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コストダウン目標は誰がどう決めるか——率ではなく額から出す三つの方式

この記事のポイント(結論先出し)
コストダウンの目標は、率を先に決めて配るものではなく、額を先に出して率は割り算の結果として出るものである。額を出す道は、大きく二つある。目標売価から目標利益を引いて出す(控除方式)か、いまの技術水準で積み上げた原価から引けるぶんを引いて出す(加算方式)かで、この二つは出発点が違うので出てくる数字も違い、実務では両方を出して突き合わせる折衷方式も広く使われている。そして、新製品の企画・設計段階でやる原価企画と、量産に入ってからやる原価改善は別の活動であり、量産中の目標を新製品と同じ作り方で決めると根拠が消える。さらに、決めた目標をそのまま仕入先の単価に降ろすと、「一律に一定比率で単価を引き下げて代金の額を定めること」として買いたたきに該当するおそれがある。目標は自社の原価に置き、仕入先の単価は協議で決める、という分け方が要る。
目次
目標が空回りするのは、率から始めているから
「来期は全社で 5% 下げる」という決め方は、決めるのが速い。しかし配られた側は、その 5% がどこから来た数字なのかを知らないまま、自分の担当品目で 5% を探すことになる。探した結果が「これ以上は削れない」だったとき、その報告を受け取る側にも判断の材料がない。率だけが降りてきているので、達成できなかったのが努力の不足なのか、そもそも率の置き方が間違っていたのかを切り分けられないからである。
率を先に置くやり方が壊れるのは、率が結果を表す指標であって、根拠を持った数字ではないからである。原価の目標は本来、金額として先に決まる。目標額と現状の見積額を引き算して、その差を現状で割ったものが率である。順序を逆にすると、率のほうが動かせない前提になり、金額の根拠は最後まで出てこない。
では金額はどこから持ってくるのか。この問いに対する答えの型は、管理会計の分野ではすでに整理されている。以下では、その型を確認したうえで、量産中の品目にどう当てはめるか、そして決めた目標を仕入先にどう扱わせてはいけないかを順に見ていく。
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原価企画と原価改善は、別の活動として区別する
目標の作り方を考える前に、いま自分がどの局面にいるかを決めておく必要がある。製造業では、原価に関する管理活動を 原価企画・原価維持・原価改善 の三つに区別して扱うのが通例である。サービス業の原価企画を検討した研究では、サービス業は企画・設計段階と生産段階の区別が不明確であるため「通常の製造業のように、原価企画と原価維持活動、原価改善活動を区別することは難しい」という指摘が紹介されている[3]。裏を返せば、製造業ではこの三つを区別するのが前提になっている、ということである。
三つの違いは、対象としている時間軸である。原価企画は、製品がまだ図面の上にある企画・開発・設計の段階で、目標となる原価を設定して作り込む活動を指す[4]。原価維持は、いったん決まった原価水準を量産中に保つ活動である。原価改善は、量産に入った後で、いま出ている原価をさらに下げる活動を指す。
この区別が効くのは、局面によって「動かせるもの」がまったく違うからである。企画・設計の段階では、材料も、形状も、公差も、工法も、どの仕入先に出すかも、まだ決まっていない。だから目標は大きく置ける。一方、量産に入った品目では、図面も金型も設備も工程も決まっている。そこで残っている手段は、数量をまとめる、工程内の不良を減らす、仕様のうち使われていない部分を落とす、といったものに限られる。動かせる幅が違うのに同じ率を当てれば、量産品には過大な目標が、新製品には過小な目標が割り当てられる。
実務でよく起きるのは、量産中の品目に対して原価企画の作り方をそのまま持ち込むことである。すでに売価が市場で決まっている品目に、あらためて目標売価から逆算した原価をぶつけると、その差は「いま実現できていない金額」ではなく「そもそも設計時に作り込めなかった金額」になる。設計を変えない限り届かない数字を、量産の担当者と仕入先に配ることになるので、達成手段が最初から存在しない。
金額の出し方は、控除方式・加算方式・折衷方式に分かれる
原価企画における目標原価の設定方式は、控除方式・加算方式・折衷方式の三つに大別される[1]。名称は研究者によって割付方式・積上方式・協議方式、あるいは控除法・加算法・統合法とも呼ばれるが、指しているものはほぼ同じである[1]。
控除方式は、売価から引いて出す
