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投稿日:2026年8月28日 | 更新日:2026年8月31日

代金を後から下げる——減額に当たる行為と、当たらない行為

この記事のポイント(結論先出し)

発注時に決めた代金を後から下げる行為は、取適法の第 5 条第 1 項第 3 号で禁じられている。判定の物差しは名目でも金額の大きさでもなく、「相手方に責任があるかどうか」ただ一点である。歩引き、協力金、システム利用料、振込手数料、1 円以上の端数切捨て、新単価の遡及適用は、どれも違反として扱われた実例がある。差し引くことに事前の合意があっても違反は成立するため、契約書に書いてあることは防御にならない。とくに振込手数料は 2026 年 1 月から扱いが変わり、書面合意があっても実費の範囲でも差し引けなくなった。

禁じられているのは「減ずること」そのもの

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取適法(中小受託取引適正化法)の第 5 条第 1 項第 3 号は、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずることを禁じている[1]。条文はこれだけで、金額の下限も、差し引き方の限定も置かれていない。

公正取引委員会と中小企業庁が公表しているテキストは、この規定を「歩引き」や「リベート」等の名目、方法、金額の多少を問わず、発注後いつの時点で減じても違反になると説明している[1]。つまり、支払処理の直前に引くのも、翌月の請求からまとめて引くのも、扱いは同じである。

同じテキストには、これまでに違反とされた減額の名目が列挙されている。歩引き、仕入歩引、不良品歩引き、分引き、リベート、基本割戻金、協定販売促進費、特別価格協力金、販売奨励金、販売協力金、一時金、オープン新店、協賛金、決算、協力金、協力費、値引き、協力値引き、協賛店値引、一括値引き、原価低減、コストダウン協力金、支払手数料、手数料、本部手数料、管理料、物流及び情報システム使用料、物流手数料、センターフィー、品質管理指導料、年間、割引料、金利といったものである[1]。30 を超える言い方が並んでいること自体が、名目で判定されていないことの証拠になっている。

減らし方も限定されない。代金から差し引く方法のほか、委託事業者の金融機関口座へ減額分を振り込ませる方法も「減ずること」に含まれると明記されている[1]。支払額そのものは満額でも、別途返金させれば同じ結果になるからである。

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合意していても違反は成立する

実務でいちばん誤解されているのがここである。テキストは、仮に当事者間で代金の減額についてあらかじめ合意があったとしても、相手方の責めに帰すべき理由なく減ずる場合は違反になると述べている[1]

Q&A ではさらに具体的に問われている。事前に契約書等の書面で「歩引きとして 5%を代金の額から差し引く」と定めていた場合はどうか、という問いに対して、公正取引委員会は書面化していても問題となると答えている[1]。取引条件として双方が署名していても、規制の側からは救われない。

この構造は買いたたきの規制とは異なる。買いたたきは「通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定める」ことが問題になるので、価格そのものの水準と決め方が争点になる。減額は、いったん決めた額を後から下げること自体が問題になるので、水準は関係ない。価格の決め方の側については買いたたきと価格転嫁の協議応諾義務で別に整理している。

振込手数料は 2026 年 1 月から扱いが変わった

改正前の下請法では、振込手数料を受注側が負担する旨の書面合意があれば、発注側が負担した実費の範囲内で差し引くことが認められていた。2025 年 8 月 21 日の改正ポイント説明会の資料では、この運用が改められることが改正前後の対比で示されている[3]。企業取引研究会において、代金の振込手数料は発注者が負担することが合理的な商慣習であるとの意見があり、報告書で運用基準の見直しが結論づけられた、という経緯が説明されている[3]

項目 改正前(下請法) 2026 年 1 月以降(取適法)
書面合意がある場合 実費の範囲内なら差引き可 合意の有無を問わず差引き不可
口頭の了解がある場合 差引き不可 差引き不可
実費を超えて差し引いた場合 超過分が減額 全額が減額
判定の物差し 書面合意と実費の 2 段構え 負担させたかどうかの 1 段

テキストの Q&A も、相手方の了解を得たうえで振込手数料を差し引くことについて、負担する旨の合意の有無にかかわらず違反として問題となると答えている[1]。改正の解説ページでも、電子記録債権やファクタリングの規制と並べて、振込手数料を中小受託事業者に負担させることの禁止が挙げられている[5]

