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ステッピングモーターの選び方と発注——ドライバとの組合せ、脱調・共振、電源断で保持しない点

この記事のポイント(結論先出し)
ステッピングモーターは、モーター単体の型番だけでは性能が決まらない。出せるトルクはドライバが流す電流と電源電圧で変わり、中速域の振動はモーターの逆起電力に対して電源電圧が足りないことで起きると解説されている[1]。センサを使わずに位置を決める方式なので、共振などで脱調(指令どおりに回らない状態)すると、装置はずれたことを知らない[2]。また、電流を遮断すると保持力が消えるので、常に一方向から力がかかる用途では機械的なブレーキの併用が必要になる[1]。発注書には、モーターとドライバの組合せ、電源電圧と電流の設定、使う速度の範囲と負荷、使用の形式、電源を切ったときの保持の要否を書く。回転機の JIS は、使用の提示を購入者の責任としている[3]。
目次
この記事が扱う範囲
この記事は、搬送装置・検査装置・半導体製造装置など、工業用の装置や機器に組み込むステッピングモーターを、装置メーカーや部品の仕入先に発注するときの話である。電子工作向けの選び方は扱わない。
ステッピングモーターは、パルス信号が駆動回路(ドライバ)に入るたびに一定の角度で回るモーターで、センサを使わずに正確な位置決めができる。精密工学会誌の解説(2021 年)は、2 相ハイブリッド型を最も一般的な構造として紹介し、基本ステップ角 θ0 は 360 を「相の数×2×ローターの小歯の数」で割って求められ、ステップ角 1.8° の 2 相のモーターではローター表面の小歯の数が 50 枚であると説明している[1]。半導体製造装置や精密ステージ、チップマウンタなどの生産設備をはじめ、精密な動作が求められる用途に使われている[1]。
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JIS の製品規格が無いことを前提に、条件まで書いて発注する
三相かご形誘導電動機には効率クラスや寸法の JIS があるが、ステッピングモーターについては、日本産業標準調査会の JIS 検索で製品規格が見当たらない(2026 年 10 月時点、当方の確認)。国際規格では、IEC がステッピングモーターだけを対象にした技術仕様書 IEC TS 60034-20-1:2002 を出していたが、IEC のウェブストアでは 2025 年 1 月 24 日に廃止(Withdrawn)と表示されている[6]。この技術仕様書は、要求事項と試験、寸法と表示、製造業者がデータシートやカタログで示す内容を扱うものだった[6]。
つまり、カタログの保持トルクやトルク曲線が、どの条件で測った値なのかをそろえる共通の物差しが、いまは規格の形で手元に無い。発注側は、カタログの数字をそのまま比べるのではなく、測定の条件(ドライバ、電源電圧、電流の設定、励磁の方式)を製造業者の資料で確かめ、自社の使い方の条件を仕様書に書くことになる。回転機の一般的な事項を定めた JIS C 4034-1 は、使用の提示は購入者の責任であり、購入者が提示しない場合は製造業者は使用の形式 S1(連続使用)を想定する、としている[3]。ステッピングモーターでも、使い方を書かなければ仕入先は標準の条件で選ぶ。誘導電動機など一般のモーターの仕様書に書く項目はモーターの仕様書に書くことで扱った。
モーターとドライバは組で指定する
ステッピングモーターの出せるトルクは、モーター単体では決まらない。先の解説は、原理的にトルクはモーターの入力電流に比例するが、実際には比例関係にならず、ステーターとローターのコアに使う電磁鋼板の磁気特性のためにトルクが飽和する傾向にあると説明している[1]。電流をいくら設定するかで、出るトルクも発熱も変わる。