控除方式は、予定売価から目標利益を控除して目標原価を求める方法である[1]。ここで出てくる金額は、市場で受け入れられる売価を出発点として、中長期の利益計画で設定された目標利益を実現するにはどれだけの原価が許容されるかを表している。この方式で設定される目標原価は許容原価と呼ばれることがある[1]。
この方式の特徴は、いま作れるかどうかを問わないことである。売価と利益から機械的に決まるので、現行の技術水準では届かない金額が出ることがある。だからこの方式を使うときは、目標が達成不能に見えることを織り込んだうえで、設計と工法をどこまで変えられるかの検討とセットで運用しなければならない。
加算方式は、いまの実力から積んで出す
加算方式は、自社の技術水準によって達成しうる原価を基準にして目標原価を設定する方法である[1]。具体的には、現行製品の原価を出発点として、新たに追加される原価と削減可能な原価を考慮した、達成可能な目標原価を組み立てる。この方式で設定される目標原価は成行原価と呼ばれることがある[1]。
この方式は、達成可能性が考慮された目標値になりやすい。逆に言えば、いまできることの延長線上にとどまるので、目標が甘くなりやすいという指摘が繰り返しなされてきた[1]。
折衷方式は、両方を出してすりあわせる
折衷方式は、予定売価から目標利益を控除した原価を許容原価とし、これと成行原価(現状の技術水準で想定される積み上げ原価)をすりあわせて目標原価を設定する方法である[1]。先の研究の有効回答 318 人の内訳は、控除方式 68 人・加算方式 102 人・折衷方式 97 人・分からない 51 人で、どれかに寄っているわけではない[1]。つまり同じ製造業でも設定方式は揃っておらず、どの方式で置いた目標なのかは社内で記録しておかないと共有されない。
| 項目 | 控除方式 | 加算方式 | 折衷方式 |
|---|---|---|---|
| 出発点 | 予定売価 | 現行製品の原価と自社の技術水準 | 両方を出して突き合わせる |
| 出てくる金額の呼び名 | 許容原価 | 成行原価 | 両者をすりあわせた目標原価 |
| 別名 | 割付方式・控除法 | 積上方式・加算法 | 協議方式・統合法 |
| 目標の困難度(7 点尺度の平均) | 5.03 | 4.58 | 分析対象外 |
| 目標へのコミットメント(同) | 5.04 | 4.68 | 分析対象外 |
| 達成手段が要る範囲 | 設計・工法の変更まで踏み込む前提 | いまの延長線上で足りることが多い | 差の大きさで判断する |
表の数値は、上の 318 人のうち控除方式・加算方式と答えた 170 人を分析対象とした結果である[1]。困難度については、加算方式よりも控除方式のほうが統計的に有意に高い得点だった(t 値 2.28、有意水準 5%)。コミットメントについては、控除方式のほうが得点は高かったものの、四項目の平均どうしの差は統計的に有意ではなかった[1]。設定方式ごとの設計と、原価企画そのものの進め方は原価目標を逆算するデザイン・トゥ・コストの実務とテンプレートで扱っている。
この数値の読み方には二つ注意が要る。第一に、この研究は統制変数を投入していない単変量の分析であり、著者自身が結果は予備的なものであると明記している[1]。第二に、回答者の勤務先は従業員 301 人以上の製造業に限られており、301 人から 1,000 人が 29 人、1,001 人から 5,000 人が 54 人、5,001 人以上が 87 人という構成である[1]。中小規模の製造業がそのまま当てはまるかは、この調査からは言えない。
誰が決め、誰が達成の責任を負うか
目標を決めるのは経理でも経営企画でもない、というのが原価企画の考え方である。目標原価の設定にあたっては、設計担当者自身が原価見積りを実施することが望ましいとされてきた[4]。目標を配られる側が見積りを持たないままだと、渡された数字が高いのか低いのかを判断できず、目標が単なる通達になるためである。
達成の側はさらに広い。目標原価の達成に向けた組織的活動では、設計部門だけでなく、購買部門やサプライヤー企業、製造部門との協働が展開され、原価と利益の作り込みが行われる[4]。原価企画が成り立つ条件を検討した研究は、その条件を「目標原価に基づく源流管理」「社内・社外を問わない協力関係」「バリューエンジニアリングなどの支援ツール」の三つに整理している[3]。
ここで購買部門の位置づけが決まる。同じ研究は、わが国の加工組立型産業では原価構造に占める外注費の割合が高いため、サプライヤーと協働して生産の源流段階から原価を作り込むことによって効果的な原価削減が可能となってきた、と整理している[3]。買っている金額が原価の大きな部分を占めるのだから、購買が入っていない目標設定は、そもそも削れる金額の大半に手が届かない。
