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外注契約書に入れる条項——書かなかったときに当たる既定値から決める

この記事のポイント(結論先出し)
外注契約書の条項は、書かなかったときに何が代わりに適用されるかで選ぶ。書かなければ空白になるのではなく、民法や中小受託取引適正化法の定めがそのまま当てはまる。たとえば不適合の通知期間を書かなければ、請負として扱われる取引では、種類または品質の不適合について、注文者が知った時から一年という民法第六百三十七条の期間が働く[2]。ところが、相手が自分で材料を調達して規格品を作って納める形の外注は売買として扱われることがあり、そのときは商法第五百二十六条により、受領したら遅滞なく検査し、不適合を見つけたら直ちに通知しなければ権利を失う[7]。再委託を書かなければ、請負には制限の条文が置かれていないため止める根拠がない[2]。検査の合否基準を書かなければ、納品物を不合格にして受け取らないという扱いが認められない場合がある[1]。そして契約書を結んでも、発注のたびに必要な明示義務は別に残る[3]。
目次
契約書に書かないと、法律の既定値がそのまま当てはまる
外注の契約書づくりが止まる理由は、たいてい「どの条項を入れるべきか分からない」ではなく「入れなかったらどうなるかが分からない」ことにある。ひな型を眺めても、その条項が守っているものが見えない。
順番を逆にすると決めやすい。条項ごとに、書かなかった場合に何が当てはまるかを先に並べる。既定値のままで困らない項目は、無理に書かなくてよい。既定値のままだと自社の運用と噛み合わない項目だけを、契約書に書く。
ただし、既定値が一つに決まらない項目がある。あとで見る不適合の通知期限と支払期日がそれで、前者は同じ外注でも請負扱いか売買扱いかで期限の桁が変わり、後者は書かなかったときのほうが不利な既定値になる。この二つは省かずに書く。
| 書かなかった条項 | 代わりに当てはまるもの | 現場で起きること |
|---|---|---|
| 成果物の範囲 | 民法第六百三十二条の「仕事の完成」だけ[2] | 完成したかどうかの線引きが、渡した図面と口頭のやりとりに委ねられる |
| 検査の合否基準 | 定めなし | 委託内容と異なることが明らかでないとして、受領を拒めない場合がある[1] |
| 不適合の通知期間 | 請負として扱われるなら民法第六百三十七条の「知った時から一年以内」(種類・品質の不適合)[2]。売買として扱われるなら商法第五百二十六条の「遅滞なく検査・直ちに通知」[7] | どちらに当たるかで期限の桁が変わる。売買と見られる取引では、受領後すぐに動かない限り追完も減額も請求できない |
| 報酬の支払時期 | 民法第六百三十三条の「目的物の引渡しと同時」[2] | 締め日と支払日で回している自社の経理運用と食い違う |
| 再委託の可否 | 請負の規定に制限なし。準委任は民法第六百四十四条の二で許諾が必要[2] | 請負として結んでいると、面識のない工場へ出されても契約違反にならない |
| 支払期日 | 中小受託取引適正化法第三条第二項の前段(定めなかったとき)のみなし規定[3] | 契約書にも発注書にも書かなければ、受領した日が支払期日とみなされる。翌日以降の支払はすべて支払遅延になる |
| 秘密保持 | 不正競争防止法第二条第六項の営業秘密に当たる情報だけ[4] | 渡した図面が秘密として管理されていなければ、法律上の保護が及ばない |
継続して取引する相手なら、これらの共通条件を一本の基本契約にまとめる方法がある。基本契約と個別の発注をどう役割分担させるかは基本取引契約書と個別契約の関係で扱っている。この記事は、一件の外注について契約書に何を書くかに絞る。
成果物の範囲——何を納めれば完成なのかを決める
民法第六百三十二条は、請負を、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約と定めている[2]。条文が言っているのは「完成」までで、何をもって完成とするかは書かれていない。そこは当事者が決める。
中小受託取引適正化法のテキストは、給付の内容として、品目、品種、数量、規格、仕様等を明示する必要があるとし、明示に当たっては相手方がその内容を見て理解でき、委託事業者の指示に即した給付を作成または提供できる程度の情報を示すことが必要だと説明している[1]。この水準は、そのまま契約書の成果物条項の水準として使える。
図面と仕様書は別紙にして、優先順位を先に決める
成果物の中身を本文に書き込むと、改訂のたびに契約書を巻き直すことになる。実務では別紙にして、本文からは別紙を指し示す形にする。そのとき効いてくるのが、本文と別紙で食い違ったときにどちらが優先するかの一行である。