支払通知書や支払明細で「振込手数料」の行を立てている運用は、そのまま違反の記録になる。明細の作り方については支払通知書(仕入明細書)で扱っている。

入れ替わったのは振込手数料の扱いだけではない。手形払の禁止や協議に応じない一方的な代金決定の禁止など、同じタイミングで加わった規制がいくつもある。この 1 行だけを直して終わりにしないよう、2026 年改正で何が変わったかで差分を通しで見ておきたい。

違反とされた減額の型

テキストは製造委託・修理委託の違反行為事例として 11 の型を挙げている[1]。名目を並べただけでは自社の運用と結びつかないので、行為の中身で整理する。

実際に行われたこと 社内での呼ばれ方
一定額の差引き 安値受注、水害の損害、支払サイト短縮、値引きセールを理由に一定額を引いた 協力金、輸出特別処理
遡及適用 単価引下げの合意日より前に発注した分にも新単価を当てた 単価改定
歩引き 自社の利益確保のため代金に一定率を掛けた額を引いた 歩引き
金利引き 現金払を希望した相手から割引料を引いた 現金割引
納期遅れ 一方的に短縮した納期に間に合わなかったことを理由に引いた 遅延ペナルティ
数量の上乗せ 総額を据え置いたまま現品を添付させて納入数量を増やした キャンペーン協力
交渉への報復 単価改定の要請に応じない相手に対して代金を減じた 出精値引き
達成リベート 単位コストの低減効果がないのに目標達成分を自社口座へ振り込ませた 達成リベート
システム利用料 電子受発注システムの導入費用を「オンライン処理料」として引いた EDI 利用料
振込手数料 口座振込の手数料を相手に負担させて代金から引いた 振込手数料
端数の切捨て 支払時に 100 円未満の端数を切り捨てた 端数処理

受発注システムの費用を相手から取れるか

この論点は、電子受発注の導入が進むほど増える。テキストは、委託事業者が電磁的記録の提供を行うこととした場合に、システム開発費、保守費、発注情報の提供に要する費用など本来委託事業者が負担すべき費用をシステム利用料等として代金から徴収している場合や、システムが稼動していないのに利用料を徴収しているなど単に名目で徴収しているにすぎない場合は、減額に該当すると述べている[1]。あわせて、4 条の明示義務は委託事業者にあることに留意せよ、という注記が付いている[1]

違反行為事例の 9 番目は、日用品等の製造委託で、自社の発注業務の合理化を図るために電子受発注システムを導入し、相手方が得る利益がないにもかかわらず「オンライン処理料」と称して代金を減じたものである[1]相手方に利益があるかどうかが分かれ目になっている点は押さえておきたい。発注側の効率化のための投資を、受注側の代金から回収してはならない。

端数はどこまで丸めてよいか

支払時点で代金の額に円未満の端数があった場合、四捨五入でも切捨てでも、代金を減ずる行為とはみなされない[1]。テキストは具体的な数字で示している。代金が 1,008,005 円 80 銭であれば 1,008,005 円とすることは問題ない。ただし 1,008,000 円とするなど1 円以上の単位で切り捨てる場合は違反になる[1]

10 円未満、100 円未満の切捨てを支払システムの既定値にしている会社は少なくない。この設定は、消費税計算の端数処理とは別の話なので、支払データを作る側で明示的に確認しておく必要がある。

単価改定はどの発注分から効くか

新単価を適用できるのは、協議により単価改定が行われた時点以降に発注する分からである[1]。Q&A では 2 つの誤りが示されている。

ひとつは、7 月 1 日に「本年 4 月 1 日発注分から引き下げた新単価を遡って適用する」と合意し、そのとおり適用する場合。もうひとつは、6 月 1 日に「本年 7 月 1 日納品分から新単価を適用する」と合意し、合意前に発注していた 7 月 1 日以降の納品分に新単価を当てる場合である。どちらも減額として問題になる[1]。後者は「納品時期を基準にしてしまう」という起こりやすい間違いで、テキスト自身がその点に留意するよう促している[1]

