意にするか ③誰が登録・変更してよいか ④変えた記録をどう残すか ⑤どの順番で移すか、の五つである。財務報告の内部統制の実施基準も、IT に係る業務処理統制の例として「マスタ・データの維持管理」を挙げている[2]。品目が数百で更新する人が 1 人なら、Excel のままでも書き方を変えれば足りる。
目次
いま Excel で、品目表をどう持っているか
中小の製造業で品目表を Excel で持つと、たいてい次のような使われ方になる。共有フォルダに「品目一覧.xlsx」があり、品番・品名・規格・単位・仕入先・単価・リードタイムの列が並ぶ。発注書のテンプレートを作るときは、品目一覧から品番と品名をコピーして貼る。相見積の比較表を作るときも、品名と前回単価をコピーする。在庫表は別のファイルで、品番と品名はそこにもコピーされている。担当によっては、自分がよく使う品目だけを抜き出した「マイ品目表」を持っている。
この形は、品目が少なく、品目一覧を書き換える人が 1 人のうちは問題が出にくい。品目一覧を見れば品番と品名が分かり、Excel の検索で目的の行に飛べる。システムを入れなくても、品番を軸にした管理はできている。
品目マスタに仕様をどこまで持つかの線引き(マスタ・図面・注文書の三つの置き場所)は品目仕様をどこまでマスタに持つかで、自社品番と相手品番の結び方は自社品番と相手品番をどう紐づけるかで扱っている。この記事は、Excel で持っている品目表を、どういう準備をしてシステムのマスタに移すかに絞る。
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どこで詰まるか
値が「写されて」広がる
Excel の品目表の一番の弱点は、ほかのファイルが品目一覧を参照するのではなく、値をコピーして持っていくことである。品名の誤字を品目一覧で直しても、発注書のテンプレート、見積比較表、在庫表、各担当のマイ品目表には古い品名が残る。どのファイルの値が正しいかを確かめる手段がなく、結果として「最新版はどれか」を毎回人に聞くことになる。この問題は購買のファイルの最新版問題で詳しく扱う。
システムのマスタが Excel と違うのは、発注・見積・在庫の側が品目の値を写すのではなく、品目そのものを指していることである。品名を直せば、品目を指しているすべての画面で新しい品名が出る。ただし、これには裏側がある。過去の発注が品目を指しているだけだと、品名を直した瞬間に過去の発注の表示まで変わってしまう。この点は後で書く。
列の意味が人によって違う
品目一覧の列名は同じでも、書く人によって中身が違う。よくあるのは次の 4 つである。
1. リードタイム。購買担当は「発注してから入荷するまで」、生産管理は「材料が揃ってから完成するまで」の日数を書く。JIS Z 8141 のリードタイムの定義も、この二つを並べている[3]。さらに、営業日で数えるか暦日で数えるかも揃っていない。
2. 単位。同じねじが、ある行では「個」、別の行では「箱(100 個入り)」で登録されている。発注の単位と在庫を数える単位が違うのに、換算の列がない。
3. 単価。税抜か税込か、どの取引先のいつの単価かが書かれていない。公正取引委員会と中小企業庁が示す注文書の書式例は、消費税等込みの代金を記載する場合にはその旨を明確に記載する必要があるとしている[1]。品目一覧の単価列が税込か税抜か分からないまま注文書に写されると、注文書の側で明確にできない。単価の持ち方は取引先ごとの単価を一か所で持つで扱う。
4. 仕入先。「仕入先」の列に 1 社しか書けないので、2 社から買っている品目は備考欄に 2 社目を書くか、行を複製する。行を複製すると、同じ品番が 2 行ある品目表ができあがる。
誰が、いつ、何を変えたかが残らない
Excel のセルを書き換えても、前の値は残らない。リードタイムが 30 日から 45 日に変わっていたとして、それが仕入先から連絡を受けた正式な変更なのか、誰かの打ち間違いなのかは分からない。金融庁の企業会計審議会が定める内部統制の実施基準は、IT を使った業務の統制(業務処理統制)の例を 4 つ挙げ、その一つに「マスタ・データの維持管理」を入れている。ほかの 3 つは、入力の正しさを確かめる統制、エラーの修正と再処理、操作できる人と範囲を絞るアクセスの管理である。あわせて、これらは人の手で行うこともできるものの、システムに組み込めば効率と正確さが上がると述べている[2]。品目表の変更を誰がしてよいか、変えた記録をどう残すかは、まさにこの「マスタ・データの維持管理」に当たる。
行を消すと、過去が説明できなくなる
使わなくなった品目の行を消すと、品目一覧はすっきりするが、過去の発注書に書かれた品番が何だったのかを品目一覧から引けなくなる。法人税では、注文書などの取引に関する書類は確定申告書の提出期限の翌日から 7 年間保存することになっている[5]。書類は残っていても、品番の意味を引く台帳が消えていれば、問われたときに説明に時間がかかる。使わなくなった品目の扱い(消すのか、無効にして残すのか)はマスタの棚卸しの記事で扱っている。