整理すると、役割は次のように分かれる。金額の枠を決めるのは、売価と目標利益を持っている側、つまり事業の責任者である。その枠を製品や部品の単位に割り付けて、届く数字かどうかを判定するのは設計である。買う部分の金額に根拠を与えるのは購買である。そして、割り付けた結果を積み直して枠に収まるかを見るのが、原価を集計する部署である。この四つのうちどれが欠けても、目標は根拠を持たない率に戻る。
量産中の目標は、標準原価との差だけでは作れない
量産中の品目については、標準原価を置いて実際との差異を見ればよい、と考えたくなる。しかし、標準原価が原価の目標として機能しにくくなっていることは、以前から指摘されている。「原価計算基準」の見直しを論じた研究は、原価管理目的での標準原価計算の役割が低下している理由として、多品種少量生産により反復作業が減少していること、製品のライフサイクルの短命化により標準原価が設定される頃には製品が終息すること、自動化の進展により標準原価計算が管理の対象としている直接労務費が減少していること、海外生産移転により国内の加工・組立作業自体が減少していること、売価の下落が標準原価よりも厳しく標準原価が原価目標として役に立たなくなっていること、生産方式が刻々と変化し原価目標として役に立たないことを挙げている[5]。
五番目の理由は、そのまま量産中の目標設定の問題である。売価の下がり方が標準原価の水準より厳しいなら、標準を守っても利益は残らない。つまり標準との差異は「悪化していないか」を教えてくれるだけで、「いくらまで下げるべきか」は教えてくれない。量産中の目標には、標準原価とは別の根拠が要る。
そもそも「原価計算基準」を開いても、目標の決め方は書かれていない。この基準は大蔵省企業会計審議会が昭和 37 年(1962 年)に中間報告として制定したもので、以来一度も修正を加えられずにわが国の原価計算制度の実践規範として機能してきた[6]。原価計算の目的の一つに原価管理に必要な原価数値の提供が挙げられている[6]とおり、原価管理は基準の視野に入っている。しかし、その基準が基礎となって原価企画に代表される日本企業独自の原価管理が考案された一方で、基準そのものには原価企画をはじめとする新しい原価管理の方法についての記載がない[5]。目標をいくらに置くかという問いは、会計基準の外側にある。
根拠に使える数字は三つ。どれを使ったかを書き残す
以上を踏まえると、目標の金額に根拠を与える数字は次の三つに整理できる。前二つが原価企画の設定方式そのもの、三つ目は量産中の原価改善で加わるものである。
| 根拠 | 何と比べて出すか | 必要なデータ | 向いている局面 | 弱いところ |
|---|---|---|---|---|
| 目標売価から引く | 予定売価から目標利益を控除した許容原価 | 売価計画・利益計画・製品別の原価構成 | 新製品の企画・設計段階 | 現行の技術で届かない金額が出る |
| 現行の実力から積む | 現行製品の原価に増減を加えた成行原価 | 現行品の実際原価・工数実績・仕入単価の履歴 | 派生機種・量産中の改善 | 現状の延長にとどまり甘くなりやすい |
| 他社見積との差 | 同一仕様で取った複数社の見積の開き | 同一条件の見積依頼・見積回答の履歴 | 買っている品目の単価見直し | 条件がそろっていないと差が意味を持たない |
三つ目の「他社見積との差」を使うときは、比べる条件をそろえるところが仕事の大半になる。数量、納期、支給の有無、検査条件、梱包と輸送の負担がそろっていない見積を並べても、出てくる差は原価の差ではなく条件の差である。取適法のテキストも、大量発注を前提とした見積単価を少量の発注の単価として使うことを、買いたたきに該当するおそれのある方法として挙げている[7]。条件をそろえて並べる手順は、見積比較表の作り方で扱っている。
また、見積の妥当性を数字で判定する土台をどう作るかは、それ自体が一つの仕事である。工程ごとの時間単価と材料の使用量から原価を組み立てる方法は、コストテーブルの作り方と使い方にまとめた。目標額を割り付けたあと、その額で作れるかどうかを判定するのはこの土台である。
そして、目標額と現状の差が設計に由来するものだった場合、削る対象は加工賃ではなく仕様である。使われていない要求を見つけて外す手順は、過剰な仕様の見つけ方と外し方で扱う。原価企画の成立条件に支援ツールが挙げられていた[3]のは、ここに手を入れる方法が要るからである。
決めた目標を、仕入先の単価にそのまま降ろさない
ここまでは自社の原価の話である。目標を仕入先の代金に直接当てはめる段になると、法律の線が出てくる。買いたたきは「中小受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い製造委託等代金の額を不当に定めること」であり、中小受託取引適正化法の第 5 条第 1 項第 5 号に置かれている[2]。