速度が上がったときの振る舞いは、電源電圧にも左右される。同じ解説は、中速振動の原因を、モーターの逆起電力に対して電源電圧が不足し、指令どおりの電流が流せず制御できなくなることだと述べ、対策として電流の振動を検出し、振動に応じてパルスの間隔を調整する方法を挙げている[1]。トルクの変動(トルクリップル)による振動については、低減するにはモーターとドライバの特性を最適化する必要がある、としている[1]。カタログのトルク曲線は特定のドライバと電源電圧で測ったもので、別のドライバや低い電源電圧で使えば、同じ曲線にはならない。
ここから、発注の書き方が決まる。モーターだけを買い、ドライバは別の仕入先から買う場合でも、組み合わせるドライバの形式、電源電圧、設定する電流、ステップの分割数を仕様書に書き、その組合せでのトルク曲線を製造業者に出してもらう(当方の提案)。装置メーカーに選定を任せる場合も、どの組合せで選んだかを資料で受け取る。
角度の精度は、累積しない誤差として読む
先の解説は、ドライバにはステップ角を細分化する機能があり、パルス 1 個ごとの回転角度であるステップ角 θs はモーターとドライバの組合せで決まると説明する[1]。そのうえで、ステップ角 θs は理論的に求められる数字で、実際の回転角とは異なり、このずれは静止角度誤差と呼ばれ、代表的なもので ±3′(±0.05°)以下、回転を繰り返しても誤差が累積されないため高精度な位置決めが可能である、としている[1]。
発注で注意したいのは、細分化した分解能と精度は別物だという点である。ステップを細かく分けると 1 パルスあたりの角度は小さくなるが、静止したときの角度の誤差は、分割しない状態の誤差と同じ考え方では決まらない。位置の精度が要る装置なら、「何分割で使うか」と「必要な位置の精度」を分けて書き、その組合せでの角度の誤差を製造業者に確かめる(当方の提案)。数値の ±0.05° は解説が示す代表的な値で、製品ごとの保証値ではない。
| カタログで見る値 | 何で変わるか | 発注で書くこと |
|---|---|---|
| 基本ステップ角(例:2 相で 1.8°) | モーターの構造(相の数とローターの小歯の数)[1] | 必要な分解能と、使う分割数 |
| 静止角度誤差(解説の代表例で ±0.05° 以下) | 製品とドライバの組合せ[1] | 必要な位置の精度(分解能とは別に) |
| トルク曲線 | ドライバ、電流の設定、電源電圧[1] | ドライバの形式・電源電圧・電流、使う速度の範囲 |
| 保持力 | 通電の有無。電流を遮断すると消える[1] | 電源を切ったときに保持が要るか(ブレーキの要否) |
共振と脱調:ずれても装置は気づかない
ステッピングモーターの振動の要因として、先の解説は共振を挙げ、共振とはパルス周波数やトルク変動の周波数とモーターの共振振動数が一致することで、シャフトの速度変動が急激に大きくなる現象だと説明している[1]。電気学会論文誌の研究開発レター(2004 年)は、フルステップ駆動による連続回転時に発生する回転子の固有振動が低速域共振の原因となり、脱調を生じる不安定現象の要因となる、としている[2]。対策の一つとして、各相に流す電流を制御してステップ角を細分化するマイクロステップ駆動があり、安定点の移動量が減って振動が低減すると解説されている[1]。
脱調が問題になるのは、ステッピングモーターがセンサを使わない方式だからである。一定速度で回転中に外乱が生じた場合、サーボモーターはフィードバックの信号で状態を回復するが、ステッピングモーターは制御にセンサを使わない[1]。指令どおりに回らなくても、制御側はパルスを送った数だけ回ったものとして次の動作に進む。
発注側としては、使う速度の範囲と負荷(負荷の慣性、摩擦、外力)を仕様書に書き、その範囲に共振で脱調しやすい速度が入っていないかを、実際の負荷をつないで確かめてもらう(当方の提案)。位置がずれることが不良や危険につながる装置では、原点センサや位置の検出を加えて、ずれを検出できるようにするかどうかを設計側と決める。位置を検出する部品として使うリミットスイッチの選び方は、同じ束のリミットスイッチの選び方で扱う。
電源を切ると保持しない:上下に動く軸ではブレーキが要る
