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投稿日:2026年10月2日

リチウム電池を含む部品の調達と輸送——試験概要書と空輸の充電率 30%

この記事のポイント(結論先出し)

リチウム電池を使う部品や製品を買うとき、発注の段階で決めておかないと輸送の段階で止まる項目がある。リチウム電池は輸送上、危険物(クラス 9)に分類され、電池の型式ごとに国連の「試験方法及び判定基準のマニュアル」第 III 部 38.3 節の試験に合格している必要がある[1][2]。電池・製品の製造者とその後の販売者は、その試験概要書(テストサマリー)を求めに応じて出せるようにしておかなければならない[1][2]。航空輸送では 2026 年 1 月 1 日から、機器と同梱するリチウムイオン電池のうち、IATA の梱包要領(PI 966)の第 I 節で出すものと、第 II 節で出す 2.7 Wh を超えるものも充電率 30 % 以下で出すことが求められる[1]。試験を受けていない試作品の空輸には当局の承認が要り[1]、損傷した電池や安全上の理由で回収中の電池は空輸できない[1]。電池の型式を変えると試験のやり直しが必要になる場合があるので、変更の連絡を取引の条件に入れる[1]。

なぜ調達の担当者が輸送の規則を知る必要があるか

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電池を内蔵した計測器、無線の端末、電動工具、データロガーなどを買うとき、購買の担当者は性能・価格・納期を見て発注する。ところが、リチウム電池を含む品物は、輸送の規則で出荷の条件が細かく決まっている。仕入先が書類を用意していない、充電率を下げずに梱包した、試作品を普通の航空便で送ろうとした、といった理由で、出荷や受け取りの段階で止まることがある。

産業用リチウム二次電池の JIS C 8715-2(2024 年改正)は参考の附属書で、リチウムイオン電池の単電池(セル)・モジュール・電池パック・電池システムは国際民間航空機関(ICAO)、国際航空運送協会(IATA)、国際海事機関(IMO)などに規制されており、国際輸送の規制は「危険物輸送に関する国連勧告」が基本で、試験の要求事項は「試験方法及び判定基準のマニュアル」に規定されていると説明している。規制は改正されることがあるので最新版を参照するよう促している[3]。携帯用の電池の JIS C 62133-2(2020 年制定)も、同じ趣旨を書いている[4]。

この記事では、航空輸送の規則を整理した IATA の 2026 年版ガイダンス(ICAO の技術指針 2025〜2026 年版と IATA 危険物規則 第 67 版に基づく)[1]と、米国の危険物規則(49 CFR 173.185)[2]を使って、発注の時点で決めておくことに絞って書く。なお IATA のガイダンス自身が、案内のための資料であり規制への適合の根拠として頼るべきではないと断っている[1]。実際の出荷では、使う輸送手段の現行の規則で確かめる。

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どの区分に当たるか――UN 番号は 4 つ

リチウム電池は危険物のクラス 9(その他の危険物)に分類され、電池の種類と、機器との関係で UN 番号が分かれる[1]。

  • UN 3090:リチウム金属電池(主に一次電池。腕時計、計算機、カメラ、データロガーなど)
  • UN 3091:機器に内蔵された、または機器と同梱したリチウム金属電池
  • UN 3480:リチウムイオン電池(充電できる二次電池。ポリマー電池を含む)
  • UN 3481:機器に内蔵された、または機器と同梱したリチウムイオン電池

ここでいう「機器」は、その電池が動かすための装置である。IATA のガイダンスは、AC アダプターやケーブルとリチウムイオン電池だけを入れた荷物は「機器と同梱」には当たらず、電池単体(UN 3480)として扱うと例を挙げて説明している[1]。モバイルバッテリーのように別の機器に電力を供給するための製品も、機器ではなく電池として扱われる[1]。

同じ製品でも、電池を本体に入れて出荷するか、別にして同梱するかで区分と条件が変わる。発注書には、電池を組み込んだ状態で納品するか、別にして同梱するかを書く。

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型式試験(UN 38.3)と試験概要書

電池の型式は、国連マニュアル第 III 部 38.3 節の試験に合格していなければならない。米国の規則は、各リチウムセル・電池は 38.3 節の基準を満たすことが証明された型式でなければならず、電池を構成するセルが試験済みの型式であっても、電池としてこれらの試験の対象になるとしている[2]。

