- お役立ち記事
- 発注する人と検収する人を分ける——職務分掌の線と、分けられないときの代替統制 3 つ
発注する人と検収する人を分ける——職務分掌の線と、分けられないときの代替統制 3 つ

この記事のポイント(結論先出し)
発注も検収も支払依頼も同じ人がやっている、という状態をどう直すか。ここで先に決めるべきは承認の段数ではなく、誰と誰を分けるかである。金融庁の内部統制の基準は、統制活動の説明のなかで、職務を複数の者の間で適切に分担または分離させることが重要だとしたうえで、具体例として取引の承認・取引の記録・資産の管理という三つの職責をそれぞれ別の者に担当させることを挙げている。購買に置き換えると、発注を決める人、検収と記録を残す人、モノと金を動かす人である。そして分けられない会社の答えは「諦める」でも「無理に分ける」でもない。国の会計制度も、兼務を禁じる条文を置きながら、兼務が起きたときは確認そのものを省かず自分で行うと書いている。分掌の代わりになるのは、事後の突合・上長の閲覧・記録の保全の三つで、いずれも人数を増やさずに置ける。
目次
分けるものは「工程」ではなく「職責」である
職務分掌の話は、たいてい「発注担当と検収担当を分けましょう」から始まる。だが工程の名前で分け始めると、工程が増えるたびに分け方を考え直すことになり、しかも人数が足りない会社では最初の一手で行き止まる。出発点を、工程ではなく職責に置き直したほうが早い。
根拠になるのは金融庁の企業会計審議会が定めた「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」である。この基準は内部統制を、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全という四つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスと定義し、統制環境・リスクの評価と対応・統制活動・情報と伝達・モニタリング・ITへの対応という六つの基本的要素から構成されるとしている[1]。職務分掌が置かれているのは、このうちの統制活動である。基準は「統制活動には、権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続が含まれる」と書いている[1]。
実施基準は、そこから一歩踏み込んで具体例を挙げている。経営者は不正または誤謬等の行為が発生するリスクを減らすために各担当者の権限及び職責を明確にし、その範囲で業務を遂行していく体制を整備することが重要であり、その際、職務を複数の者の間で適切に分担または分離させることが重要である。例えば、取引の承認、取引の記録、資産の管理に関する職責をそれぞれ別の者に担当させることにより、それぞれの担当者間で適切に相互牽制を働かせることが考えられる、というのがその記述である[1]。
ここが出発点になる。分けるのは工程ではなく、この三つである。購買の言葉に置き換えると次のようになる。
| 基準が挙げる職責 | 購買での中身 | その職責だけを持つ人にできること |
|---|---|---|
| 取引の承認 | 購買申請の可否、発注先と単価の決定、発注の確定 | 発注は出せるが、届いたことにはできない |
| 取引の記録 | 検収の登録、入庫数の記録、請求書の照合、仕訳 | 記録は書けるが、発注そのものを作れない |
| 資産の管理 | 現品の受入と保管、棚卸、支払の実行 | モノと金は動かせるが、記録と合わなくなる |
三つのうち一つしか持っていない人は、単独では何も完結できない。どの一つを持っていても、残りの二つを持つ人の目に必ず触れる。これが相互牽制の意味である。逆に言えば、三つが一人に集まった瞬間、その人の行為を誰も見ていない状態になる。
調達現場で押さえるポイント
分掌の効果は不正の防止だけではない。実施基準は、適切に職務を分掌させることは、業務を特定の者に一身専属的に属させることにより組織としての継続的な対応が困難となる等の問題点を克服することができる、とも書いている[1]。担当者が辞めた翌週に発注が止まる会社は、不正の話をする以前に分掌が無い。「あの人しか単価表の場所を知らない」は、統制の問題として扱ってよい。