加工品の外注では、図面、仕様書、部品表、過去の承認図の四つが同時に生きていることが珍しくない。どれが最新でどれが優先するかを決めていないと、寸法公差の解釈が割れたときに拠りどころがなくなる。構成部品の並びを一覧にする方法は部品表(BOM)の作り方で扱っている。仕様の書き方そのものは購買仕様書の書き方にまとめてある。
こちらが出した図面の不備は、相手の責任にできない
ここは外注する側が見落としやすい。民法第六百三十六条は、請負人が種類または品質に関して契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合でも、注文者が供した材料の性質または注文者が与えた指図によって生じた不適合については、注文者は追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができないと定めている[2]。ただし請負人がその材料または指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでないという但し書きが付く[2]。
つまり、こちらが渡した図面のミスから生じた不良は、契約書に何を書いてあっても相手に転嫁できない。裏を返せば、相手が気づいていながら黙っていた場合には話が変わる。だからこそ、図面の疑義があったときに申し出る手順を条項として置く意味がある。「疑義があれば着手前に書面で照会する」という一行は、相手を縛るためではなく、この分岐を運用に落とすためのものである。
検査——期限より先に、合否の基準を決める
検査条項というと納入後何日以内という期限の話になりがちだが、先に決めるべきは合否の基準のほうである。基準がないと、期限だけあっても不合格の判断ができない。
中小受託取引適正化法のテキストは、相手方の責めに帰すべき理由があるとして給付の受領を拒むことができるのは、給付の内容が明示された委託内容と異なること等がある場合と、明示された納期までに給付が行われなかったためにそのものが不要になった場合の二つに限られると整理している[1]。そのうえで、委託内容の明示を欠いた場合や、検査基準をはっきりさせていなかった場合については、納品されたものが委託した内容と違うと言い切れないのだから受領を拒むことは認められない、という整理を示している[1]。
同じテキストには、あらかじめ検査基準を記載した発注書面を交付せず検査基準を明確にしていなかったにもかかわらず、受領したデータの一部を不合格として受領しなかった事例が、受領を拒んではならないという規定に反するものとして載っている[1]。検査基準を書いていないことが、そのまま不利に働いた形である。
発注後に基準を動かすのも同じ扱いになる。検査基準を恣意的に厳しくすることによって、従来の基準で合格とされたものを不合格とする場合は、委託内容と異なることを理由とした受領拒否として認められない[1]。金型の製造委託で、従来の基準では合格していたものについて検査基準を一方的に変更し、無償でやり直しを求めた事例も挙がっている[1]。受け取ったあとの返品ややり直しをどこまで求められるかは受領拒否・返品・やり直しの線引きで個別に扱っている。
条項に落とすなら、測定方法、サンプリングの数、判定の値、そして誰が判定するかまで書く。基準そのものが長くなる場合は別紙にして、契約書からは別紙の版数で指し示す。版数を書いておくと、あとから基準を差し替えたことが記録に残る。
不適合の通知期限——請負か売買かで、桁が変わる
検査で合格させたあとに不具合が出たとき、いつまでに言えば追完ややり直しを求められるのか。ここは既定値が一つに決まらない。同じ「外注」でも、その取引が請負と見られるか売買と見られるかで、期限がまるで違うからである。
請負のほうの既定値は民法第六百三十七条である。見出しが「目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限」であるとおり、対象は種類または品質の不適合に限られ、数量の不足はここに入らない[2]。同条第一項は、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができないと定めている[2]。第二項は、目的物を引き渡した時において請負人が不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、第一項を適用しないとしている[2]。起算点が引渡しではなく「知った時」なので、後から出てきた不具合にも通知の余地が残る。
ただし無期限ではない。代金の返還や損害賠償を求める債権そのものには民法第百六十六条第一項の消滅時効がかかり、権利を行使することができることを知った時から五年間、または権利を行使することができる時から十年間行使しないときは、時効によって消滅する[2]。「知った時から一年」は、この時効の枠の内側での話になる。
