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投稿日:2026年9月2日

コストダウン提案書の書き方——通すために揃える 7 つの数字

この記事のポイント(結論先出し)

コストダウン提案が「検討します」で止まるのは、案が悪いからではなく、決裁する人が判断に使う数字が紙の上に無いからです。揃えるべきは 現行原価・変更後原価・年間差額・初期費用・回収期間・品質と納期の確かめ方・適用開始時期 の 7 つ。なかでも抜けやすいのが最後の適用開始時期で、ここは取適法に直結します。単価が下がるのは合意した日より後に発注される分からで、合意前に発注済みのものへ新単価を当てると代金の減額として違反になります[1]。提案書には「◯月◯日納品分から」ではなく「◯月◯日以降の発注分から」と書きます。

「検討します」は断りではなく、材料不足の合図

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コストダウンの案そのものは、現場にも仕入先にも溜まっています。止まるのは案ではなく紙のほうです。提案が消える場所は、だいたい次の 3 か所に分かれます。

1. 受け取った担当者が、上に上げる形にできない
単価がいくら下がるかは書いてあるが、いくら投資が要るのか、いつから効くのかが無い。担当者は自分で計算し直すことになり、後回しになります。

2. 上げたが差し戻される
削減額は書いてあるが、その前提となる数量が書かれていない。決裁者は「今の数量が続く前提ですね」と確認できず、判断を保留します。

3. 通ったのに効果が出ない
採用は決まったが、いつの発注分から新しい単価になるのかを誰も決めていない。数か月ぶんの効果がそのまま消えます。

3 つに共通するのは、提案の中身ではなく数字の並べ方が原因だという点です。決裁者が見ているのは「いくら得か」ではなく「いくら先に出して、いつ戻ってくるか」であり、この形になっていない紙は、良い案でも決められません。

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現行原価をどの数字に置くか

提案書の一行目でいちばん揉めるのが、現行原価として何の数字を書くかです。ここがずれると、差額も回収期間も全部ずれます。置き方は 3 通りあり、それぞれ証明できることが違います。

発注単価を置く……買う側と売る側が同じ数字を見られる、いちばん争いにくい置き方です。ただし証明できるのは「支払額がいくら減るか」までで、作る側の手間が減ったかどうかは示せません。

積み上げた製造原価を置く……材料をいくら、加工時間をいくらと分けて示す置き方です。どの費目が動くのかを説明できますが、自社の原価構成を相手に開示することになります。

実測値を置く……直近の実績数量と実績の消費量から出す置き方です。説得力は高い一方、季節や機種構成で振れるので、いつの期間の実測かを併記しないと後で覆されます。

そして変更後原価は、現行原価と同じ置き方で並べます。発注単価で現行を書いたなら変更後も発注単価、積み上げた製造原価で書いたなら変更後も製造原価です。片方を発注単価、もう片方を製造原価で書くと、差額が原価構成の違いによるものなのか改善の効果なのかを判別できなくなり、その一点で差し戻されます。

動かない費目を「減る」と書かない

原価計算基準は、原価要素をまず発生の形態で分けます。「形態別分類とは、財務会計における費用の発生を基礎とする分類、すなわち原価発生の形態による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを材料費、労務費、および経費に属する各費目に分類する」(基準八(一))と定め、費目別計算ではこれを「直接費と間接費とに大別し、さらに必要に応じて機能別分類を加味して」分類するとしています(基準一〇)[3]。さらに部門別計算の手続では「各部門に集計された原価要素は、必要ある場合には、これを変動費と固定費又は管理可能費と管理不能費とに区分する」(基準一八(一))とされています[3]

提案書で差額に載せてよいのは、その提案によって実際に支出が変わる費目だけです。配賦されている間接費は、製品 1 個あたりの数字としては減っても、工場全体の支出としては動きません。ここを差額に入れた提案書は、経理の確認で必ず落ちます。費目の分け方そのものは原価管理とは——材料費・労務費・経費をどう分けて、何に配るかで扱っています。単価そのものの妥当性を数字で確かめる作業はコストテーブルの作り方が担当で、提案書はその結果を貼るだけの紙だと考えると迷いません。