📄 実務で使うなら — 発注の出し方と電子化(全 5 章・無料サンプルあり)
三つが一人に集まると、具体的に何ができてしまうか
抽象的に「不正のリスク」と書くと動かないので、購買で起きうる形を並べる。いずれも、三つの職責のうち二つ以上が同じ人に集まって初めて成立する。
形1:架空の発注先をつくって発注する。取引先マスタを登録できる人が発注もできると、実在しない相手に発注を出せる。さらに検収も同じ人なら、納品されていないものを納品されたことにできる。三つの職責でいえば、承認と記録の両方を持っている状態である。
形2:検収の日付を動かす。これは横領の話ではなく、法令違反として実際に指摘されている型である。中小受託取引適正化法テキストには、毎月末日納入締切・翌月末日支払とする支払制度を採っていた委託事業者が、検査完了をもって納入があったものとみなし、当月末日までに納入されたものであっても検査完了が翌月となった場合には翌月に納入があったものとして計上していたため、一部の代金の支払が受領から遅れた、という違反行為事例が載っている[2]。支払期日の起算は受領日であって検査完了日ではない。検収を登録する人と支払を起こす人が同じだと、締めに間に合わせるために登録日を動かす動機がそのまま実行できてしまう。
形3:記録を後から書き換える。取適法第7条は、委託事業者に対し、給付、給付の受領、代金の支払その他の事項を記載または記録した書類または電磁的記録を作成し保存することを義務づけている[3]。テキストによれば、この7条記録には検査をした場合の検査を完了した日、検査の結果、検査に合格しなかった給付の取扱いまで含まれ、2年間の保存が求められる[2]。そして第14条第3号は、第7条に違反して書類・電磁的記録を作成せず、保存せず、または虚偽の書類・電磁的記録を作成したときに50万円以下の罰金を定めており、その対象は「その違反行為をした委託事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者」——つまり手を動かした担当者本人である(第16条により法人にも同額の刑が科される)[3]。
この3番目は、分掌を「担当者を疑う仕組み」として語ることの誤りを示している。記録を一人で作り、一人で直せる状態は、その担当者を守っていない。あとから記録の食い違いが出たときに、その人以外に触れた者がいないからである。分掌は監視ではなく、担当者に説明可能性を与える仕組みでもある。
基準自身も、分掌が万能でないことを明記している。内部統制の限界として挙げられているのは、判断の誤り・不注意・複数の担当者による共謀によって有効に機能しなくなる場合があること、想定していなかった環境の変化や非定型的な取引に必ずしも対応しない場合があること、整備と運用には費用と便益の比較衡量が求められること、経営者が不当な目的のために内部統制を無視または無効ならしめることがあること、の四つである[1]。ただし基準は同時に、内部統制を整備することにより複数の担当者が共謀して不正を行うことは相当程度困難なものになるとも書いている[1]。分掌の狙いは不正をゼロにすることではなく、一人ではできない状態にすることにある。
法律が兼務を禁じている例を見ると、線の引き方が分かる
民間の購買には「これとこれは兼務してはならない」と書いた法律がない。だが国の支出手続にはある。会計法は、契約を結ぶ職務と支払を命じる職務と現金を扱う職務を、それぞれ別の官職として立てている。
| 兼務を禁じている組み合わせ | 条文 | 例外の扱い |
|---|---|---|
| 支出負担行為の認証の職務 と 支出負担行為の職務 | 会計法 第13条の5 | 特別の必要がある場合は政令で特例を設けうる |
| 歳出の支出の職務 と 現金出納の職務 | 会計法 第26条 | 同上 |
会計法第13条の5は「支出負担行為の認証の職務は、支出負担行為の職務と相兼ねることができない」と定め、ただし特別の必要がある場合においては政令で特例を設けることができる、と続けている[4]。第26条も「歳出の支出の職務は、現金出納の職務と相兼ねることができない」としたうえで、同じ形の但書を置いている[4]。