公正取引委員会の運用基準は、買いたたきに該当するおそれのある方法として 「一律に一定比率で単価を引き下げて代金の額を定めること」 と 「委託事業者の予算単価のみを基準として、一方的に通常支払われる対価より低い単価で代金の額を定めること」 を挙げている[7]。テキストの質疑応答も、決算対策のために発注単価を一律に引き下げることについて、個別の発注内容の違いを考慮することなく全ての発注内容について一律に一定比率で引き下げた単価で発注を行うことは買いたたきに該当するおそれがある、と答えている[7]。
実際の違反行為事例には、この記事のテーマとほぼ同じ形のものが二つ載っている。一つは、国際競争力を強化するためにはコストダウンをする必要があるとして主要な部品について一律に一定率引き下げた額を単価と定め、対象部品の一部の単価が通常の対価を大幅に下回ったという事例である[7]。もう一つは、自社の取引先と協議して定めた「○年後までに製品コスト○%減」という自己の目標を達成するために、部品の製造を委託している中小受託事業者に対して半年ごとに加工費の一定率の原価低減を要求し、十分な協議をすることなく一方的に通常の対価を大幅に下回る代金の額を定めた、という事例である[7]。
後者が示しているのは、目標そのものが違法なのではなく、自社の目標を根拠にして仕入先の代金を一方的に決めることが問題になるという点である。買いたたきに該当するかどうかは、代金の額の決定にあたり十分な協議が行われたかどうかという決定方法、差別的であるかどうかという決定内容、通常の対価との乖離状況、必要な原材料等の価格動向を勘案して総合的に判断される[7]。四つのうち先頭に協議が来ていることは、実務上そのまま守るべき順序である。
発注後に下げる形はさらに重い。買いたたきが発注する時点で生ずるものであるのに対し、代金の減額は一旦決定された代金の額を事後に減ずるものであり、両者は区別されている[7]。テキストは、これまでに違反とされたことのある減額の名目として「原価低減」「コストダウン協力金」を含む多様な名称を列挙しており、名目や方法、金額の多少を問わず、発注後いつの時点で減じても違反になるとしている[7]。目標の達成分を後から差し引く運用は、名前を変えても成立しない。
加えて、令和 8 年 1 月施行の改正では、中小受託事業者が代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず協議に応じず、必要な説明や情報の提供をせず一方的に代金の額を決定することが、第 5 条第 2 項第 4 号として明文で禁止されている[2]。目標を配るだけで協議の場を持たない進め方は、この条項に正面から当たる。どこまでの要請が許されるのかという線引きそのものは、コストダウン要請はどこまで許されるかで条文と事例に沿って扱っている。
逆に、要請を受ける側が金額の根拠を示して交渉する場合には、示すべき数字の組み立て方がある。原価の内訳と削減の手段をどう書くかは、コストダウン提案書の書き方にまとめた。
実務で起きやすい不備
1. 率だけを配って、額に落とさない。 部門に率を通達して終わると、品目ごとの目標額は誰も計算しない。積み上げても全社の目標額に届かないことが期末まで分からない。率を配るときは、同時に品目単位の目標額に割り付けて、その合計を検算する。
2. 分母がそろっていない。 ある部署は材料費込みの金額を分母にし、別の部署は加工費だけを分母にして率を出している、という状態は珍しくない。同じ 5% でも金額が数倍違う。率を使うなら、何を 100 とした率かを定義に書く。
3. 基準年が動く。 前年比で毎年下げる運用を続けると、基準がその都度下がるので、同じ率でも要求される金額は年々小さくなる。逆に、前年に大きく下げた品目ほど翌年の達成が難しくなる。何年時点の何と比べた率なのかを、目標と一緒に残す。
4. 目標と見積の単位が違う。 目標は製品単位で作り、見積は部品単位で取っている状態では、突き合わせができない。どちらかを他方の単位に翻訳する手間が必要になり、その翻訳のたびに前提が入れ替わる。目標を割り付ける単位は、見積を取る単位にそろえておく。
5. 達成の判定時点が決まっていない。 見積時点で目標を達成しても、量産に入ってから数量が計画を下回れば、単価の前提が崩れて実際の原価は目標を超える。判定を見積時点でするのか、量産開始後の実績でするのかを先に決めておかないと、達成したかどうかで揉める。
よくある質問
全社一律の率を掲げること自体が問題になるのか
社内の目標として率を掲げること自体を禁じる規定はない。問題になるのは、その率を仕入先に支払う代金の決め方として使うときである。運用基準が挙げているのは「一律に一定比率で単価を引き下げて代金の額を定めること」であり、社内で率を共有することではない[7]。社内の目標は率で掲げてよいが、外に出る単価は品目ごとに根拠を持って決める、という二段構えにする。