期首から新単価を使いたいのであれば、その期首に発注される時点までに新単価を決めておく必要がある、というのが公正取引委員会の整理である[1]。交渉が長引いて期の半ばに合意した場合、期首に遡ることは合意があっても認められない[1]。あわせて、新単価を記載した見積書が相手から提出されただけでは合意したことにならないとも書かれている[1]。見積書の受領を合意の証跡にしている運用は、この一文で否定される。見積の受け方そのものは相見積の運用で扱っている。

減額が認められるのはどういうときか

相手方の責めに帰すべき理由があるとして代金を減ずることが認められるのは、受領拒否が認められる理由がある場合と、返品が認められる理由がある場合の 2 系統に限られる[1]。それぞれについて、さらに 2 つの型が定められている。

受領拒否系では、その理由があるとして受領を拒んだ場合に、その給付に係る代金の額に限って減ずることができる。受領はしたが、理由がある旨をあらかじめ伝えたうえで受領し、委託内容に合致させるために発注側が手直しをしたとき、または委託内容と異なることや納期遅れによる商品価値の低下が明らかなときは、客観的に相当と認められる額に限って減ずることができる[1]。返品系も同じ構造で、引き取らせた場合はその代金の額まで、引き取らせずに手直しした場合などは相当と認められる額までである[1]

ここで効いてくるのが「あらかじめ伝えたうえで」という条件である。黙って引いてから理由を説明する順序では要件を満たさない。受領拒否と返品それぞれの成立条件は受領拒否・返品・やり直しで詳しく扱っている。

Q&A には、物品を預けて加工だけを委託する形態の例がある。不良品を引き取らせずに代金から差し引きたい、という問いに対して、受領後に遅滞なく検査を行わず、後日不適合が判明した際に直ちに通知せずに自社で所有し続けたうえで差し引く場合は、相手方の責めに帰すべき理由があるとは認められないと答えている[1]。検査の遅れが、そのまま減額の根拠を失わせる。

減額に当たらないもの

「減ずること」に当たらないと明示されているのは、相手方に販売した商品等の対価や、貸付金等の弁済期にある債権を代金から差し引くことである[1]。独立した債権の相殺は、代金そのものを削っているわけではないという整理になる。

ボリュームディスカウントの 4 条件

割戻金のうち、減額に当たらないと認められているのはボリュームディスカウントだけである[1]。認められるには 4 つの条件をすべて満たす必要がある。一定期間内に一定数量を超えた発注を達成した場合に支払う割戻金であること、割戻金の内容が取引条件として書面等で合意されていること、その書面等の記載と 4 条明示された代金の額を合わせて実際の代金の額とすることが合意されていること、4 条明示と割戻金の内容が記載された書面等との関連付けがなされていることである[1]

合理性の中身も定義されている。発注数量の増加とそれによる単位コストの低減により、割戻金を支払ってもなお相手方の利益が従来より増加することを意味する、と述べられている[1]。したがって、対象品目が特定されていない発注総額の増加だけを理由に割戻金を求めることは該当しない。単に将来の一定期間の発注予定数量を定め、実績がそれを上回っただけのものも該当しない[1]

センターフィーは納品場所で分かれる

物流センターの利用料を差し引く扱いは、代金の額を定めた際の取引条件上、本来納品すべき場所がどこまでとされているかで判断が分かれる[1]

本来の納品場所が各店舗であり、相手方がセンターを利用するかどうかを自由に選択でき、フィーの額も自由意思に基づく交渉で決まるといった事情の下で、一括納品によって物流コストの軽減という利益を得られるのであれば、フィーはサービスの対価と評価でき、差し引いても減額には当たらないとされている[1]。逆に、本来の納品場所が物流センターであれば、そこから店舗までの配送コストを相手方が負担すべき理由はなく、差し引けば減額として違反になる[1]。発注書の受領場所の書き方が、そのまま結論を決めることになる。

減額してしまったときに何が起きるか

責めに帰すべき理由がないのに代金を減じた場合、発注側には遅延利息の支払義務が生じる。減じた額に年率 14.6%を乗じ、起算日から実際に減じた額の支払をする日までの日数に応じた額を支払う[1]