差額は単価差ではなく年間差額で書く

「1 個あたり 40 円下がります」だけの提案書は、決裁の場で必ず「年間いくら」に翻訳し直されます。最初から年間で書き、その計算に使った数量の出どころを併記します。

数量の根拠として使えるのは、過去 12 か月の発注実績か、取引先へ出している内示です。どちらを使ったかで意味が変わるため、「直近 12 か月の実績」「今期の内示」と明記します。そのうえで、数量が落ちたら効果も落ちることを提案書の側から先に書いておきます。隠して出すと、翌期に数量が半減したとき提案そのものの信用が落ちます。

前提とする月産数量 月あたり差額 年間差額 初期費用 225,000 円の回収期間
2,000 個(直近 12 か月の平均) 80,000 円 960,000 円 2.8 か月
1,200 個(今期の内示) 48,000 円 576,000 円 4.7 か月
600 個(最も少なかった月) 24,000 円 288,000 円 9.4 か月

単価差 40 円という同じ案でも、前提の置き方で回収期間は 2.8 か月から 9.4 か月まで動きます。決裁者が知りたいのはこの幅であって、いちばん良い数字ではありません。3 行並べた提案書は、1 行だけの提案書より通ります。

初期費用は「いつ費用になるか」まで書く

金型の改修、治具の製作、検査治具、初回品の確認費用、切り替えで使えなくなる在庫。これらを合計した金額だけを書いて出すと、決裁の場で「それは今期の経費か、資産か」という質問が必ず出ます。答えられないと持ち帰りになります。

税務上の扱いは金額で区切られています。取得価額が 10 万円未満のものは、事業の用に供した事業年度に損金経理をすれば損金に算入できます。20 万円未満のものは、一括償却資産として 3 年間で均等に償却する方法を選べます[4]。この取得価額は「通常 1 単位として取引されるその単位ごとに判定します」とされており、まとめ買いした個数の合計ではありません[4]。青色申告をしている中小企業者等であれば、取得価額 40 万円未満のものについて、その事業年度で合計 300 万円を上限に損金算入できる特例もあります[5]。この 40 万円は、令和 8 年度の改正で 30 万円から引き上げられた金額です。対象は令和 11 年 3 月 31 日までに取得したもので、引き上げ後の金額が適用されるのは令和 8 年 4 月 1 日以後に取得したものからです[5]

設備を伴う提案なら、青色申告書を提出する中小企業者等が令和 9 年 3 月 31 日までに新品で取得し、製造業や建設業などの指定事業の用に供することが前提です[6]。そのうえで、機械装置は 1 台または 1 基の取得価額が 160 万円以上、測定工具・検査工具は 120 万円以上、ソフトウエアは 70 万円以上であれば、中小企業投資促進税制の対象になり、特別償却 30 パーセントを適用できます。税額控除 7 パーセントを選べるのは、このうち資本金または出資金が 3,000 万円以下の法人等に限られます[6]

初期費用の 1 単位あたり金額 扱い 提案書への書き方
10 万円未満 損金経理すればその年度の損金[4] 今期の費用として全額
20 万円未満 一括償却資産として 3 年均等償却を選択可[4] 今期に乗るのは 3 分の 1
40 万円未満(青色申告の中小企業者等) 年 300 万円まで損金算入の特例[5] 枠の残りを経理に確認したうえで記載
機械装置 160 万円以上ほか 特別償却 30 パーセント(資本金 3,000 万円以下なら税額控除 7 パーセントも選択可)[6] 青色申告・新品・指定事業が前提。適用の可否は経理判断と明記

提案する側が税額まで計算する必要はありません。書くのは「1 単位いくらのものが何点」という内訳までで十分です。金額の内訳さえあれば、経理側で今期の損益にいくら乗るかを即座に判定できます。合計額だけの提案書が差し戻されるのは、この判定ができないからです。

回収期間は割り算だが、分母の置き方で意味が変わる

回収期間は、初期費用を月あたりの差額で割るだけです。難しいのは分母のほうで、年間差額を 12 で割った平均値を使うのか、直近の実績数量で計算した額を使うのかで、出てくる月数が変わります。上の表のように複数行で示すのが最も誤解が少ない書き方です。