民間の購買に読み替えるなら、前者は発注を決める職務と、それを承認・確認する職務、後者は支払を起こす職務と、金そのものを動かす職務にあたる。そして注目すべきは、どちらにも例外の逃げ道が用意されている点である。分けるのが原則だが、事情があるときは例外を認める。ただし例外は「必要があるから」の一言では済まず、あらかじめ定めた形で認める。
さらに実務的に効くのが、会計法第13条の2第1項の後段である。支出負担行為担当官が支出負担行為をするには、その内容を表示する書類を支出官に送って予算額を超えないことの確認を受け、帳簿に登記された後でなければできない、と定めたうえで、支出負担行為担当官が支出官を兼ねているときは、その確認は自ら行わなければならないと書いている[4]。
ここが、人数が足りない組織にとっての答えになっている。兼務が起きても、確認という手続そのものは消えない。分ける人がいないなら、同じ人が確認を行い、その事実が帳簿に残る形にする。分掌ができないことと、確認を省くことは別の話である、という線がここに引かれている。
分けられないときに置く三つの代替統制
実施基準は、内部統制の不備の重要性を判断する際に、ある内部統制の不備を補う内部統制(補完統制)の有無と、それが虚偽記載の発生する可能性と金額的影響をどの程度低減しているかを検討する、としている[1]。分掌が不十分でも、それを補う統制が置かれていれば評価は変わる、という考え方である。人数を増やさずに置けるものを三つ挙げる。
| 代替統制 | やること | 追加で要る人 | 効く形 |
|---|---|---|---|
| 1. 事後の突合 | 月次で発注一覧・入庫記録・出金明細の三つを並べる | 0.5 人日/月 | 形1・形2 |
| 2. 上長の閲覧 | 担当者が処理した差異と修正の過程を管理者が見る | 既存の管理者 | 形2 |
| 3. 記録の保全 | 訂正・削除に申請書を必ず残す(承認者がいなくても) | なし | 形3 |
代替1:事後の突合を月次で置く
発注一覧と入庫記録と出金明細を、購買の担当者以外が並べて見る。ここでの「以外」は購買を知っている必要がなく、数が合っているかを見るだけでよいので、経理でも経営者でも成立する。見るのは件数と金額の一致、そして発注が無いのに出金がある行と入庫が無いのに支払われている行の二つだけでよい。形1の架空発注も、形2の日付ずらしも、この二つに現れる。
代替2:上長の閲覧を「担当者の処理の過程」に向ける
実施基準は日常的モニタリングを、通常の業務に組み込まれた一連の手続を実施することで内部統制の有効性を継続的に検討・評価することと定義し、業務活動を遂行する部門内で実施される自己点検ないし自己評価も含まれるとしている[1]。挙げられている例は、重要な売掛金について、定期または随時に、適切な管理者等が担当者の行った残高確認の実施過程と発見された差異の分析・修正作業を監視するというものである[1]。
購買に置き換えると、見るのは結果ではなく差異が出たときの処理の過程になる。数量が合わなかった、単価が違った、検収が期日を過ぎた——この種の例外がどう処理されたかを管理者が見る。全件を見る必要はない。例外だけを見れば、担当者が一人でも、処理の中身が第三者の目に触れる状態になる。
代替3:記録の訂正・削除を残す(承認者がいなくても成立する)
三つのなかで最も安く、最も効く。しかもこの形には、承認者がいない場合の公的なひな形がある。
国税庁の電子帳簿保存法一問一答は、電子取引データの改ざん防止措置の一つとして「訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備付け」を挙げ、規程のサンプルを法人用と個人事業者用の2種類で示している[5]。法人用のサンプルは運用体制として管理責任者と処理責任者を置き、訂正・削除をする場合は処理責任者が申請書を管理責任者に提出し、管理責任者は正当な理由があると認める場合のみ承認し、処理責任者が処理して完了報告書を提出する、という流れを定めている[5]。申請する人と承認する人が分かれている、まさに職務分掌の形である。