起算日は、減額を行った日か、給付を受領した日から起算して 60 日を経過した日の、いずれか遅い日である[1]。支払遅延と同じ利率が適用される点は、支払期日の規制とセットで理解しておきたい。期日の数え方は支払期日 60 日と遅延利息で扱っている。

行政上の措置も軽くない。令和 7 年度の勧告 39 件のうち、代金の減額を理由とするものは 6 件あった[4]。勧告された場合に命じられる内容も定められており、減額を行っていた事案では、減じた額と遅延利息を支払うことが勧告される[1]。過去に遡って返すことになるため、金額は当初の差引き額よりも大きくなる。

減額は、勧告の類型別で見ると 2 番目に多い。どういう経路で調べられ、どの段階で社名が公表され、自分から申し出た場合にどう扱われるかは違反するとどうなるかに分けて書いた。

よくある質問

取引先から「その分は下げてくれ」と言われて応じた場合も違反ですか

相手方の申出であっても、発注時に決めた代金を発注後に減ずることに変わりはない。テキストは合意があっても違反になると明記しており[1]、申出の主体で結論は変わらない。次回以降の発注から新しい単価を適用する形にすれば、減額にはならない。

業界の慣行として続いてきた歩引きも違反になりますか

Q&A は、業界で慣行として行われていることであっても、差し引く名目にかかわらず、発注時に決定した代金の額を発注後に減ずることは違反になると答えている[1]。慣行であることは抗弁にならない。

消費税相当額を支払わないのも減額ですか

消費税・地方消費税額相当分を支払わないことは、代金の額を減ずることの例として明示されている[1]。本体価格だけを支払う運用は違反になる。

客先からキャンセルされた分を差し引くことはできますか

できない。客先からのキャンセルや市況変化等により不要品となったことを理由に、不要品の対価に相当する額を差し引くことは、減額の例として挙げられている[1]。情報成果物作成委託でも、顧客から一部のプログラムをキャンセルされたことを理由に、その対価相当額を差し引いた事例が違反として掲載されている[1]

自社が支払サイトを短くしたのだから、その分を引いてもよいのでは

これも違反行為事例に載っている。90 日後の現金払を 60 日早めて翌月末払にした事業者が、支払期日を早めたことを理由に代金から一定額を減じた例である[1]。そもそも受領日から起算して 60 日以内に支払期日を定めることは法律上の義務なので[2]、義務を果たしたことの対価を相手から取ることはできない。

この規制は自社に適用されますか

2026 年 1 月から判定の入口が二つになった。ただし並列ではない。従来どおり資本金で見て、そこで当たらなかった場合にだけ従業員数で見るという順序になっている[2][5]。減資で資本金の区分から外れた会社が従業員数で入ってくる、というのが今回の改正の狙いである。区分の一覧と当てはめは自社の取引は取適法の対象かにまとめた。資本金を減らして対象から外れる運用が課題とされていたことが、改正の背景として説明されている[5]

まとめ

減額の規制は、金額の大小でも、名目の妥当性でもなく、発注時に決めた額をそのまま払ったかどうかだけを見る。差し引く理由が社内でどれだけ合理的に見えても、相手方に責任がない限り違反になる。合意書があっても、慣行であっても、相手からの申出であっても結論は変わらない。

実務で先に手を付けるべきは、支払データの側である。支払明細に立っている控除項目を一つずつ洗い出し、それが独立した債権の相殺なのか、代金からの差引きなのかを分ける。振込手数料の行が立っていれば、2026 年 1 月以降は無条件に違反になるので、まずそこから止める。単価改定については、合意日と発注日の前後関係で新旧の単価が決まるように運用を組み替えることになる。

減額は 11 ある禁止行為のひとつにすぎず、義務の側にも 4 つの項目がある。取適法の全体像と、この記事がその中のどこに当たるかは取適法とはで見取り図にしてある。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
  3. 2026年1月施行! 下請法は取適法へ 改正ポイント説明会 公正取引委員会説明資料(公正取引委員会・令和 7 年 8 月 21 日 東京開催)
  4. 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)
  5. 取適法・振興法(公正取引委員会)

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