規則が求めているのは、型式が試験に合格していることと、その試験概要書を出せる状態にしておくことである。IATA のガイダンスと米国の規則は、セル・電池の製造者とその後の販売者(ボタン電池だけを機器に組み込んだ場合を除く)に、試験概要書を提供できるようにしておくことを求め、記載項目として次の 10 項目を挙げている[1][2]。

1. セル・電池・製品の製造者名
2. 製造者の連絡先(住所・電話・電子メール・ウェブサイト)
3. 試験所の名称と連絡先
4. 試験報告書の固有の識別番号
5. 試験報告書の日付
6. セル・電池の説明(リチウムイオンかリチウム金属か、質量、ワット時定格またはリチウム量、外観の説明、型式番号)
7. 実施した試験と結果(合格・不合格)の一覧
8. 該当する場合、組電池の試験要件への言及
9. 使った国連マニュアルの改訂版と修正への言及
10. 情報の有効性を示す責任者の氏名と役職

IATA のガイダンスは、試験概要書は求めに応じて提供すればよく、出荷のたびに紙で添える必要はないこと、ウェブサイトに置いて電池・包装・輸送書類に QR コードや URL を示す方法も認められることを説明している[1]。試験概要書に有効期限はなく、型式が試験のやり直しを要するほど変わらない限り有効とされる[1]。決まった様式もない[1]。

米国の規則は、セル・電池の製造者に、試験の記録(試験報告書など)をその設計が輸送に供される間とその後 1 年保存し、政府の求めに応じて提示することも求めている[2]。また、2024 年 5 月 10 日以降、リチウムイオン電池は外装にワット時定格を表示しなければならない[2]。ワット時定格は、定格容量(Ah)に公称電圧を掛けて求める[1]。電池や製品への表示を発注でどう指定するかは、部品の識別表示の記事で扱う。

受け取った試験概要書で確かめること

発注時に試験概要書を求め、次を確かめる。型式番号が、買う電池(または電池を組み込んだ製品)と一致しているか。製品の試験概要書なら、その製品に使われている電池の情報が載っているか。使った国連マニュアルの版が書かれているか。試験結果が全項目合格か。複数の電池を一つの概要書にまとめることは認められているが、全ての記載項目がそろっている必要がある[1]。

電池の型式が変わったら、試験のやり直しが要ることがある

電池の仕入先が、価格や供給の都合でセルを替えることがある。IATA のガイダンスは国連マニュアルの規定を引いて、試験済みの設計と次の点で違うセル・電池は新しい型式とみなし、試験が必要としている[1]。

  • 一次電池:正極・負極・電解液の質量が 0.1 g または 20 % のいずれか大きい方を超えて変わる
  • 二次電池(充電式):ワット時が 20 % を超えて変わる、または電圧が 20 % を超えて上がる
  • 試験結果に大きく影響しうる変更

最後の「影響しうる変更」の例として、正極・負極・セパレータ・電解液の材料の変更、保護装置(ハードウェアとソフトウェア)の変更、安全弁などの安全設計の変更、セルの数や接続方法の変更、純正でない部品による修理・再生などが挙がっている[1]。

発注側としては、電池の仕入先に「セル・保護回路・セル数・接続方法を変えるときは事前に知らせ、新しい型式の試験概要書を出すこと」を取引の条件として書いておく。製品メーカーから電池入りの製品を買う場合も、同じ条件を製品メーカー経由で電池メーカーに流してもらう。変更の扱いの考え方は量産承認の記事と同じである。

航空輸送の充電率――2026 年 1 月からの変更

航空輸送では、電池の充電率(定格容量に対する充電量の割合)に制限がある。IATA のガイダンスによると、2026 年 1 月 1 日から、機器と同梱するリチウムイオン電池と、リチウムイオン電池で動く車両なども、充電率を下げて出すことが求められるようになった[1]。区分ごとに整理すると次のとおりである。