これに対して個人事業者用のサンプルは、承認の手続を持たない。訂正及び削除は原則禁止としたうえで、やむを得ない理由(正当な理由がある場合に限る)によって訂正または削除する場合は、申請日・取引伝票番号・取引件名・取引先名・訂正削除日付・訂正削除内容・訂正削除理由・処理担当者名を記載した「取引情報訂正・削除申請書」を作成し、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で保存することをもって訂正及び削除を行う、としている[5]。
承認者がいないときに何を残すかの答えが、公的な文書として示されているということである。承認を省いた代わりに、理由を書いて残す。これは一人で購買を回している会社でも今日から置ける。国税庁のこの規程は電子取引データについてのものだが、同じ形を検収の取消しや単価の修正に当てはめれば、形3への手当てになる。電子取引データの保存そのものの要件は電子帳簿保存法にシステム無しで対応するで扱っている。
調達現場で押さえるポイント
三つの代替統制に共通しているのは、事前に止めるのではなく事後に見える形にしていることである。人数が足りない会社が事前の承認を増やすと、承認が形骸化して押印だけが残る。購買管理システムで何が変わるかでも触れたとおり、分掌が完全でないこと自体より、誰もそれを把握していない状態のほうが危ない。
何から分けるか——四つの優先順位
全部を一度に分けようとすると止まる。損害の大きさと、分けるのに要る手間で並べると、次の順になる。
優先1:取引先マスタの登録・変更 と 発注
ここが架空取引の入口になる。しかもマスタの登録は頻度が低いので、経営者や経理に寄せても業務が滞りにくい。基準は資産の保全を「資産の取得、使用及び処分が正当な手続及び承認の下に行われるよう、資産の保全を図ること」と定義している[1]。実在しない相手への支払は、取得の入口そのものが正当な手続を通っていない状態にあたる。
優先2:検収の登録 と 支払の実行
取適法第3条第1項は、支払期日は給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日の期間内において、かつできる限り短い期間内において定められなければならない、としている[3]。同条第2項は、支払期日が定められなかったときは受領した日が、第1項に違反して定められたときは受領日から起算して60日を経過した日の前日が、それぞれ支払期日と定められたものとみなす[3]。起点は受領であって検収ではない。検収を登録する人と支払を起こす人が同じだと、前掲の違反行為事例と同じ経路が開く[2]。納品書・受領書・検収書がそれぞれ何を証明する書類かは納品書・受領書・検収書の違いに、支払期日の数え方は支払期日は受領日から60日以内にまとめてある。
優先3:発注 と 検収
いちばん語られるが、優先順位としては三番目に置いている。理由は二つある。第一に、発注担当が現場に近い会社では、検収を別の人に移すと納期の把握が落ちて実務が回らなくなること。第二に、優先1と優先2を先に置けば、発注と検収を兼ねていても、月次の突合で出金と入庫の両側から挟めるからである。分けられるなら分ける、分けられないなら代替1を必ず置く、という順で考える。
優先4:記録の訂正・削除の権限
これは分けるというより、残す。誰が触ってもよいが、触ったことが必ず記録に残る状態にする。代替3がそのまま優先4の中身になる。
権限の設計は二階建てになる
ここまでの分掌を道具の設定に落とすとき、見るべき層が二つある。基準は、ITに対する統制活動は全般統制と業務処理統制の二つからなり、完全かつ正確な情報の処理を確保するためには両者が一体となって機能することが重要だとしている[1]。
ITに係る業務処理統制は、業務を管理するシステムにおいて承認された業務が全て正確に処理・記録されることを確保するために業務プロセスに組み込まれた内部統制で、具体例として挙げられているのは四つある[1]。第一に、入力情報の完全性、正確性、正当性等を確保する統制——入力できる値を絞る仕組みである。第二に、例外処理(エラー)の修正と再処理——弾かれた伝票を誰がどう直すか。第三に、マスタ・データの維持管理——優先1で挙げた取引先マスタがここに入る。第四に、システムの利用に関する認証、操作範囲の限定などアクセスの管理——誰がどの画面を開けるか。いずれも、日々の画面で誰が何をできるかという層の話である。