数量そのものが読めない試作寄りの部品では、月数ではなく累計何個で回収できるかで書きます。初期費用 225,000 円、1 個あたり 40 円の削減なら、5,625 個で回収という書き方です。これなら数量の見通しが外れても提案書の数字は生き残ります。

逆に、回収期間が長く出た案を無理に短く見せないことです。10 か月かかると書いた提案が通ることはありますが、3 か月と書いて 10 か月かかった提案は、次の提案まで通らなくなります。

品質と納期は「変わりません」と書かない

提案書の品質欄に「品質への影響はありません」とだけ書くと、品質保証部門は確認のしようがないので反対に回ります。書くべきは影響の有無ではなく、どうやって確かめるかです。初回品を何個確認するのか、検査項目や検査方法が変わるのか、変わるなら誰が判定するのか。納期についても、リードタイムが延びるのか、切り替えの端境期に欠品が出ないかを、日付で書きます。

ここまで固まって初めて、図面や仕様の変更を伴う正式な手続に進みます。図面を書き換える段階の文書の作り方は設計変更依頼の書き方にまとめてあります。提案書はその手前の紙で、目的は「変更する価値があるかを決めてもらうこと」に絞られます。機能を落とさずに要求そのものを見直す進め方は過剰な仕様の外し方、価値と機能の考え方はVA と VE の違いが扱っています。

適用開始時期を書かないと、通っても効果が出ない

提案書でいちばん抜けるのがこの欄です。そして、ここは法律の話になります。

取適法は、委託事業者が中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに代金の額を減ずることを禁じています(第 5 条第 1 項第 3 号)[2]。単価の引下げで合意したときに、合意日より前に発注済みのものまで新単価で計算し直すと、これに当たります。公正取引委員会は、7 月 1 日に「4 月 1 日発注分から新単価を遡って適用する」と合意しても、そのとおりに適用すれば代金の減額として問題になると示しています[1]。正しい扱いは、単価改定日以降に発注する分から新単価を適用することです[1]。どこからが減額に当たるのかという判定そのものは代金を後から下げる——減額に当たる行為と、当たらない行為で整理してあります。ここでは、提案書の欄をどう書くかに絞ります。

提案書の適用開始欄の書き方 起きること
4 月 1 日発注分に遡って適用 合意日が 7 月なら、4 月から 6 月の発注分は代金の減額として問題になる[1]
7 月 1 日納品分から適用 合意日が 7 月 1 日より前でも、それ以前に旧単価で発注済みのものが 7 月に納品されると、そこに新単価が当たり問題になる[1]
単価改定日以降の発注分から適用 正しい扱い。提案書にはこの形で書く[1]

遡って適用できない以上、期の初めから効かせたい場合は、その期の最初の発注が出る時点までに新単価を決めておくことになります。つまり提案書は決裁のリードタイムから逆算して出すものだということです。4 月の発注分から効かせたい提案を 3 月に出しては間に合いません。

提案を出した側が押さえておく 3 点

第一に、新単価を書いた見積書を提出しただけでは合意したことになりません[1]。提案書を送った日ではなく、双方が単価改定に合意した日が起点です。要請と協議の線引きは買いたたきとは何かで扱っています。

第二に、提案が採用されて発注の中身が変わるなら、変更後の内容を書面か電磁的方法で明示し直す必要があります。取適法は発注時に給付の内容や代金の額などを明示することを求めており(第 4 条)[2]、取引の過程で明示した給付の内容を変更したり明確化したりした場合には、その内容を相手方に明示したうえで、第 7 条に基づく書類等の一部として保存することが求められます[1]。明示すべき項目そのものは発注書に必要な 12 項目にまとめてあります。

第三に、提案を了承したあとで「発注内容と違う」として費用を負担せずにやり直させることは認められません[1]。この線は受領拒否・返品・やり直しで詳しく扱っています。提案の了承をメールなり議事録なりで残しておくことは、提案する側の防御になります。