目標を決める順序はどうなるか
控除方式を採るなら、売価計画と目標利益が先で、そこから許容原価が出る。加算方式なら、現行品の実際原価が先で、増減を加えて成行原価が出る。折衷方式では両方を出して突き合わせる[1]。どの方式を使ったかは、目標額と一緒に記録しておく。方式が違えば達成の難易度も違うので、方式を書き残していないと、翌年に同じ数字を見ても厳しい目標だったのか甘い目標だったのかを判断できない。
中小規模の製造業でも同じやり方でよいか
設定方式の考え方そのものは規模に依存しない。ただし、控除方式と加算方式の効果を比べた調査は従業員 301 人以上の製造業のエンジニアを対象としたものであり、しかも著者が予備的な分析と位置づけている[1]。規模の小さい組織にそのまま当てはまるかは、この調査からは分からない。設計と購買と製造が同じ人に集まっている組織では、部門間の割り付けよりも、見積の根拠を一箇所に残すことのほうが先に効く。
目標が達成できなかったとき、何を見直すか
まず、どの方式で作った目標かを確認する。控除方式で作った目標が届かなかったのは想定の範囲であり、設計や工法を変えられなかった理由を見る。加算方式で作った目標が届かなかったのなら、現行原価の把握そのものが実態とずれていた可能性が高いので、実際原価の集計単位を疑う。率だけが残っていて方式が記録されていない場合は、この切り分けができない。
仕入先から値上げを求められている品目に、コストダウン目標を割り付けてよいか
割り付けること自体は妨げられない。ただし率を配って終わりにせず、必ず額へ割り付けて検算する。値上げの申出に対して協議に応じない口実に目標を使うことはできない。テキストは、通常の対価を把握することが困難な給付について、その給付が従前と同種または類似のものである場合に、主なコストの著しい上昇を最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額などの公表資料から把握できるときは、据え置かれた代金の額を、通常支払われる対価に比し著しく低い代金の額として取り扱う、としている[7]。目標があることは、据え置きの理由にならない。なお、率を数値目標として掲げるところまでの一般的な進め方はコストダウン目標の設定方法で触れているが、本記事は率から始めない。品目ごとの額を先に出し、率はその割り算の結果として示すという立場をとる。
まとめ
コストダウンの目標を決めるという仕事は、率を決める仕事ではなく、金額の根拠を選んで記録する仕事である。新製品の企画・設計段階なら、予定売価から目標利益を引いた許容原価か、現行の技術水準から積んだ成行原価か、その両方をすりあわせたものかを選ぶ[1]。量産中なら、標準原価との差異は現状維持を見るだけの指標なので[5]、現行原価からの積み上げと、条件をそろえた他社見積との差を根拠に使う。
決めるのは事業の責任者一人ではない。目標原価の設定には設計担当者自身の見積りが要り、達成には設計・購買・製造・仕入先の協働が要る[4]。とくに加工組立型の製造業では原価に占める外注費の割合が高いため[3]、購買が入らない目標設定は削れる金額の大半に届かない。
そして、決めた目標は自社の原価に置くものであって、仕入先の単価に一律に降ろすものではない。一律に一定比率で単価を引き下げて代金の額を定めることは買いたたきに該当するおそれがあり[7]、自社の目標を理由に半年ごとの一定率の原価低減を一方的に求めた事例は違反行為として挙げられている[7]。目標の共有と、代金の決定は、別の手続として分けておく。
出典・参考資料
- 目標原価の設定方式の違いが困難度とコミットメントに与える影響 —原価企画に携わるエンジニアに焦点を当てた予備的分析—(荻原 啓佑/原価計算研究 45 巻 2 号/2021 年)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 原価企画の成立条件 サービス業での取り組みに基づく再検討(関 洋平/原価計算研究 40 巻 2 号/2016 年)
- 日本企業における原価企画の探索的研究 : 製造業と比較したサービス業の実態(妹尾 剛好, 福島 一矩/原価計算研究 36 巻 1 号/2012 年)
- 経営環境の変化と「原価計算基準」 : 「原価計算基準」改訂の論点(川野 克典/原価計算研究 28 巻 1 号/2004 年)
- 「原価計算基準」制定50年(諸井 勝之助/LEC 会計大学院紀要 10 巻)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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