もう一方のITに係る全般統制は、業務処理統制が有効に機能する環境を保証するための統制活動で、通常、複数の業務処理統制に関係する方針と手続をいう。具体例は、システムの開発・保守に係る管理、システムの運用・管理、内外からのアクセス管理などシステムの安全性の確保、外部委託に関する契約の管理である[1]。
購買の分掌にとって重要なのは、この二階建ての関係のほうである。基準は、一旦適切な業務処理統制を組み込めば意図的に手を加えない限り継続して機能する性質があるとしつつ、その後のシステムの変更の段階で必要な内部統制が組み込まれなかったり、プログラムに不正な改ざんや不正なアクセスが行われるなど、全般統制が有効に機能しない場合には、適切な業務処理統制を組み込んだとしても、その有効性が保証されなくなる可能性があると書いている[1]。
言い換えると、設定を守る人を分けないと、設定を分けた意味がなくなるということである。購買で確認すべきは次の三点になる。誰が取引先マスタと品目マスタを変更できるか。誰が承認の要否や上限といったルール自体を変更できるか。誰がその変更の履歴を消せるか。この三つが日々の発注担当と同じ人に集まっていれば、画面上の権限をいくら細かく割っても、当人が自分の権限を広げられる。
なお全般統制は、通常、業務を管理するシステムを支援するIT基盤を単位として構築することになる。基準は、購買・販売・流通の三つの業務管理システムが一つのホスト・コンピュータで集中管理され、全て同一のIT基盤の上で稼動している場合、そのIT基盤に対する有効な全般統制を構築することで三つの業務に係る情報の信頼性を高めることが期待できるが、三つが異なるIT基盤の上で稼働している場合はそれぞれのIT基盤ごとに全般統制を構築する必要がある、としている[1]。購買だけ別のクラウドサービスを使うなら、そのサービスの管理者アカウントを誰が持つかを別に決める必要がある、ということになる。日々の画面の権限を具体的にどう割るかは購買管理システムで何が変わるかで扱っている。
「内部統制報告制度の対象ではない」で終わらせない理由
ここまで引いてきた基準は、金融商品取引法の内部統制報告制度のための基準である。上場していない会社に報告義務はない。それでも読む価値があるのは、購買の分掌が報告制度とは別の三つの経路で効いてくるからである。
理由1:取適法の記録義務と罰則に、規模の下限がない。第7条の記録義務と、第14条第3号の罰則(虚偽の記録の作成を含む)は、委託事業者の規模で適用が変わらない[3]。記録を一人で作って一人で直せる状態は、この義務を果たしていることを自社で証明できない状態でもある。7条記録に何を書いて2年どう残すかは取適法が求める記録にまとめてある。条番号は2026年1月の施行で動いており、旧下請法の3条書面は4条明示、5条書面は7条記録になっている。社内規程や購買基本契約書に旧法の条番号が残っている場合の差し替えは、条文の対応関係と改訂箇所を並べた法令・規格 改訂対応パック(中小受託取引適正化法)で確認できる。
理由2:検収の運用が支払期日を動かす。前述のとおり支払期日の起算は受領日であり、検収の登録日ではない[3]。検収と支払を兼ねている状態は、締めの都合で起算日を動かせる状態であり、実際にその型が違反行為事例として挙げられている[2]。受領を拒めるのはどういう場合か、返品ややり直しがどこまで許されるかは受領拒否・返品・やり直しの線引きで扱っている。
理由3:属人化そのものが統制の不備として扱われる。実施基準は、職務分掌の効果として、業務を特定の者に一身専属的に属させることによって組織としての継続的な対応が困難となる等の問題点を克服できることを挙げている[1]。分掌は不正対策の文脈だけで語られがちだが、基準の側では事業継続の話でもある。