区分(IATA の梱包要領) 充電率の扱い(2026 年) そのほかの主な制限
リチウムイオン電池単体(UN 3480・PI 965) 30 % 以下。超える場合は出発国と運航者の国の承認が必要 旅客機では承認がない限り輸送できない
機器と同梱(UN 3481・PI 966)第 I 節 30 % 以下(2026 年 1 月 1 日から) 超える場合は出発国と運航者の国の書面の条件による承認が必要
機器と同梱(UN 3481・PI 966)第 II 節 ワット時定格が 2.7 Wh を超えるものは 30 % 以下 超える場合は第 I 節の規定と承認による
機器に内蔵(UN 3481・PI 967) 義務ではないが、30 % 以下(または表示容量 25 % 以下)を強く推奨 ―
リチウム金属電池単体(UN 3090・PI 968) ― 旅客機の貨物としては輸送できない(特別な承認の場合を除く)

出典は IATA のガイダンス[1]。定格容量の求め方は国連マニュアル 38.3.2.3 に方法が示されている[1]。充電率を下げると熱暴走(電池が自己発熱を止められなくなる現象)が起きにくくなる、というのが制限の理由とされている[1]。

発注で決めておくことは次のとおりである。

  • 空輸で受け取る可能性があるなら、出荷時の充電率(30 % 以下など)を発注書に書く。電池を同梱する製品で 30 % 以下が求められる区分に当たる場合は、仕入先の工程で充電率を下げる作業が要る
  • 受け取ってすぐ使う必要がある場合(充電せずに使いたい場合)は、空輸をやめるか、受入後の充電の工程を自社で持つかを決める
  • 電池単体の追加購入(交換用など)は、旅客機に載らないことを前提に納期を見込む

試作品と、不具合品の返送

試験前の試作品

開発中の電池や少量生産の電池は、まだ 38.3 節の試験を受けていないことがある。IATA のガイダンスは、試験のために輸送する量産前の試作品や、年間生産数が 100 個以下の少量生産品で試験を受けていないものは、出発国と運航者の国の当局の承認を得て、所定の梱包要領に従えば貨物機で輸送できるとしている[1]。米国の規則にも、少量生産品(年間 100 個以下)と試験のために輸送する試作品について、梱包などの条件付きで試験と記録の要件の例外を認める規定がある[2]。

どちらも、試験なしで普通に送れるという意味ではない。試作品を仕入先から航空便で受け取る計画なら、発注の時点で輸送の方法と手続きの担当を決める。

不具合品の返送

安全上の理由で製造者が不良と判断した電池や、損傷して発熱・発火・短絡のおそれがある電池(安全上の理由で製造者に返送するものなど)は、航空輸送が禁止されている[1]。米国の規則は、こうした電池を道路・鉄道・船舶でのみ輸送でき、個別の非金属の内装、不燃性・非導電性・吸収性の緩衝材、外装への「損傷・不良のリチウムイオン電池」の表示などを求めている[2]。一方、IATA のガイダンスは、充電表示の LED が点かない、ラベルの型式番号が違うといった安全以外の不具合の電池や、電池以外の不具合で返品する機器は、空輸が禁止されないと説明している[1]。

受入で電池の不具合が見つかったときの返送の方法(誰が、どの輸送手段で、費用はどちらが負担するか)は、取引の条件として先に決めておく。返品の扱い全般は受領拒否・返品・やり直しの記事にまとめてある。

輸送の規則とは別に、製品としての安全を確かめる

38.3 節の試験は輸送の安全のための試験で、製品として使うときの安全はそれとは別の規格で確かめる。携帯機器用の電池なら JIS C 62133-2、産業用の電池なら JIS C 8715-2 がある[3][4]。電池を組み込んだ製品全体の振動・衝撃への耐性を確かめたい場合の条件の決め方は、振動・衝撃試験の記事で扱う。

二つの規格には、調達の場面で使える要求がある。JIS C 62133-2 は、単電池と組電池の製造業者に、型式ごとの生産工程について、材料・構成部品と検査手順を指定する品質計画を策定し実施することを求めている[4]。JIS C 8715-2 は、単電池の製造業者に、上限充電電圧・最大充電電流・上限充電温度などの使用範囲を単電池の仕様書に書くことを求め、電池パックや電池システムの製造業者に対する安全上の予備知識としている[3]。電池パックを外部に作らせる場合は、使っているセルの仕様書(使用範囲が書かれたもの)と、パックの製造業者の品質計画を出してもらう。