法令と帳票の側から見た、品目の情報の行き先
品目表の値は、社内の便利のためだけにあるのではない。発注書・取引の記録・請求書の照合と、外に出ていく書類に写されていく。行き先ごとに何が求められているかを並べると、移すときにどの列を固めるべきかが見えてくる。
| 品目の情報の行き先 | 求められていること | 品目表で固めておく列 |
|---|---|---|
| 注文書(取適法の 4 条明示) | 給付の内容・代金の額などを発注の都度明示する[1] | 品名・規格の書き方、単位、単価の税込・税抜の区別 |
| 取引の記録(取適法の 7 条記録) | 給付の内容などを記録し 2 年保存。電磁的記録なら訂正・削除の事実と内容を確認できること[1] | 品目の変更履歴、発注時点の値を発注側に写す設計 |
| 受け取る請求書との照合 | 適格請求書には資産の内容、税率ごとの合計と適用税率などが記載される[4] | 相手の品名との対応、税区分 |
| 在庫と所要量の計算 | 発注点=調達期間中の推定需要量+安全在庫[3] | リードタイムの定義と単位(日数)、安全在庫、発注単位 |
| 書類の保存 | 注文書などを 7 年間保存[5] | 廃止した品目を消さずに残す状態の列 |
表の 2 行目は、システムに移すときに見落とされやすい。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、4 条明示した内容の写しを 7 条記録の一部とすることは可能だが、取引開始時に定めた事項のみが明示されている写しを保存するだけでは記録事項を全て満たすことはできないとしている[1]。つまり、発注の記録は「その発注のときに何を頼んだか」を後から確かめられなければならない。品目の品名や規格を後から直したとき、過去の発注の記録まで新しい値で表示される仕組みだと、発注した時点の内容が分からなくなる。移す先のシステムで、発注の明細が品目の値を発注時点で写し取っているのか、品目を参照しているだけなのかを確かめておく。
移す前に決めること
1. 持つ列を決め、列ごとに意味と単位を書く
品目一覧の列をそのまま移すのではなく、列の定義を 1 枚にまとめる。列名・意味・単位・入力の例・必須かどうか・誰が埋めるか、の 6 つを書く。たとえばリードタイムなら「発注日から入荷日までの暦日数。仕入先の回答値。購買担当が登録」と書く。この 1 枚があるだけで、移した後に列の意味が人によって揺れることがかなり防げる。
持つ列の候補は次のとおりである。品番、品名、規格・型式、単位(発注の単位と在庫の単位、その換算)、分類、税区分、主な仕入先、リードタイム、最小発注数、発注ロット、安全在庫、状態(使用中・廃止)。仕様の詳細や図面の版は、マスタに持たせすぎると埋まらない欄が増える。その線引きは品目仕様の記事の 5 つの問いを使ってほしい。
2. 品番を一意にする
同じ品番が 2 行ある状態のままでは移せない。2 社から買うために行を複製した品目は、1 行にまとめ、仕入先は品目の下に複数持つ形にする。品番の揺れ(全角と半角、ハイフンの有無、末尾の空白)の直し方と、取り込み前のチェックの順番はExcel の品目表を取り込む前に直すことに書いた。
3. 登録・変更してよい人を決める
Excel では、ファイルを開ける人は誰でも品目表を書き換えられた。システムに移したら、品目を新しく登録する人、既存の品目の値を変える人、廃止にする人を決める。全員が登録できる状態で始めると、似た品目が別々の品番で登録され、Excel の頃と同じ重複が起きる。登録の前に、品名や品番が似た品目がないかを確かめる手順を入れる。権限の切り方は購買システムの権限表の作り方を参照してほしい。
4. 変えたときの記録を残す
リードタイムや単位を変えたときに、変更前の値・変更後の値・変えた人・日時が残るようにする。仕入先からの通知や図面の改訂など、変更の根拠になった書類がある場合は、その書類の番号も残す。7 条記録を電磁的記録で作る場合、記録事項を訂正または削除したときはその事実と内容を確認できることが要件になっている[1]。品目マスタそのものは 7 条記録ではないが、発注の記録が品目の値に頼っているなら、品目の変更が記録に影響しないかを確かめる必要がある。
5. 移す順番を決める
品目は、取引先・単価・発注残よりも先に移す。単価も発注残も品目を指すからである。移行全体の順番と、移さずに旧の場所に残すものの考え方は受発注システムへのデータ移行で扱っている。
Excel のままでよい場合と、続けるなら変えること
品目が数百程度で、品目一覧を書き換える人が 1 人に決まっているなら、Excel のままでよい。その場合でも、次の 3 つを変えるだけで詰まり方はかなり減る。