もう一つ、規模が小さい組織について基準が明示的に書いていることがある。実施基準は、記録の形式・方法等は一律に規定されるものではなく企業の作成・使用している記録等を適宜利用して足りるとしたうえで、特に事業規模が小規模で、比較的簡素な構造を有している組織等においては様々な記録の形式・方法をとりうるとし、経営者からの社内への通達、業務内容を前任者から後任者に伝達するための文書、販売担当者が受注の際に作成した文書、ソフトウェアのマニュアル、伝票や領収書などの原資料、受注入力後にシステムから出力される業務指示書等を適宜利用し、必要に応じて補足を行っていくことで足りると書いている[1]。
専用の統制文書を作れ、とは言っていない。いま出している伝票と指示書で足りるという立て付けである。ここでも分掌の代わりに求められているのは、新しい書類ではなく、既にある記録が残る形になっているかどうかである。
整備できているかを確かめる五つの問い
実施基準は、業務プロセスに係る内部統制の整備状況の有効性を評価する際に留意する事項として五つを挙げている[1]。購買にそのまま当てはめて、点検の問いとして使える。
問1:不正または誤謬を防止または適時に発見できるよう適切に実施されているか。発注から支払までのどこかで、誰か別の人の目に必ず触れる箇所があるか。
問2:適切な職務の分掌が導入されているか。取引の承認・取引の記録・資産の管理が、一人に集まっていないか。集まっている場合、代替統制が置かれているか。
問3:担当者は、内部統制の実施に必要な知識及び経験を有しているか。検収を任せた人が、図面や仕様を読んで合否を判断できるか。分けただけで判断できない人に回すと、検収が通過印になる。
問4:内部統制に関する情報が、適切に伝達され、分析・利用されているか。月次の突合で出た差異が、誰に届いて、どこで議論されているか。
問5:発見された不正または誤謬に適時に対処する手続が設定されているか。差異が見つかったときに、誰が何日以内に何をするかが決まっているか。
五つのうち、購買の現場で最初に落ちるのは問3と問5である。分掌の議論は問2で止まりやすいが、分けた先に判断できる人がいないことと、見つかった後の手続が無いことのほうが、実務では先に効いてくる。
よくある質問
購買の担当が一人しかいません。何から手を付ければよいですか
取引先マスタの登録・変更を購買の外に出すことから始めるとよい。頻度が低いので業務が滞りにくく、架空取引の入口を塞ぐ効果がいちばん大きい。そのうえで、月次で発注一覧・入庫記録・出金明細を購買以外の人が並べて見る手続を置く。この二つは人数を増やさずにできる。分けられない部分は、分けられないという事実と、代わりに何を置いたかを書いて残しておく。会計法も、兼務が生じたときに確認そのものを免除せず、自ら行わなければならないと定めている[4]。
社長が発注も検収も承認もしています。これは問題ですか
基準は、内部統制の限界の一つとして、経営者が不当な目的のために内部統制を無視または無効ならしめることがあることを挙げている[1]。同時に、適切な経営理念等に基づく社内の制度の設計・運用、適切な職務の分掌、取締役会による監督、監査役等による監査などが、経営者による内部統制の無視または無効化への対策となるとも書いている[1]。小規模な会社で経営者が実務を持つこと自体は珍しくないが、その場合でも記録が残る形にしておくことの意味は変わらない。なお基準は、想定していなかった環境の変化や非定型的な取引に対して経営者が既存の内部統制の枠外での対応を行うことや、正当な権限を受けた者が経営上の判断により別段の手続を行うことは、内部統制を無視・無効にすることには該当しないとしている[1]。
分けたことをどうやって証明すればよいですか
専用の文書を作る必要はない。実施基準は、事業規模が小規模で比較的簡素な構造を有している組織等においては、経営者から社内への通達、業務内容を前任者から後任者に伝達するための文書、伝票や領収書などの原資料、システムから出力される業務指示書等を適宜利用し、必要に応じて補足を行っていくことで足りるとしている[1]。既にある発注書の控えや検収の記録に、誰がその処理をしたかが残っていれば、それが証拠になる。
兼務を認めるかどうかは、誰がどう決めればよいですか