売買と見られると、受領後すぐに動かない限り権利が消える
見落とされやすいのはこちらである。商法第五百二十六条第一項は、商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならないとしている[7]。第二項は、その検査によって種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができないとし、種類または品質に関する不適合で直ちに発見することができないものについて、買主が六箇月以内にこれを発見したときも同様だとしている[7]。前段は数量の不足も含むが、六箇月の後段は種類と品質だけを対象にしている点が違う[7]。第三項では、売主が不適合を知っていた場合にはこの制限を適用しないという例外が置かれている[7]。
会社どうしの取引であれば「商人間」の要件は満たす。残る分かれ目は、その契約が売買と見られるかどうかである。判断は、当事者の意思が仕事の完成に重きを置いているか、物の所有権の移転に重きを置いているかによる[8]。国税庁は印紙税の判定基準として、注文者が材料の全部または主要部分を提供して製作させるもの、製作者の材料を用いて注文者の設計または指示した規格等に従い一定物品を製作するもの、修理または加工を内容とするものを請負に当たると整理する一方で、あらかじめ一定の規格で統一された物品を注文に応じ製作者の材料を用いて製作し供給するものは売買に当たると整理している[8]。
読み替えると、こちらの図面と指示で作らせる加工の外注は請負に寄るが、相手の標準品やカタログ品を相手の材料で作らせて納めさせる形は売買に寄る。同じ仕入先に両方を出している会社は珍しくない。通知期限を契約書に書いていないと、どちらの既定値が当たるかが後から争点になる。
だから、この項目を「既定値のままでよい」と判断してはいけない。検査の合否基準と合わせて、不適合を発見してから何日以内に通知するか、受入検査で見つけられない不具合についていつまで遡れるかを書く。継続する相手について通知期限を基本契約の側に置く場合の考え方は基本取引契約書と個別契約の関係で扱っている。
所有権と危険負担——完成前に燃えたら誰が負担するか
民法の請負の規定には、完成した目的物の所有権が誰にいつ移るかを直接定めた条文が置かれていない。だから契約書で決める。多くの外注契約が引渡しまたは検収の完了をもって移転すると書くのは、そこが支払いや保険の起点になるからである。
報酬の側は条文がある。民法第六百三十三条は、報酬は仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならないとしている[2]。締め日と支払日で回している会社は、この既定値と自社の運用がずれるため、支払条件の条項が必要になる。
完成しなかった場合の扱いも決めておく。民法第六百三十四条は、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき、および請負が仕事の完成前に解除されたときについて、既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができると定めている[2]。より一般的には、民法第五百三十六条第一項が、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができるとしている[2]。工程の途中で中止になったときにどこまで払うかは、この可分性の考え方を契約書に具体化しておくと揉めにくい。
貸与した金型や治具の保管を、書き落とさない
外注では、こちらが持つ金型や治具を相手に預けたまま次の発注を待つ場面が出る。ここに落とし穴がある。中小受託取引適正化法のテキストには、自社が所有する金型等を貸与して製造を委託していた事業者が、次回以降の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず、保管費用の支払等について取決めを行うことなく無償で保管させていた事例が、不当な経済上の利益の提供要請に関する違反行為として載っている[1]。
契約書に貸与物の一覧、保管の条件、費用の負担、返還または廃棄の手順を書いておく。次の発注の見込みが立たなくなったときにどうするかも一行入れておくと、判断の先延ばしを防げる。有償で支給する材料や金型の費用そのものの扱いは有償支給材と金型代の扱いで扱っている。
知的財産——帰属を一行書いても、対価の話は残る