提案書に書いてはいけないこと

削減額の名目を「原価低減」「コストダウン協力金」といった形にして、既に決まっている代金から差し引く建て付けにしないことです。公正取引委員会は、違反とされた減額の名目としてこの 2 つを実際に挙げています[1]。コストダウンは次の発注の単価を下げることで実現するものであって、支払済みまたは発注済みの代金から引くことではありません。

一律に何パーセントという書き方も避けます。主要な部品について一律に一定率引き下げた額を単価と定めた例、自社の目標を達成するために半年ごとに加工費の一定率の原価低減を要求した例は、いずれも買いたたきの違反行為事例として示されています[1]。目標そのものの立て方はコストダウン目標の決め方、要請する側がどこまで言えるかの線はコストダウン要請の限界で扱っています。

よくある質問

提案が採用されたのに、単価が変わらない

採用の連絡と単価改定の合意が別の手続になっているためです。提案書の末尾に「本提案の採用にあたり、単価改定日と適用開始の発注分を別途ご指定ください」の 1 行を入れておくと、採用のときに同時に決まります。

自社の原価を開示せずに提案できるか

できます。開示するのは削減額であって、原価の内訳ではありません。前掲の 3 通りのうち発注単価を置く形にすれば、双方が知っている数字だけで提案書が成立します。ただしその場合、なぜ下がるのかの説明は工程や仕様の言葉で書く必要があります。

効果を後から測れないと言われた

測る単位を提案書の中で決めていないためです。1 個あたりの単価差なのか、月あたりの支払額なのか、工数なのかを 1 つに決め、比較する期間も書きます。「切替後 3 か月の平均を、切替前 12 か月の平均と比べる」まで書いてあれば、後から誰が見ても同じ数字になります。

金額の小さい提案は、まとめて出してよいか

決裁基準を下回るものはまとめたほうが通ります。ただし、まとめるのは同じ意思決定者・同じ適用時期のものだけにします。設計変更を伴うものと、発注ロットの見直しだけで済むものを 1 枚にすると、承認の速い案が遅い案に引きずられます。

提案書は誰宛に出すのか

その金額を決裁できる人が誰かを先に確かめます。窓口の購買担当に出すのは正しい手順ですが、担当者が決裁できない金額であれば、担当者が上に上げるための材料が必要です。本記事の 7 項目は、そのまま「担当者が転送できる形」を意図しています。

実務で起きやすい不備

効果の起点が 2 つある……単価改定日と、実際に安い材料に切り替わる日が別なのに、提案書が 1 つの日付しか持っていない。切替日と単価適用日を分けて書きます。

在庫の扱いが抜ける……旧仕様の在庫や仕掛が残っているのに、切替日だけ決めてしまう。残数と消化見込みを書き、それが終わるまでは旧単価が続くことを明記します。

初期費用の負担者が書いていない……金型改修費を誰が持つのかが空欄のまま回覧される。負担者が決まらない提案は、内容が良くても決裁に上がりません。

比較の年度がずれている……現行原価は昨年度の実績、変更後は今年度の材料価格で計算している。同じ時点の価格で揃えます。

まとめ

コストダウン提案書は、案を説明する紙ではなく、決めてもらうための紙です。現行原価をどの数字に置いたかを明示し、変更後原価を同じ置き方で並べ、差額は前提数量を添えて年間で示し、初期費用は 1 単位あたりの内訳まで書き、回収期間を複数の前提で並べる。品質と納期は影響の有無ではなく確かめ方を書く。そして適用開始時期は、単価改定日以降の発注分からという形で書く。この 7 つが揃えば、担当者はそのまま上に転送でき、決裁者はその場で判断できます。

逆に、この 7 つのどれか 1 つでも空いていると、良い案でも「検討します」で止まります。止まっているのは案ではなく紙のほうだと考えると、直す場所がはっきりします。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  3. 「原価計算基準」における費目別計算の意義と解釈上の留意点(山本宣明/LEC 会計大学院紀要 第 15 号/2018 年)
  4. No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示(国税庁)
  5. 租税特別措置法(第 67 条の 5 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  6. No.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)(国税庁)

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