国内で販売する製品では、電気用品安全法の対象になるかどうかも確かめる。その考え方は電気用品安全法の対象品の調達の記事で扱った。EU に出す製品なら、EU 電池規則の記事で扱った区分と期日も関係する。

互換バッテリー・代替品への切り替え

純正品より安い互換バッテリーへの切り替えを仕入先から提案されることがある。製品評価技術基盤機構(NITE)は 2024 年 6 月、2014 年から 2023 年までの 10 年間に通知された製品事故情報のうち、非純正バッテリーによる事故が 235 件あり、そのうち 227 件が火災事故に発展したと公表した。この件数には、関与が確認されたものだけでなく、状況から関与が疑われるものも含まれる[5]。NITE は、非純正バッテリーの中には安全保護装置の設計や品質管理が不十分なものがあり、事故が起きたときに事業者の対応や補償を受けられない場合もあると注意を促している[5]。

代替品を検討するなら、少なくとも次を出してもらう。代替品の型式の試験概要書(38.3 節)、製品安全の規格への適合を示す試験報告、セルの仕様書、製造業者の連絡先。事故のときに連絡が取れる相手かどうかも、価格と同じ重さで見る。

よくある質問

「UN 38.3 認証」の証明書を出すよう仕入先に頼んでよいですか

求めるべきものは、規則が定める試験概要書である[1][2]。決まった様式はないので[1]、名前ではなく、10 の記載項目がそろっているかで確かめる。試験報告書の本体も見たい場合は、試験所名・報告書番号・日付をもとに提示を求める。

電池を内蔵した製品を少量だけ買います。それでも試験概要書は要りますか

試験概要書を提供できるようにしておく義務は、ボタン電池だけを機器に組み込んだ場合などを除き、電池を内蔵した機器にも及ぶとされている[1]。輸送会社や当局が求めることもあるので、購入時に受け取っておく。

船便なら充電率は気にしなくてよいですか

この記事の充電率の表は航空輸送の規則の整理である[1]。船便や陸送の条件は、それぞれの輸送手段の規則で確かめる。輸送手段が混在する場合(工場から空港まではトラック、など)は、最も厳しい区間の条件で出荷の状態を決める。

まとめ

リチウム電池を含む品物は、発注の段階で輸送の条件を決めておく。電池の型式は国連マニュアル 38.3 節の試験に合格している必要があり、製造者と販売者は 10 項目の試験概要書を出せる状態にしておく[1][2]。電池の材料・保護回路・セル数などを変えると新しい型式とみなされうるので、変更の連絡を条件にする[1]。空輸では 2026 年 1 月から、機器と同梱するリチウムイオン電池も、第 I 節のものと 2.7 Wh を超える第 II 節のものは充電率 30 % 以下が求められる(機器に内蔵した電池は推奨にとどまる)[1]。試験前の試作品の空輸には当局の承認が要り、損傷・不良の電池は空輸できない[1][2]。製品としての安全は JIS C 62133-2・JIS C 8715-2 の品質計画や使用範囲で確かめ[3][4]、互換品への切り替えは事故の実績も踏まえて判断する[5]。

出典・参考資料

  1. Battery Guidance Document: Transport of Lithium Metal, Lithium Ion and Sodium Ion Batteries, Revised for the 2026 Regulations(国際航空運送協会 IATA/2026 年 1 月 1 日)
  2. 49 CFR 173.185 Lithium cells and batteries(米国連邦規則集・電子版 eCFR/2024 年 5 月 10 日改正時点)
  3. JIS C 8715-2:2024 産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム-第2部:安全性要求事項(日本産業標準調査会 JIS 検索で本文を閲覧)
  4. JIS C 62133-2:2020 アルカリ蓄電池及びその他のアルカリ以外の電解質を含む蓄電池-ポータブル機器に使用する可搬形密閉二次電池及びそれから構成される組電池の安全性要求事項-第2部:リチウム二次電池(日本産業標準調査会 JIS 検索で本文を閲覧)
  5. 「低価格・高リスク」の非純正バッテリーに注意~建物が全焼に至った火災も~(製品評価技術基盤機構 NITE/2024 年 6 月 27 日)

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