ステッピングモーターは、一定の電流を流すことで保持力を発生し、ある程度の外力が加わっても回転しない。しかし先の解説は、モーター電流が遮断されると保持力も消失するため、常に一方向からの力がかかる用途では機械的なブレーキの併用が必要になる、としている[1]。上下に動く軸、傾いた搬送路、ばねで押されている機構などがこれに当たる。停電、非常停止、ドライバの異常で電流が切れたとき、負荷が落ちたり戻ったりする。
ブレーキを付ける場合の電気側の扱いについて、機械の電気装置の JIS B 9960-1 は、機械的ブレーキのアクチュエータのための過負荷保護機器や過電流保護機器が作動した場合には、関連する機械アクチュエータの動力も同時に非通電にしなければならない、としている[5]。ブレーキだけが外れてモーターが動き続ける状態を作らないためである。発注書には「電源遮断時に負荷を保持すること」と、保持すべき負荷(質量と向き)を書き、ブレーキ付きのモーターにするのか、機構側で保持するのかを設計側で決める。
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止まっている間も発熱する:使用の形式と温度を書く
ステッピングモーターは、止まって位置を保持している間も電流を流し続けることが多い。回転していないから軽い使い方だ、とは言えない。JIS C 4034-1 は、購入者は負荷と使用の形式を提示し、S1〜S10 のいずれかを選ぶか、負荷の時間変化を記載する、としている[3]。運転と停止を繰り返す搬送であれば、動いている時間と止まって保持している時間、そのときの電流の設定を書く。
モーターの巻線の絶縁が耐えられる温度は、耐熱クラスで表される。JIS C 4003 は、電気絶縁システムの耐熱クラスが指定された場合、それは電気絶縁材料の組合せが適切な場合の推奨最高連続使用温度(℃)を意味するとし、130(B)、155(F)、180(H)などの呼び方を定めている[4]。同じ規格は、電気絶縁システムの耐熱クラスから、その構成に含まれる電気絶縁材料の耐熱性を推定してはならないとしている[4]。モーターの銘板やカタログの耐熱クラスは巻線を含むシステムとしての値で、周囲の温度と自己発熱を足した温度がその範囲に入るかを製造業者に確かめる。
JIS B 9960-1 は、電動機と関連装置の特性を、想定する用途と物理的環境条件に適合するように選定しなければならないとし、考慮すべき事項として、電動機の種類、デューティサイクルの種類、定速か可変速か、機械的振動、電動機制御の種類、起動方法、大きな慣性をもつ負荷の影響などを挙げている[5]。ステッピングモーターの仕様書も、この並びで書くと抜けが少ない。
発注書・仕様書に書く項目の一覧
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| モーターとドライバ | 形式の組合せ、電源電圧、電流の設定、ステップの分割数 |
| 負荷 | 負荷の慣性、摩擦、外力の向き(上下軸か)、減速機やボールねじの有無 |
| 動き方 | 使う速度の範囲、加減速の時間、動作と停止(保持)の時間の割合 |
| 精度 | 必要な分解能と位置の精度(分けて書く)、脱調の検出の要否 |
| 電源遮断時 | 保持の要否、保持すべき負荷、ブレーキの有無 |
| 環境 | 周囲温度、取付け面の放熱、粉じん・液のかかり方 |
| 資料 | 上記の組合せでのトルク曲線、耐熱クラス、外形図と取付け寸法 |
| 変更 | モーター・ドライバの形式やファームウェアの変更は事前に連絡 |
軸とボールねじ・減速機をつなぐ部品の指定は、同じ束の軸継手の選び方とボールねじの精度等級で扱う。
受け入れるとき、交換品を買うときに確かめること
受入では、モーターとドライバの形式が注文どおりの組合せになっているかを、銘板と部品表で突き合わせる。ドライバの電流や分割数をスイッチや設定で決める製品なら、出荷時の設定値を記録で受け取る(当方の提案)。設定が違えば、同じモーターでもトルクと発熱が変わる。
保守用に同じ形式を買い置きする場合、ドライバ側の生産終了が先に来ることがある。モーターだけ同じ形式を確保しても、組み合わせるドライバが替われば、トルク曲線と振動の出方は確かめ直しになる。どの部品の生産終了の知らせをどう受け取るかは汎用・レガシー半導体の長期確保で、組込みの電子部品の模倣品を避ける買い方は電子部品の模倣品を避ける調達で扱った。