外注先の作業から権利が生まれる場面では、帰属だけを書いても足りない。中小受託取引適正化法のテキストは、主に情報成果物の作成委託に係る作成過程を通じて中小受託事業者の知的財産権が発生する場合があるとしたうえで、委託事業者が情報成果物を提供させるとともに、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該知的財産権を自らに譲渡または許諾させることを含んで発注する場合には、給付の内容の一部としてその譲渡または許諾の範囲を明示する必要があるとしている[1]。そのうえで、その場合は給付の内容に知的財産権が含まれることになるので、代金には譲渡または許諾に係る対価を加える必要があると述べている[1]。
この整理は情報成果物作成委託の文脈で置かれているものである。もっとも、同じテキストは情報成果物の例として設計図を挙げており[1]、加工の外注でも、金型の設計や治具の図面のように図面そのものの作成を委託する部分が混ざれば、その部分にこの考え方が当たる。
実務上の分かれ目は、権利の移転を今回の発注に含めるかどうかである。テキストの想定問答では、委託した給付の内容に含めず、後日、譲渡対価や許諾対価を支払って譲渡または許諾させる場合には、受託取引とは別個の契約となり、その譲渡または許諾についての発注時の明示は要しないとされている[1]。契約書の条項を書くときも、この二通りのどちらで運用するかを先に決めておくと、代金の内訳を組み立てやすい。
加工の外注では、権利そのものより物の扱いのほうが問題になることが多い。渡した図面の返還と複製の可否、試作で残った部品の処分、量産に移ったあとの旧図面の破棄。こうした「物としての扱い」は知的財産の条項とは別に、貸与物の条項に寄せて書いたほうが運用しやすい。
再委託——請負では、書かなければ止められない
民法の請負の規定は、第六百三十二条から第六百四十二条までのあいだに、再委託を制限する条文を置いていない[2]。仕事が完成すればよいという建て付けだからである。一方、委任については民法第六百四十四条の二が、受任者は委任者の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ復受任者を選任することができないと定めており[2]、この規定は第六百五十六条によって準委任にも準用される[2]。
つまり、同じ「外注」でも、請負として結んだか準委任として結んだかで、再委託の既定値が逆になる。請負のつもりで結んでおきながら再委託を止めたいなら、条項で書くしかない。この請負と委任の区別そのものは外注と委託の違いで扱っている。
条項の作りは三段になる。事前承諾を要するかどうか、承諾する場合に再委託先の情報をどこまで出させるか、そして再委託先の行為について元の相手がどこまで責任を負うか。秘密保持と貸与物の条項を再委託先にも及ぼす旨を書き添えておかないと、鎖がそこで切れる。
自社が受けた仕事を子会社へ流している場合には、別の論点が加わる。中小受託取引適正化法第二条第十項は、一定の支配関係にある事業者が、受けた製造委託等の全部または相当部分について再委託をする場合に、再委託をする事業者を委託事業者、再委託を受ける事業者を中小受託事業者とみなすと定めている[3]。テキストは、この「相当部分」の例として、親会社から受けた委託の額または量の五十パーセント以上を再委託している場合を挙げている[1]。規模の条件をどう当てるかは取適法の対象判定にまとめてある。
秘密保持——契約書を結んだだけでは営業秘密にならない
不正競争防止法第二条第六項は、営業秘密を、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものと定義している[4]。秘密として管理されていること、有用であること、公然と知られていないこと。この三つがそろって初めて営業秘密になる。
秘密保持契約は、このうち管理の実体を作る手段の一つでしかない。契約書を交わしたうえで、渡す図面に秘密である旨の表示を付ける、受け渡しの記録を残す、閲覧できる担当者を限る、といった運用が伴わないと、管理されている状態にならない。条項に落とすなら、対象となる情報の範囲、表示や記録の方法、返還または廃棄の期限、そして契約が終わったあと何年続くかまで書く。
期間の書き方には注意が要る。「永久に」と書くと、相手にとって管理を続ける負担が終わらない。技術情報の陳腐化の速さに合わせて、現実に守れる年数にしておくほうが、実際には守られる。
支払条件——書かなくても、六十日を超えて書いても、期日は勝手に決まる
中小受託取引適正化法第三条第一項は、代金の支払期日は、給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して六十日の期間内において、かつできる限り短い期間内において定められなければならないとしている[3]。
続く第二項には、枝が二つある。第一の枝は、支払期日が定められなかったときで、この場合は給付を受領した日が支払期日と定められたものとみなされる[3]。第二の枝は、第一項に違反して支払期日が定められたときで、この場合に受領した日から起算して六十日を経過した日の前日がみなしの期日になる[3]。