会計法の作りが参考になる。兼務を禁じる条文を置き、そのうえで「特別の必要がある場合においては、政令で特例を設けることができる」という形で例外を認めている[4]。民間に置き換えるなら、原則を社内規程に書き、例外は個別の判断ではなくあらかじめ決めた形で認めるということになる。誰が例外を認めるか、どこまでの金額・期間を例外とするか、例外のときに何を追加で記録するか——この三点を決めておけば、担当者が現場で判断しなくて済む。
システムを入れれば分掌は解決しますか
しない。権限の設定は業務処理統制にあたるが、その設定を誰が変更できるかは全般統制の側にある。基準は、全般統制が有効に機能しない場合には適切な業務処理統制を組み込んだとしてもその有効性が保証されなくなる可能性がある、としている[1]。設定を変えられる管理者アカウントが発注担当と同じ人に紐づいていれば、画面上の分掌は成立していない。導入時に決めるべきは、権限の細かさよりも管理者アカウントを誰が持つかである。
取引先の評価や選定も分けるべきですか
取引の承認の一部にあたるので、原理としては同じである。ただし優先順位は高くない。評価の基準と点数の付け方を先に決めておけば、評価者が一人でも結果を第三者が追える形になるからである。評価項目の作り方と点数化の考え方はサプライヤー評価の項目と点数化にまとめてある。
まとめ
職務分掌の出発点は、工程を分けることではなく、取引の承認・取引の記録・資産の管理という三つの職責を別の人に持たせることにある[1]。購買に置き換えれば、発注を決める人、検収と記録を残す人、モノと金を動かす人である。三つのうち二つ以上が一人に集まったとき、架空の発注先をつくる、検収の日付を動かす、記録を書き換える、という形が成立する。二つ目と三つ目は不正の話にとどまらず、取適法の違反行為事例と罰則に直接つながっている[2][3]。
人数が足りないときの答えは、確認を省くことではない。国の会計制度も、兼務が生じたときはその確認を自ら行わなければならないと定めている[4]。置けるのは、月次の突合、差異の処理過程に向けた上長の閲覧、訂正・削除の記録の三つで、いずれも人を増やさずに置ける。訂正・削除については、承認者がいない場合に何を残せばよいかのひな形が国税庁から示されている[5]。
分ける順番は、取引先マスタと発注、検収と支払、発注と検収、記録の訂正権限の四つの順で考える。そして道具の設定に落とすときは、日々の画面の権限(業務処理統制)と、その設定自体を誰が変えられるか(全般統制)の二階建てで見る[1]。設定を守る人を分けなければ、設定を分けた意味は残らない。
出典・参考資料
- 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 会計法(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
誰が何をしたかが、あとから追える形で残る
Newji one は、製造業の見積依頼から発注までをひとつにまとめる受発注プラットフォームです。見積依頼・発注・出荷・検査依頼の記録には、それぞれ誰が作成したかが残ります(検査依頼には検査実施日と検査担当者の欄があります)。利用者ごとに購買側と受注側の利用範囲を分けられ、承認ルールの設定・会社設定の変更・ユーザーの追加は管理者だけができます。取引先はアカウント登録をせずに、届いたメールのリンクからそのまま見積に回答できます。登録から 14 日間はクレジットカードの登録なしで全機能を試せます。
この記事の理解を深める
無料ホワイトペーパーをプレゼント
製造業の現場で使える実務資料(PDF)を無料でお届けします。"こんな資料が届きます" ↓ 下のボタンからどうぞ。
PRODUCT — 製造業向け 調達・受発注クラウド
この記事の課題、
Newji one で解決しませんか?
Newji one は、製造業の調達・受発注に特化したクラウド/AIエージェント。見積依頼・発注書作成・進捗管理・承認をひとつの画面に集約し、AIが比較と異常検知を担当。最後の「GO」だけ人が押す仕組みです。
- 見積〜発注〜納期を一元管理。催促・転記のムダをゼロに
- AIが相見積もり比較と異常検知。あなたは判断だけに集中
- 取引先は「招待」で完全無料。自社コストだけで取引先ごとデジタル化
※ 取引先から招待された企業様は完全無料でご利用いただけます