注文書の書き方の例
決まった書式は無いので、上下軸の搬送に使う場合を例に、ここまでの項目を文にしてみる。
「品名:ステッピングモーター(2 相、基本ステップ角 1.8°)、形式:○○、組み合わせるドライバ:○○、電源電圧 DC 24 V、電流設定○ A、分割数○。用途:上下軸の搬送(負荷質量○ kg、ボールねじ駆動)。使う速度の範囲:○〜○ pps、加減速時間○ ms。動作と保持の時間の割合:○ %。電源遮断時に負荷を保持すること(電源が切れると作動するブレーキ付き)。周囲温度:最高 40 ℃。上記の組合せでのトルク曲線と耐熱クラスを記載した資料を添付すること。モーター・ドライバの形式変更は事前承認を要する。」
よくある質問
カタログの保持トルクが大きいほうを選べば安心ですか
保持トルクは止まっているときの値で、回しながら出せるトルクは速度とドライバ・電源電圧で変わる[1]。使う速度の範囲でのトルク曲線を、実際に組み合わせるドライバと電源電圧の条件で比べる。
位置がずれることがあります。モーターを大きくすれば直りますか
大きくしても直らない場合がある。低速域の共振は脱調を生じる不安定現象の要因とされ[2]、中速域の振動は電源電圧の不足でも起きる[1]。ずれる速度と負荷の条件を記録し、マイクロステップ駆動や電源電圧を含めて製造業者と確かめる。
停電のときに軸が落ちないようにするには
電流が遮断されると保持力は消えるので、常に一方向から力がかかる用途では機械的なブレーキの併用が必要になる[1]。ブレーキの保護機器が作動したときにモーターの動力も切れるようにする[5]。
まとめ
ステッピングモーターは、ドライバ・電源電圧・電流の設定と組で性能が決まる。JIS の製品規格が見当たらず、IEC の技術仕様書も廃止と表示されているので、カタログの数字の条件を確かめ、自社の使い方を仕様書に書く。角度の誤差は累積しない誤差だが、分割した分解能と位置の精度は分けて書く。共振で脱調しても装置は気づかないので、使う速度の範囲と負荷を示して実機で確かめ、必要なら位置の検出を加える。電流を切ると保持力が消えるので、上下に動く軸などではブレーキを付ける。止まって保持している間の発熱も含めて、使用の形式と周囲温度を書く。
同じ束では、リミットスイッチの選び方、端子台の選び方、ケーブルグランドの選び方、電解コンデンサの寿命の見方も扱う。
出典・参考資料
- 須原亨「ステッピングモーターの振動低減技術」精密工学会誌 87 巻 3 号(解説)(精密工学会/2021 年)
- 三浦武・谷口敏幸「ステッピングモータのフルステップ駆動における固有振動の抑制」電気学会論文誌 D 124 巻 5 号(研究開発レター)(電気学会/2004 年)
- JIS C 4034-1:2023 回転電気機械-第1部:定格及び特性(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 2 月 20 日改正)
- JIS C 4003:2010 電気絶縁-熱的耐久性評価及び呼び方(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2010 年 12 月 20 日改正)
- JIS B 9960-1:2019 機械類の安全性-機械の電気装置-第1部:一般要求事項(追補 1:2023 を含む)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 3 月 25 日改正)
- IEC TS 60034-20-1:2002 Rotating electrical machines – Part 20-1: Control motors – Stepping motors(国際電気標準会議 ウェブストア/2002 年 1 月 18 日発行・2025 年 1 月 24 日廃止と表示)
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