ここを取り違えると、まったく逆の運用になる。契約書にも発注書にも支払期日を書かなかった場合に当たるのは第一の枝であって、六十日の猶予が付くわけではない。受領した日そのものが期日になるので、翌日以降に払えば支払遅延である。書かないほうが不利になる、数少ない条項だと考えておく。
第二の枝が働くのは、書いたけれども六十日を超えていた場合である。契約書に長い支払サイトを書いても、その合意が上限を超えることはできない。締め日と支払日の組み合わせをどう設計するか、遅れたときにどうなるかは支払期日と遅延利息で扱っている。
契約書があっても、発注ごとの明示義務は残る
ここを取り違えると、契約書を結んだことで安心してしまう。中小受託取引適正化法第四条第一項は、製造委託等をした場合は直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日および支払方法その他の事項を、書面または電磁的方法により明示しなければならないと定めている[3]。テキストは具体的な明示事項として、当事者の名称、委託をした日、給付の内容、給付を受領する期日、給付を受領する場所、検査をする場合はその検査を完了する期日、代金の額、支払期日など、全部で十二の項目を挙げている[1]。
契約書は、このうち一定期間共通である事項を先にまとめておく道具として使える。ただし共通化には条件があり、共通事項の明示と個別の発注を関連付ける必要がある[1]。その仕組みは基本取引契約書と個別契約の関係に、十二項目それぞれの中身は発注書に必要な十二項目に分けてある。
あわせて、第七条が、給付、給付の受領、代金の支払その他の事項について記載しまたは記録した書類または電磁的記録を作成し、保存しなければならないと定めている[3]。契約書だけを金庫にしまっても、この義務は果たせない。
収入印紙——外注契約書は何号文書になるか
一件の外注について仕事の完成と報酬を定める契約書は、印紙税では第二号文書の請負に関する契約書に当たりうる。国税庁の説明では、請負とは当事者の一方がある仕事の完成を約し、相手方がこれに報酬を支払うことを約束することによって成立する契約であり、工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、会計監査契約書などがこれに含まれるとされている[5]。税額は契約金額の区分によって変わり、金額の記載のないものは 200 円とされている[5]。
見落とされやすいのは、同じ「外注契約書」という表題でも、特定の相手方との間で継続的に生じる取引の基本を定める内容であれば、第七号文書の継続的取引の基本となる契約書として扱われうる点である[6]。こちらは一通につき 4,000 円という定額になる[6]。ただし、その契約書に記載された契約期間が 3 か月以内であり、かつ更新の定めのないものは、第七号文書から除かれる[6]。判定されるのは表題ではなく中身なので、契約書の形を決める段階で見ておく。
| 契約書の中身 | 当たりうる号 | 税額の決まり方 |
|---|---|---|
| 一件の加工や製造を頼み、仕事の完成と報酬を定めるもの | 第二号文書[5] | 契約金額の区分で段階的に上がる[5] |
| 特定の相手方との継続的な取引の基本を定めるもの | 第七号文書[6] | 一通につき 4,000 円の定額[6] |
| 一件の請負を定めるもので、契約金額の記載がないもの | 第二号文書[5] | 200 円[5] |
| 継続的な取引の基本も定めていて、契約金額の記載がないもの | 第七号文書(通則 3 のイ)[9] | 一通につき 4,000 円[6] |
実務でいちばん効くのは、金額を書いていない二つの行の違いである。印紙税法別表第一の課税物件表の適用に関する通則 3 のイは、第一号または第二号に掲げる文書と第三号から第十七号までに掲げる文書とに該当する文書は第一号または第二号の文書とするとしたうえで、ただし書で、第一号または第二号に掲げる文書で契約金額の記載のないものと第七号に掲げる文書とに該当する文書は、第七号に掲げる文書とすると定めている[9]。国税庁の質疑応答事例も、記載金額のない請負契約で継続するものは第七号文書になると説明している[8]。単価表を別紙に逃がして本文に金額を書かない外注基本契約書は、まさにこの形に当たる。金額の記載がないことだけを見て 200 円を貼ると、3,800 円の不足になる。
実務では、単価表を別紙にして期間を区切った外注契約書を作ったつもりが、中身は継続的な取引の基本を定めるものになっていた、という形で判定が変わる。契約金額の区分ごとの税額と、注文書や注文請書の側の考え方は注文書に収入印紙は必要かにまとめてあるので、貼る額を確かめるときはそちらを見てほしい。