1. 写さずに参照する。発注書や見積比較表には品番だけを入力し、品名や単位は品目一覧から関数で引く。値をコピーしないので、品目一覧を直せば引く側も直る。ただし過去に作った発注書のファイルまで変わってしまわないよう、発注書を確定するときに値に置き換えて保存する。
2. 列の定義シートを置く。品目一覧のファイルに、列ごとの意味・単位・入力例を書いたシートを 1 枚足す。
3. 変更履歴のシートを置く。値を変えたら、日付・品番・列・変更前・変更後・変えた人・理由を 1 行書く。手間はかかるが、「いつから 45 日になったのか」に答えられるようになる。
Excel では足りなくなる目安は、品目一覧を同時に複数人が書き換える、拠点や部署ごとに別の品目一覧がある、品目を BOM(部品表)から展開して発注量を出したい、在庫や発注の画面から品目の値を引きたい、のどれかに当てはまったときである。JIS Z 8141 は、BOM を「製品又は親部品を生産するのに必要な子部品の,種類及び数量を示したもの」と定義している[3]。親子の関係を Excel のシートで保つのは、品目の数が増えるほど難しくなる。安全在庫をどう見直すかは安全在庫を出庫実績から見直すで扱う。
よくある質問
品目一覧に単価の列を残してもよいですか
残すなら、どの取引先の、いつの、税抜か税込かの単価なのかを列の定義に書く。1 品目 1 単価の列だけでは、2 社から買っている品目や単価が改定された品目を表せない。単価を品目とは別の場所に持つ考え方は取引先ごとの単価を一か所で持つに書いた。
使っていない品目は、移さなくてよいですか
これから発注しない品目は移さなくてよい。ただし、旧の品目一覧は保存期間が満了するまで消さずに残す[5]。過去の注文書に書かれた品番の意味を引けるようにしておくためである。
品名は取引先の呼び方に合わせるべきですか
社内の品名は社内で一つに決め、取引先の品名や型番は品目の下に取引先ごとに持つ。取引先が発行する請求書の品名と自社の品名が違っても、対応が引ければ照合はできる[4]。注文書にどちらを書くかは自社品番と相手品番の記事で扱っている。
リードタイムは営業日と暦日のどちらで持つべきですか
どちらでもよいが、全品目で揃える。仕入先が営業日で回答してくるなら営業日のまま持ち、列の定義にそう書く。混ぜると、発注点の計算(調達期間中の推定需要量+安全在庫[3])が品目によってずれる。
まとめ
Excel の品目表が詰まるのは、値が写されて広がり、写した先がばらばらに古くなるからである。そこに、列の意味が人によって違うこと、変えた記録が残らないこと、行を消すと過去が説明できなくなることが重なる。システムに移すときは、持つ列とその意味・単位を 1 枚にまとめ、品番を一意にし、登録・変更してよい人を決め、変えたときの記録を残し、品目を最初に移す。発注の記録が品目の値を発注時点で写し取っているかも確かめておく。品目が少なく更新する人が 1 人なら、参照で引く・定義シート・変更履歴シートの 3 つで Excel のまま回せる。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
- JIS Z 8141:2022 生産管理用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
- 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(国税庁 軽減税率・インボイス制度対応室/平成 30 年 6 月・令和 8 年 5 月改訂)
- No.5930 帳簿書類等の保存期間(国税庁)
品目マスタを一か所に置き、変えた記録を残す
Newji one は、製造業の見積依頼から発注までを扱う見積・発注クラウドです。この記事で扱った項目のうち、Newji one の品目マスタでは品番・管理品番・品名・3 階層のカテゴリ・単位・単価・ロット・リードタイム・最小発注数・安全在庫・税区分・カスタム項目・スペック・添付・取引先を持て、登録・編集の画面で品番や品名が重なる品目があれば知らせる重複チェックと、品目の変更履歴があります。品目数はどのプランでも無制限です。CSV からの取り込みは新しい品目の登録に使うもので、既にある品番の値を CSV で更新することはできません。また、発注の明細は品目を参照する作りで、品名・規格を発注時点の値として写し取りません。品名や単価などの変更は品目の変更履歴に残りますが、スペック(材質・公差・規格・図面番号など)とカスタム項目の変更は履歴に残りません。送付した発注書の PDF も Newji one には保存されず、後から出力するとその時点の品目の値で作られます。発注書の PDF に刷られるのは品番・品名・数量・単価と発注全体の備考で、材質や公差などの規格は載りません。発注した時点の規格を残したい場合は、発注の備考欄に書いておくか、図面・仕様書をその版のまま別に保管してください。
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