よくある質問
相手が用意したひな型に押印してよいか
中身を見たうえでなら問題はない。ただし読む順番を決めておく。支払期日が六十日の枠に収まっているか[3]、検査の合否基準が別紙も含めて定まっているか[1]、不適合の通知期限がそもそも置かれているか、置かれているなら請負と売買のどちらを前提にした期間になっているか[2][7]、再委託の扱いが自社の想定と合っているか[2]、貸与する金型や治具の保管費用に触れているか[1]。この五点は、あとから直そうとすると相手の社内手続をやり直させることになるので、押印の前に見る。とくに通知期限は、空欄のまま結んだ取引が売買と見られると、種類または品質の不適合について受領後すぐに動かない限り追完も減額も求められなくなる[7]。
注文書と注文請書だけで、契約書は無くてもよいか
それだけで違法になるわけではない。ただし注文書に書ける分量には限りがあるため、検査の基準や貸与物の扱いといった長い取り決めは、どこかに置き場所が要る。取引が一回きりで金額も小さいなら、注文書の裏面規定で足りることもある。繰り返す相手なら、共通条件を一度書いておくほうが、発注のたびの手間が減る。
電子契約でも同じ条項でよいか
条項の中身は変わらない。変わるのは記録の残し方で、中小受託取引適正化法第七条の書類または電磁的記録の作成と保存が、電子でやりとりした場合にも同じくかかる[3]。加えて、第四条第一項の明示は書面でも電磁的方法でもよいが、相手から書面の交付を求められたときは、遅滞なくこれを交付しなければならないとされている[3]。電子に切り替えるときは、この求めに応じる手順を社内で決めておく。
秘密保持契約を別に結んでいれば、契約書には書かなくてよいか
別契約でも構わない。ただし外注契約書の側から、その秘密保持契約を指し示しておく。指し示しがないと、どの取引にどの秘密保持契約がかかるかが後から分からなくなる。再委託を認める条項を置くなら、秘密保持の義務を再委託先にも負わせる旨を、どちらか一方の契約書に必ず書く。
まとめ
外注契約書の条項は、ひな型の項目を埋める作業ではなく、既定値を上書きする作業である。成果物の範囲は民法が「完成」としか言わないから書く[2]。検査は基準がないと不合格の判断そのものが認められないことがあるから書く[1]。所有権は請負の規定に移転時期の定めが置かれていないから書く[2]。知的財産は、範囲を給付に含めるなら対価を代金に加える必要があるから書く[1]。再委託は、請負では止める条文がないから書く[2]。秘密保持は、管理の実体がないと営業秘密にならないから書く[4]。不適合の通知期限は、種類・品質について、請負なら知った時から一年だが、売買と見られれば受領後直ちにの通知が要るから書く[2][7]。
逆に、支払期日のように法律が上限を決めている項目は、契約書で緩めることができない。しかも省いたときに待っているのは猶予ではなく、受領した当日が期日とされて翌日から遅延が始まる状態である[3]。緩められないうえに、書かなければ最も不利な側に振れる。だから支払期日は、上限に収まっているかを確かめたうえで必ず書く。そして契約書を結んでも、発注ごとの明示と記録の保存は別に残る[3]。契約書は取引の全部を覆う傘ではなく、発注書と記録と組み合わせて初めて成り立つ一枚である。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 民法(明治二十九年法律第八十九号)第百六十六条・第五百三十六条・第六百三十二条から第六百四十二条まで・第六百四十四条の二・第六百五十六条(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律 第 2 条・第 3 条・第 4 条・第 7 条(e-Gov 法令検索/昭和 31 年法律第 120 号)
- 不正競争防止法(平成 5 年法律第 47 号)第 2 条第 6 項(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- No.7102 請負に関する契約書(国税庁)
- No.7104 継続的取引の基本となる契約書(国税庁)
- 商法(明治 32 年法律第 48 号)第 526 条(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 請負と売買の判断基準(1)(国税庁・質疑応答事例)
- 印紙税法(昭和 42 年法律第 23 号)別表第一 課税物件表の適用に関する通則 3(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
契約書に書いた条件を、発注のたびに引き写さない
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